ウクライナ情勢と参議院選挙が重なって、防衛・軍事費問題、そして憲法改正が、これまで以上に議論が盛んになっている。あくまで一国民として、この点について考えてみたい。
まず憲法改正問題であるが、私は、9条は維持すべきであるという考えを、前に書いたし、いまでも変わらない。憲法とは、国家機関に対する権限や制約を規定している基本法であり、9条もその線で考える必要がある。明治以来、日本はずっと海外に出て、戦争をしかけてきた。第二次大戦ではその結果として、日本に攻め込まれて大きな被害を被ったが、あくまでも日本がしかけた戦争に敗れたことがそうさせたのである。当初から、外国に攻め込まれたわけではない。そして、それを踏まえて、日本国憲法が制定された。国際紛争を戦争で解決しないというのは、日本が戦争という手段に訴えて、国際紛争を解決しない、そして、当然のことながら、侵略戦争などはしないという、制約を国家に課したことなのである。そして、そのために、日本は、何度かあった海外での戦争加担への要請を断ることができた。ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、そして、イラク戦争などがあった。もし、9条がなかったら、これらの戦争に日本は加担させられ、多くの戦死者をだしたかも知れない。ベトナム戦争に参加した韓国は、無視しているが、今でも多くの負の遺産を背負っている。
他国の紛争に、わざわざ日本を巻き込むことをしない決意、日本ができることは、外交的役割であるということは、今後も堅持すべきものである。
しかし、現在主に関心の的になっているのは、日本が攻め込まれたらどうするのか、ということだ。しかし、これは、憲法9条とは分けて考えるべき問題である。
9条改正論者は、「護憲派は、9条があるから外国から攻められることはないと、述べている」として、揶揄する発言をよくするが、私自身、護憲派だが、そういう文章を読んだことがない。そんなことをいっている人は皆無ではないかと思う。いたら、ぜひ教えてほしいものだ。
もちろん、攻めてくることを想定しない議論をする人はいる。野党の多くはそうだ。そういう意味では、するべき議論をせず、提示すべき政策を提示していないといえるだろう。だが、日本の国力、海に囲まれているという地理的位置、そして、国家的対立をできるだけ生まないような外交政策をしている以上、実際に攻め込まれる可能性が低いことは事実である。もし、日本が攻めていくのではなく、攻められるとしたら、よほど政府が間違った外交政策を実行したときである。首相を投げ出したあと、安倍晋三が述べたように、台湾の有事は日本の有事、などといって、あえて他国の争いに自分を巻き込むような、おろかなことをした場合だろう。
ウクライナを見れば、ロシアが勝手に理由をつけて攻め込むことはある、という議論をする人もいるだろう。しかし、ウクライナには、確かにロシア人が多く住んでおり、独立後ずっと西欧派とロシア派が対立してきたし、また武力衝突も起こしていたわけだから、ロシアがウクライナに攻め込むことは想定できたし、また、逆にいえば、外交によって、それを防ぐこともできたはずなのである。
北朝鮮が向かっているのは、韓国であって、日本ではない。中国は台湾であって、やはり、日本ではない。そうした争いに、冷静に対応して介入しなければ、日本が攻められる危険を回避する外交は、必ずある。しかし、残念ながら、日本政府が愚かな選択をする可能性はあるし、また、アメリカの巧みな誘導で、ウクライナのようにならないことは絶対にないともいえないだろう。
外国の政府の意思を、日本国憲法で制約することは事実上不可能なのだから、攻められた場合の備えが必要なことは、当たり前のことである。しかし、現状の軍備増強論には、まったく与することはできない。現在の自衛隊の構成をまったく議論の対象とせずに、軍備増強、軍事費のGNP2%論などを主張しているのは、私には、悪のりのような気がする。
何よりも、私が現在の自衛隊に疑問を感じるのは、その構成である。陸上自衛隊が、全体の6割以上を占めている。
まず陸上自衛隊という名称だが、実質的には陸軍なので、簡単に陸軍とここでは書く。日本の陸軍は、一体何をするのだろうか。戦前は、海外に出兵して、そこで戦争をしていたわけだから、当然陸軍が非常に大きな人数を必要とした。しかし、憲法9条では、自衛権の発動としての戦闘しかしない。そして、いくら自衛権の発動としての戦闘行為といっても、海外の軍隊が日本に上陸して、日本を攻撃するようになれば、その時点で日本は敗北しているわけである。太平洋戦争においても、軍隊は「本土決戦」などと称していたが、そんなことをしたら、日本という国家が、文字通り消えてしまったにちがいないし、生き残る日本人も極めて少なかったろう。空爆をされていた時点で、日本は実際には、絶対に勝てない状況になっていたのである。
ウクライナは、突然攻め込まれたわけだから、国内での戦闘しか選択肢がないが、日本は、その前に空と海での闘いがあるはずである。そこで勝利しなければ、敗北なのである。だから、陸軍は、不要とまではいわないが、ごく補充的な軍隊に過ぎない。自衛隊は20世紀に創設され、一度も戦争をしていないから、20世紀の軍隊思想で構成されている。しかし、21世紀に、日本が、外交努力にもかかわらず攻められそうになれば、21世紀の軍隊として対応するしかない。もちろん、それは海に囲まれている日本の特性を踏まえたものだ。
つまり、自衛隊は、陸軍を大幅にカットし、実際に闘う人は、高度な技術をもった少数の空軍や海軍であり、軍事費の大部分は、そうした軍備に費やされる必要がある。現在の自衛隊の費用のかなりの部分を人件費が占めているというのは、時代遅れなのである。その人件費の半分以上が陸上自衛隊である。その人件費のカット分を21世紀の装備に廻せば、まずはかなりのことができるはずである。こうした徹底的な構成の革新をしないような、軍事費の増大は、少しも役に立たないと考えざるをえない。
戦争など起きないようにすることが、もっとも大切であり、そのためには、日本を攻めようなどという考えをもたせないことが重要だ。そういうことは、多くの人が認めるに違いない。そして、そのためには、そう思わせるような軍備は必要である。専守防衛かどうか、ということではなく、攻撃意欲を削ぐだけの準備をした上で、外交努力で戦争の回避をすることである。
そして、そういう姿勢の保持のためにも、憲法9条は絶対に必要なのである。