少年自然の家・青年の家廃止 欧米型キャンプ場に活用できないか

 8月28日の読売新聞に「中高年には懐かしい「少年自然の家」、存続の道は険しく…20年間で廃止250か所以上」という記事がでた。
 少年自然の家や青年の家は、中高年の人は、ほとんどが利用した経験があると思うが、コストや利用数、そして、建築物の老朽化等々の理由で、廃止されるところが増えているという。しかし、なかなか跡地利用が進まないとも。
 いろいろな利用形態が、現在ではあると思うが、主要には学校単位で、教師が引率する宿泊行事に活用されているのだろう。そのために、教師の負担も大きく、そのための利用の減少がある。少子化の影響もあるだろう。私も中学時代に林間学校で利用した記憶があるが、人数が私の世代の3分の1くらいになっているのだから、利用数の減少が起きるのは当然だろう。

 
 ただし、生活が都会的になってくるに従って、自然と接する機会がなくなっていくことは、やはり、子どもたちの成長にとって、好ましいとはいえない。しかし、学校の集団宿泊行事などのように、制約の多い形で、しかも教職員に多大な負担をかける取り組みは、私は止めていくべきだと思っている。その代わり、民間のキャンプ場などになって、子どもが各地からやってきて、短期間集団生活をしながら、自然に接する経験は、子どもにとって大きな成長の糧になると思う。
 アメリカでは、そうしたキャンプ場がたくさんある。専門の指導員が多数そこに所属していて、子どもたちの指導をする。ヨーロッパでも、同様にそうした施設が多数ある。ケストナーの「ふたりのロッテ」は戦前の話だから、既に20世紀初頭から行われていたし、また、「ふたりのロッテ」を戦後のアメリカに翻案した「ファミリー・ゲーム」でも、アメリカにおけるキャンプの様子がよくわかる。アメリカ映画には、たくさんそうしたキャンプシーンが出てくる。アメリカのことだから、基本は民間企業による営業として行われているのだろう。そして、そこでは、お互いに初めて出会った子どもたちが、集団的な行動を学んでいくわけである。そして、指導員たちが適切に、子どもたちの活動を援助している。
 
 しかし、日本では、こうしたキャンプはほとんどなく、これまでは学校単位のやり方に頼ってきた。だから、そこでの出会いがあるわけでもなく、活動に規制がかかるし、何よりも教師たちの負担が大きい。これを少年自然の家や青年の家を活用して、欧米のように民間がキャンプを運営するようにはできないものだろうか。
 日本にも、民間が運営し、快適に過ごせるキャンプ場は少なくない。しっかりした建物があり、自然も豊かで、諸活動が可能になっている。しかし、多くは家族単位でやってくる集団だ。子どもの集団形成としてのキャンプではない。もちろん、家族単位のキャンプも大いにけっこうだが、やはり、欧米でさかんに行われている子どもたちが主体のキャンプも、さかんになってほしいものだ。
 
 そのためには、当然いくつか乗り越えるべき壁がある。
・指導員の養成と資格認定
・キャンプ企業の存在
・社会教育行政における位置付けと社会の認識
 
 キャンプ指導員の養成については、公益社団法人日本キャンプ協会という団体が、キャンプインストラクターとキャンプディレクターという資格を認定している。しかし、その養成カリキュラムについては、家族中心のキャンプ指導であるように感じる。
 キャンプインストラクターは、10時間の理論と実技10時間で、実技は、アクティビティへの参加(5時間)、キャンプの生活技術(4時間)、キャンプの安全(1時間)という程度である。家族のキャンプであれば、親がついているので、それほど難しいことはないだろうが、初めて会う子どもたちの集団を指導する点では、とうていこれでは不足だし、そもそも実技も、現場での実習が必要だろう。
 キャンプディレクターは、2級を取得するためには、インストラクター取得後、アウトドア活動参加2回以上と、1泊以上のキャンプ指導経験1回以上、1級については、養成講習会(44時間の通信講座と36時間の集合研修)への参加、その後2日間の検定会出席が必要となっている。
 インターネットで、こうした指導者の活動や養成についての説明はあるが、私が探した限りでは、収入については、あまり情報がない。キャンプインストラクターとは?収入や資格更新・講習会情報まとめ | 資格広場 (shikakuhiroba.net) によれば、収入は低く、ディレクターになると、よければ400万程度の収入はあるとされる。しかし、やはり、キャンプ運営を主たる業務とする企業は、まだあまりないようだ。第三セクターという可能性もあるが、やはり、民間企業が行政の便宜を受けながら(既存の建物の安価な利用)、専門スタッフによって運営することが好ましい。そして、夏休みは連休を利用して、子どもだけが参加して、そこで友人をつくり、集団生活を学んでいく機会が普及してくれば、日本の子どもの状況が大きく変化するように思われる。
 
 こうしたキャンプ活動が、社会教育行政に位置づけられることが必要だろう。指導員の免許を、基本的には大学で取得するようにする、施設を安価にキャンプ企業に提供するような行政が望まれる。そして、その代わり、学校教育における集団宿泊行事を廃止することが必要である。目立たないが、教師への負担は半端ではないのだ。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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