立て続けに、政治家による名誉毀損訴訟が、二件起こされている。ひとつは、細田衆院議長からであり、もうひとつは、NHK党の立花党首からである。
立花孝志「NHK党」党首は、テレビ朝日「報道ステーション」の6月16日放映に出席したが、予め、「テーマを逸脱する発言があった場合はしかるべく対応を取る場合もある」という手紙を受け取っていたが、ウクライナ戦争をテーマとする討論で、「テレビは核兵器に勝る武器です。テレビは国民を洗脳する装置です」という持論を展開したために、大越キャスターが、その発言はテーマにそっていない、と注意した。しかし、立花氏がそのまま発言を続けたために、大越キャスターが、発言を止め、立花氏が画面から消えたという。そして、別室からの参加だった立花氏は、その場を立ち去り、帰宅したが、そのまま帰宅途上の車のなかから、youtubeでライブで持論を述べたという。「テレビ朝日からの圧力」という題の配信だったという。
ヤフコメでも、たくさんのコメントがあり、わずかながら、立花氏を支持する発言もあったが、多くはテレビ朝日を支持するものだった。私は、その放映をみていないので、詳細はわからないが、基本的に大越氏のとった方法は、仕方ないとは思う。しかし、止めさせる前に、切り返しの余地もあったのではないかと思う面もある。「テレビは国民を洗脳する装置です」という発言があったとき、「それはウクライナ戦争とどう関係しますか」「ウクライナ戦争をテレビはたくさん扱っていますが、洗脳だと思われる番組はどんなものでしょう。ロシア、ウクライナ、日本、あるいは欧米のテレビ局は、どうでしょう。みんな洗脳をしているのでしょうか。」「そうすると、テレビはないほうがいいということですか」など、いろいろな切り返し口があったのではないかと思うのである。番組からの手紙が、すべての党首に送られたのか、立花氏だけになのかはわからないが、おそらく、立花氏をテレビ局としては、呼ばざるをえない。しかし、勝手な発言をするだろう、だから、その際には明確な対応を示して、発言を止めることにしよう、という事前の了解があったと思われる。
基本的には、事前の確認をもって参加したわけだから、それに反したことを理由に、当初の確認事項を実行することは、ごく当たり前のことだと思う一方、排除された立花氏が、その後事情をyoutubeで説明して、逆宣伝することも、当然ありといえる。
ここまでは、双方の立場として納得できる対応だが、その後の立花氏の提訴は、まったくおかしなことだ。これが名誉毀損になるはずもないし、そのことはわかってやっているのだろう。ただ、ニュースになることだけを意図しての提訴としか思われない。政治家として、恥ずべき行為だ。
細田氏は、週刊文春によるセクラハ疑惑に関して、事実に反するということで名誉毀損の訴訟を、文春に対しておこした。もっと前に起こす意志があったようだが、周囲から国会開会中はやめるべきだと諭されて、国会の会期が終了して、直ちに提訴に踏み切ったわけである。こちらは、週刊文春の記事をほぼ読んだので、実情はよくわかる。様々なことが書かれているが、
・担当の女性記者に、自分の家に来ないかと誘いの電話をする。その際、添い寝してくればいい、情報を教えてあげるなどと語っている。
・オフレコの懇談会で、「彼氏いるの?」などとネチネチ聞かれる。
・ご飯を一緒に食べましょう、などとしつこく誘われる。
・自民党女性職員の身体を触る。
このようなセクハラ行為が書かれている。そして、そうした被害を受けている記者たちを、大手マスコミは守っていない、自民党もあいまいにしているとの批判なされている。
しかし、記者たちに調査はしたようで、細田氏からのセクハラ被害がなかったとしたのは、読売新聞とフジテレビだけだった。いくつかのメディアは、細田担当を男性に切り換えている。
文春から細田氏への質問に対して、氏は回答をしていない。(以上週刊文春5月26日号からの4巻分)
以上のようなことが、文春によって報道されたわけだが、細田議長は、「事実無根」であると提訴した。何が「事実無根」であるのかを明示していないので、氏の主張の根幹はわからないが、私が見る限り、文春の報道が事実無根とはとうてい考えられない。しかし、細田氏は、心底、「俺はセクハラなんかやっていない」と思っているに違いないと思う。それは、世代的、あるい地位ということから、セクハライメージが、現代のセクハラ認識と、完全にずれているのではないかと思われる。つまり、「実力行使しなければセクハラではない」、そして、その実力行使も、かなり性的行為を強要するという「実力行為」イメージで、食事にしつこく誘うとか、自宅に来ないか、という程度がなぜセクハラなのか、と認識なのだろう。しかし、現代社会では、それは明確にセクハラと認定されるのだから、この訴訟が、最後までいけば、確実に細田氏は敗訴する。4回にわたって、週刊文春は報道しているが、少なくとも、1名か2名は、証言台に立つだろう。提訴したほうに立証責任があるのだから、細田氏側は、自分が働きかけた女性に、セクハラなどなかったと証言させるだろうが、文春側が、あったと証言する人を確保すれば、細田氏の敗訴確定である。事実を報道したのだし、公益性があると認められる。
では、何故、立花氏にしても、細田氏にしても、負けるとわかっている訴訟を起こすのか。立花氏は、注目されることを期待している。あのような政治からは、メディアのなかに埋没することが、もっとも怖いのである。だから、とにかく、ナンセンスと思われようと、注目を浴びる行為をするのだ。
細田氏は、俺はやっていないという「姿勢」を社会に示すことが目的だろう。おそらく、ふたりとも、適当なところで、提訴を取り下げるに違いない。提訴を取り下げることは、大きなニュースにならないが、判決に至って、敗訴すれば、またまた大きな話題になり、イメージダウンは免れない。
いかにも、卑怯なやり方といわざるをえない。こうした政治家の姑息な法廷利用を規制する必要があるのではないか。それには、アメリカのように、公的人物に対する報道については、名誉毀損を原則として認めない原則を確立することが必要である。