ウクライナ雑感 ロシア派住民

 「世に倦む日々」というブログに次のような書き込みがあった。
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ツイッター社から言論統制を受けた。初めての経験である。その経過の報告をしたい。6月26日にNHK-BS1のワールドニュースの動画を紹介した投稿を発したところ、翌27日夕刻には 引用ツイート を見られなくされた。その投稿には、ツイッター社から「センシティブな内容が含まれている可能性があるため、このツイートに警告を表示しています」のアラームが付された。アラームの記載は外からは見えないが、外部の視線からは、リンクした動画が隠され、「センシティブな内容が含まれている可能性のあるメディアです」と要注意の勧告が示されている。
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 そのツイートは、今でも読めるが、内容は、6月24日のNHKワールドニュースで放映されたフランスのニュースのことである。早速私も見てみたが、確かに、ブログで書かれていたようなことが、放映されていた。ただ、このブログでは、リシチャンスクの住民のことだけが書かれているが、フランスのニュースでは、ロシアに爆撃されて、大きな被害を受け、死者もでたキーウのことなども同時に紹介されており、しかも、親ロ派住民のことも、たんたんと報道されているだけだ。しかし、日本の放送局が、自分で流す情報としては、このようなものはまったくないといえる。

 そのフランスの映像は、以下のようなことを伝えている。
・ボランティアのワゴン車が、リシチャンスクに向かい、住民たちに避難を呼びかける。しかし、応じない市民もいる。
・応じた市民は、ワゴン車に乗って避難。しかし、残った市民は、マンションに入っていく。
・親ロ派の住民(女性)が、私たちは、ロシアの味方で、ロシアによって解放されることを願っている。だから、ロシア兵に早く来てほしいと語っている。
 
 「世に倦む日々」の主張が、だから、ウクライナが間違っており、ロシアが正しいといっているわけではないし、この文章だけでは、その主張がよくわからない。それはよいとして、こうした事態をどう考えるのか。
 とにかく、ウクライナの悲劇は、国内が異なる外国(EUとロシア)と結びつこうとする勢力が対立し、抗争を繰りかえしてきたことだ。こういう国家は、歴史上いくらでもあるが、だいたい国家としてのまとまりを欠くだけではなく、外国勢力に翻弄されて、不幸を招くのがほとんどである。近くでは、19世紀から20世紀に至る朝鮮である。親ロ、親清、親日というみっつの勢力が、相互に相手の軍隊の手を借りて対峙するという事態となり、結局、日本の植民地となってしまった。そして、現在でも分断国家である。
 日本も、小さなものだったが、幕末に同じような危機があった。幕府はフランスと結び、薩長はイギリスと結んだ。もし双方が、それぞれの軍隊に出動を依頼して、戊辰戦争をはじめたら、日本も植民地になった可能性がある。しかし、英仏ともに、軍事的介入には、それほど熱心ではなく、そして、幕府のトップである徳川慶喜が、さっさと戦線から離脱してしまったことが大きい。国内の内乱状態は長く続かず、明治政府が成立して、植民地化から逃れることができた。
 
 しかし、ウクライナは独立後、ずっとふたつの勢力が政争を繰り返し、結局2014年以後、内戦状態になってしまった。とにかく、戦争をしてでも、ウクライナから独立、自立して、ロシアと結びつきたいというひとたちが、相当数いるという現実を忘れるわけにはいかない。
 そして、フランスの放送が伝えたように、ロシア軍がやってきて、自分たちを解放してほしいと願っている人々がいることを否定するわけにはいかないだろう。西側や日本の報道は、そういう親ロシア派の住民も、ロシア軍の侵攻を目の当たりにして、反ロに気持ちが変わりつつあるということにしているが、確かにそういう人もいるに違いないとしても、親ロのままの人もいるだろう。そして、住宅を爆撃しているのは、ウクライナ兵だというのが、すべて事実とは思わないが、市街戦を闘っている以上、それも否定できない。
 マリウポリやスベロドネツクでの激しい戦闘の際、ウクライナ軍が撤退できないのは、市民が残っているからだ、と言われ、高齢者など逃げることができないひとたちがいるのだ、ということになっていたが、激しい戦闘で、ロシア側に占領されている地域で、逃げないひとたちは、おそらく親ロ派の住民だろうと考えてよいのではないだろうか。親ウクライナの人であれば、戦闘の進行で逃げるだろうし、高齢者には、補助がついていたから、逃げられなかったという人は、あまりいなかったに違いない。
 フランスの放送局が、あのような映像を流した背景には、早期に停戦をさせたいという、フランス政府の立場も反映している可能性はある。しかし、こうした事実は、日本のメディアも報道すべきであろう。所謂出口戦略を考える上で、無視できない事実だからだ。
 
 しかし、だからといって、ロシアの侵攻を容認するわけにはいかない。いくら、住民がロシアの支配を望んでいるといっても、それを武力で実現することは、現在の国際法、国際関係では許されないからである。そして、ゼレンスキー政府が、親ロ派の多い地域を割譲することを認めないことも、当然である。考えられる案は、私の想像では、以下のようなものになる。
 可能性としては、闘いが長期戦になり、どちらかが明らかに劣勢となって、戦闘が終わる。しかし、それにはかなりの年数がかかる。これは解決策とはいえない。
 
 考えられるベターなものは、ロシアに政変が起こり、新政権が妥協をする。
・とりあえず、戦闘を止め、停戦する。ロシア軍が撤退するのがベストだが、国連軍の監視の下で、復興作業にとりかかり、1,2年後に、国連軍監視の下で住民投票を行い、帰属を決める。
 ウクライナ領としてとどまる。
 ウクライナ領であるが、自治権を大幅に認める。(公用語としてのロシア語等も)
 ロシア領となる。
 国連軍の編成が可能かも、大きな問題となるのだが。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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