朝日の社説が、「マイナンバー 地方交付税ゆがめるな」と題して、地方ごとのマイナンバーカードの普及に応じて、地方交付税の交付を反映させることに、強く反対している。そして、ポイントをつけたりする経費についても批判している。まったく同感だ。
これは「金子恭之総務相は19日、自治体ごとのマイナンバーカード普及率に応じ、来年度から国が配る地方交付税の算定に差をつける方針を明らかにした。」(共同通信6.19)という政策への批判である。
そもそも、マイナンバーというシステムについての、まったく曖昧な状況が最大の問題であり、だからこそ、マイナンバーカードが普及しないし、普及しないだけでなく、とくに便利になったという実感がなく、返って面倒くさいという感じなのだ。
これまでに何度か書いたのだが、再論になる。
もっとも基本的な問題は、マイナンバーというシステムに、明確な制度設計がなされていないことだ。これまでに、何度も似たような番号システムが創設されては、活用されないまま消えていった。以前、「住民基本台帳コード」という番号があった。私は、いまでも控えているが、これを使って何か行政事務をした記憶がない。つまり、番号を割り当てられたけれども、一度も使っていないのだ。市役所に住民票を取りにいったり、あるいは、戸籍謄本を取りにいっても、住民基本台帳コードなど求められない。
納税者番号というのもあるが、これは勤務していたときには、まったく使わなかった。国民年金のための番号などは、また別になる。
本当に、国民の便宜と国家による管理を合理化するために、番号システムを使うのならば、一種類でいいはずであり、複数あったら混乱するだけだ。どれでもいいのだが、例えばマイナンバーを使うとして、他の番号は、コンピューターのデータシステムのなかに、国民年金番号→マイナンバーへの転換データをいれておけばいいだけのことだ。そして、一定期間で、国民年金番号などは廃止すればいいのだ。そうすれば、ある期間内に、すべての統一番号ができる。複数の番号を無理に設定するから、国民のなかに、マイナンバーを重要視する意識が生まれないのである。更に、確定申告でマイナンバーカードを使っているが、極めて不便で、その都度面倒な思いをしている。
このように複数のナンバーがあることが、活用を阻害しているわけだが、マイナンバーに関していえば、番号とカードとの関係が、更に活用を悪化させている。マイナンバーのシステムからいえば、「番号」が重要であって、それがカードである必要はない。カードを普及させて、マイナンバーのシステムを活用しようという、政府の目論見があるようだが、そんなことは、害があるだけだ。マイナンバーカードを読み取る装置に、番号をうちこめるような仕組みをあわせれば、カードがない人は、番号を自分でうちこむようにすればよい。現在は、カードの普及がまだ小さいから、マイナンバーという制度そのものが活用されにくいとされている気がする。番号が本質であり、カードを使うか、番号入力を使うかは、単なる手段の問題にすぎない。それをカードの有無が大事であるかのように、行政が示しているのは、単なる勘違いなのか、あるいは、何か別の意図、例えばカードシステムを扱う企業への忖度なのか、とにかく、根本的な間違いである。カードで処理したとしても、サーバー上では、番号で処理している。カードがないと、便利な機能は使えないというのは、まったくマイナンバーの趣旨に反している。
使う側にもいろいろな人がいるはずだ。カードだと便利だという人もいれば、カードはなくすことかあるから心配だ、番号のほうが記憶してしまえば、なくすこともないし、簡単にうちこめるから、特に面倒でもないという人もいるだろう。紙やコードを紛失してしまうこともあるから、その場合の再発行などが必要となるが、それは両方ともありうることで、予め対応システムが必要であろう。
私は、番号で国民の経済活動を処理して、国家的に管理することに、基本的に賛成しているが、逆にだからこそ、現在のマイナンバーカードに関わる行政には、強い疑問を感じている。まして、カードの普及で、地方交付税交付金の差別化をするなど、言語道断である。