安倍元総理が関わっていた重要な案件として、皇統問題がある。安倍氏は、何度もこの点で大きな力をもって関わっている。最初は、小泉首相(当時)が、天皇の後継者がなくなってしまう可能性を考慮して、男系男子継承を長子継承に変える皇室典範の改正をめざしていたとき、その動きを完全に潰すために、安倍官房長官(当時)が、動いたことは明確になっている。安倍氏が具体的にどのように関わったかは、もちろん明らかにされていないが、ひとつ明確になっているのは、紀子妃が男子を妊娠したときに、その胎内写真を小泉氏に見せて、この男の子の天皇になる機会を奪うのか、と迫ったことは報道されていた。そして、当時から、この妊娠については、自然な行為としての妊娠ではなく、人為的な要素がはいっていると噂されていたし、そのように語る専門家もいた。私は、政治状況の推移からみて、男女産み分け医療技術を使って、確実に男子を妊娠したと、当時から確信していた。だから、まわりのひとたちが、どちらが生まれるのか、などと話していたときに、男が生まれることになっているんだ、と断言したことを覚えている。
愛子内親王が即位できるように皇室典範を改定すれば、天皇継承資格者が、かなり増えることになる。どこまで広げるかは論議の対象だが、少なくとも現在「皇族」である人は、含まれることになるから、5人は下らないだろう。結婚した人も含めれば、もっと多くなる。だから、小泉改定が実現すれば、継承問題はほとんど解決していたし、別に悠仁親王が排除されるわけでもないのである。では、誰が、人為的な技術を使ってまで、皇室典範の改定を阻止したのかは、想像の範囲でしかないが、当然実行した秋篠宮家、そして、当時の天皇皇后が皇室内で、そして、日本会議などの男系男子主義団体が後押しし、安倍官房長官がまとめ役だったのではないかと考えるのが自然だろう。
しかし、皇室典範の改正を阻止する点では、一致していたが、立場によって、その目的は実は違っていた。
皇室内部のひとたちの思惑は、皇太子一家から皇統を秋篠宮家に移すことが目的であり、安倍氏や日本会議では、男系男子の系統を維持するというイデオロギーに立っていた。目的としては異なっているが、とにかく、当面の利害が一致して、協力が行われたのであろう。そして、当初は、すくなくとも、表向きでは、このふたつの目的は矛盾していなかった。皇太子一家は、大きな批判に晒され(といっても男系男子派の宣伝だったが)、皇太子を退位せよとまで雑誌に書かれていた。そうした圧力を受けて、雅子妃は適応障害を患うことになる。他方秋篠宮は、活発に公務をこなす申し分ない天皇候補であるように広められていた。そして、天皇が生前退位して、生前退位を制度化し、皇太子が即位しても、すぐに退位を強制して、秋篠宮が即位するという図式を描いたわけである。しかし、ここで、安倍氏と上皇・上皇后および秋篠宮との間に、重大な相違が生まれた。それは、安倍晋三氏が、生前退位は一代限りの例外とすることに固執し、上皇側の意図をくじいたからである。この理由が、私には、いまだにすっきりと理解できないでいる。おそらく、安倍氏としては、当時の皇太子が即位して、その後秋篠宮に移れば、男系男子が守られるので、無理に永続的に制度を変える必要はない、と考えたのだろうと想像はできる。なにしろ、男系男子派にとっては、天皇は一系で続いてきたことが重要だから、「作為」などは、あってはならないことなのに違いない。
そして、大きな状況の変化が起こった。
秋篠宮家は、長女の結婚問題だけではなく、悠仁親王の作文、高校入学問題等で、国民の批判に曝されるようになり、今や天皇家と秋篠宮家の国民的評価は、平成時代とは完全に逆転した。上皇や上皇后は、平成時代のような影響力がなくなっているだけではなく、税金の使いかた等で、かなり国民の批判意識も強くなっている。したがって、男系男子派は、国民の批判の強い秋篠宮に皇統を移すことへの抵抗感にも、対応しなければならなくなっている。
詳細に追っているわけではないが、強硬な男系男子派は、多くが「専門家」と称するひとたちであって、政治家としては、安倍晋三氏以外には、あまり見当たらないのである。平沼赳夫氏のような人物もいるが、老齢であり、政治的影響力がそれほどあるとは思えない。従って、自民党が、長子継承というもっとも合理的な制度への舵を切らなかったのは、実力者安倍晋三氏がいたからこそだと考えられる。
他方、国民の世論調査では、女性天皇、女系天皇いずれも、7割以上が賛成している。この調査傾向は、ここ数年まったく変化がない。つまり、ごく一部の政治勢力の、時代遅れな感覚が、国民の圧倒的多数のごく当たり前の感覚を押し退けて、継承問題が政治舞台では議論されているのである。
これが、安倍氏の死去で変化するのだろうか。
さて、皇位継承問題の議論で、いつも極めて不思議なのは、野党の主張がわからないことである。
立憲民主党は、岸田内閣への有識者会議の報告書が出たあと、「女性・女性天皇も含めて、党として検討する」という「検討」に留まった見解を公表している。これから検討するのかという、いかにも普段からものごとを考えていないのではないかと疑ってしまう。
国民民主は、安定的継承を議論すべきだとする見解、維新は、「いろいろな意見があるので検討」としており、結局、明確に女性・女系天皇を認めるべきとしたのは、共産党のみである。
皇位問題は、重要な憲法問題なのだから、野党として避けてよい課題ではないはずである。