私はyoutubeや録画したビデオを見るときには、たいてい早見機能を使う。だいたい1.5倍の速度だ。DVD-RやBD-Rに録画したのを早見機能で見たいと思っていて、それが可能なプレーヤーを探しているのだが、なかなか見つからない。私がもっているソニーのブルーレイ・レコーダーは、ひとつだけが早見機能をもっているが、それはハードディスクに録画したファイルのみ適用可能で、一端ディスクに移してしまうと、使えなくなる。
こうした倍速視聴、早見は、私にとっては当たり前の機能だし、活用だが、そういうことに異議を唱える書き込みを、最近いくつか見た。
本日(7月3日)の毎日新聞もに掲載されている。「映画観賞、早送りで? 若者に多く 背景に『余裕のなさ』」という山下智恵執筆で、稲田豊史氏のインタビューを基にした記事である。稲田氏は、『映画を早送りで観るひとたち ファスト映画・ネタバレ--コンテンツ消費の現在形』という著書で話題になっている人なのだそうだ。
記事では、倍速視聴は若者に多いのだそうだが、「現代の若者は、時間がなく、お金もない傾向にある。学生は講義の出席を厳しく求められ、親の賃金が上がらないから仕送りが期待できず、バイトに忙しい。でも、SNS(ネット交流サービス)で常に他人とつながり、共感を強要され、見るべき作品とされる映画は内容を把握しておかなければならない」(記事)と、まるで、若者が悲惨な状況にあるから、そうせざるをえないのだ、と言わんばかりだ。更に、「感情移入して心を揺さぶられないために、倍速でストーリーを追う方が気楽に見られる」という声まで紹介している。
公平を保つためか、「倍速視聴する若者はけしからん、という話ではありません」と断って、「作品の鑑賞から、コンテンツの消費に移り変わっている」というのだ。実際に、映像配信の側でも、倍速機能をつけているというわけだ。そして、最後の結論は、「「技術の進歩は否定できないし、倍速視聴の背景も納得できる。でも、私個人としては作品を鑑賞する時間を大切にしたい。早送りは、どこまで容認されるのか。この本はそれを問題提起しているだけで、答えはありません。」というものだが、明らかに否定的である。
記事の文章では、倍速視聴は若者にその傾向が強いとしているが、記事にある図での「動画の倍速視聴経験」では、年代的には、確かに若者に経験者が多いが、それほどの差はないように思われる。普段、録画された動画をとれだけ見ているか、というその量にもかなり影響されるにちがいない。若者はテレビをみない傾向になっており、ネットなどで映像をみることが多いとされる。ネットの動画は圧倒的に録画されたものだ。高齢者は、まだテレビを見ることが多いが、テレビでは倍速視聴は、もちろんできない。録画でも、かつてはCMカット機能があったが、最近のレコーダーには、見当たらない。おそらくスポンサー企業の反対によって、そうした機能を付けられなくなっているのだろう。しかし、録画では、早送りでCMを飛ばすことができる。ドキュメンタリー動画は、情報を伝えるのが目的だから、じっくり味わう必要などない。
そもそも、倍速視聴をどうしてするのか。それは、短い時間で視聴したいからである。読書でも、速読という技術が昔からある。つまり、大量のそうした情報処理をする者は、昔から時間節約の方法を駆使してきたのである。だから、最近の若者の特質てもなんでもないし、また、そうした時間節約をしている者が、映画や小説を味わう力がないと決め付けるのはナンセンスである。
私の場合、見る動画は、ほぼ100%ドキュメンタリーであるから、とにかく内容を把握すればよく、じっくり味わう必要などない。音楽以外のyoutubeは、すべて倍速で見るし、録画でも可能な場合は、同様である。ごく稀にドラマの録画をみるときもあるが、つまらなければ早送りし、だいたいは見るのをやめてしまう。見なければならないものでもないわけだ。
それから、記事の若者認識についても、多いに疑問である。
今の学生が、SNSで常に他人とつながり、共感を強要され、見るべき作品とされる映画は内容を把握しておかなければならない、と稲田氏は語っているのだが、私には、信じられないことだ。
大分前、動画を見るのが、ほとんどテレビであった時代に、とくに小学生・中学生が、人気のテレビ番組をみていないと、相手にされずに孤立しがちである、などということが言われたことがある。テレビは、決まった日時に放映されるものだから、見たか見ないかはっきりするし、現在のように、インターネットがないから、選択肢がテレビ以外になく、稲田氏が述べているようなことは確かにあった。
しかし、現在は、ネットを介して、無限ともいえるほどに、動画がある。そして、大学生の好みなどは、昔と比較して断然多様化している。だから、「見るべき作品として内容を把握して置かねばならない」ものなど、まず考えられない。ごく小さなグループであれば、たまにそうしたこともあるかも知れないが、それが倍速視聴を促しているとは、私には思えないのである。他人との関係ではなく、自分として、これはとにかくざっとでも見ておきたい、ということで、できるだけたくさん見るために、倍速視聴するのだと思うのである。スマホやノートパソコンの画面で、映画を「味わう」ことなど、そもそも困難だから、内容チェックすればよいという感覚になる。それに、じっくり味わいたい作品は、そうそうないのではないか。
先日、私は東京オリンピック映画をAとB両方映画館に見にいったが、映画館でじっくり味わいたくなるような作品ではまったくなかった。もし、映画館で見のがして、後日ネットで見ることになれば、必ず倍速で見ると思う。それで十分に見たことになると思うのである。そして、こうした感覚は、年代を問わないはずだ。70代の私ですら、そう思っているのだから。