ウクライナ雑感 バイデンは梯子を外すのか

 バイデンが、記者会見で、プーチンによるウクライナ侵攻を早くから指摘していたにもかかわらず、ウクライナのゼレンスキー大統領は聞く耳をもたなかったという趣旨の発言をしたことが報道されている。
Joe Biden says Volodymyr Zelenskyy ‘didn’t want to hear’ US warnings of Russia’s Ukraine invasion
 戦争が4カ月になるなかで、ウクライナを援助する必要を語っているなかでの発言であった。
 ゼレンスキーは、リーダーシップを発揮しているが、侵攻への準備には問題が残されていた。侵攻開始前の数週間、アメリカの忠告に対して、ゼレンスキーは怒りを表わしていた。そして、戦争の掛け声がウクライナの脆弱な経済を乱すことを気にしていた。戦争の100日間ゼレンスキーは、ロシアを打ち負かす信念を保持している。ウクライナは重火器を提供してほしいと訴えている。

 
 これに対して、ウクライナ側は早速反論をしている。
・ゼレンスキーは、ロシアの侵攻に対して、防ぐための制裁をしてほしい、そして、ロシアの軍隊がエスカレートせず退却するようにするのを助けてほしいと要請したが、われわれのいうことを、われわれのパートナーが聴く耳をもたなかったのだ。
・ウクライナは侵攻の様々な形について検討していた。ロシアの拡張政策について完全に理解していた。ロシアは侵攻後すぐにドンバスとルハンスクを奪取したが、われわれはキーウとハルキウを保持した。
・ウクライナは西側諸国に効果的な武器を提供してほしいと申し出ている。われわれは深刻な事態に陥っている。
Ukrainian officials dispute Biden’s claim that Zelenskyy ‘didn’t want to hear’ warnings that Putin would invade
 
 このやりとりは非常に興味深いし、また、日本の状況を考える上で参考になる。ネット上でも多様な見解がだされている。
 何故、こんな発言をバイデンがしたのか、理解に苦しむところだが、想像してみよう。
 2014年以後、アメリカの軍事指導によって、ウクライナ軍がかなり整備され、実力を蓄えてきたことは、現在では周知のことになっている。クリミヤ半島をあっさり奪取され、ドンバス地方での争いが長く続いていたわけだから、ウクライナが油断していたと考えることは現実的ではない。ウクライナの反論のように、ロシアの侵攻についての様々なオプションを十分に検討していたとみるほうが、その後の現実にあっている。たとえばゼレンスキーは、亡命の勧めを直ちに拒否して、徹底抗戦を国民の前に明らかにしている。もし、想定外のことであれば、もっとうろたえただろう。そういう躊躇は、国民に見せなかった。しかも、素早く国民総動員令を成立させている。
 ところで、アメリカは、ゼレンスキーに亡命を勧めたと報道されている。とすると、アメリカは、ゼレンスキー政権が亡命し、ロシアはキエフを占領して、傀儡政権を樹立する。その後亡命政府と傀儡政府の間の政治闘争が続くが、戦闘状態にはならない。そういう形で、プーチンにもゼレンスキーにも恩を売る立場を望んでいたのだろうか。だから、ゼレンスキー暗殺の試みは防いだが、軍隊を送って、アメリカも対ロシア戦争に加担することなどは全くしないだけではなく、現在のような戦争状態を望んでいなかった。それに対して、ゼレンスキーは徹底的に闘うというのはいいのだが、とにかく、アメリカや西側諸国に、武器を寄越せとうるさく要求してくる。アメリカだって無限に提供できる武器があるわけではない。在庫整理もできそうだから、ここらで援助は切り上げたい、プーチンも東部と南部の占領地域を獲得できれば満足するだろうから、そこらで手を打たせよう、という魂胆が表れたのかも知れない。これはあくまでも想像である。そうだとすると、遠くない時期に、ウクライナはバイデンに梯子を外されるのかも知れない。
 
 真偽はわからないが、私がまだ若いころ、アメリカの膨大な軍事産業を維持するためには、10年に一度くらいの戦争が必要で、そこで既存の武器を消費して、新たな武器開発をして生産する。そして、10年経つとまた戦争が必要となる。そういうことをけっこう主張するひとたちがいた。だから、1950年朝鮮戦争、60年代から75年のベトナム戦争、1990年湾岸戦争、2001年アフガン戦争2003年イラク戦争、そして、2010年代にはシリア、アフガンそして、対IS等の戦闘があり、2022年ウクライナ戦争というわけだ。この軍需産業のための戦争という点では、ウクライナ戦争は、実に都合がよいことばかりだ。在庫整理ができるし、それらの武器がどの程度有効であるかの、実践的な検証ができる。そして、アメリカ兵は一切関与することなく、死者もでない。
 既存の在庫がつきて、なおかつ最新鋭の完成したばかりの兵器まで導入する意思はないとすれば、そろそろ戦争終結だ。ウクライナのように徹底的にやられては、アメリカの負担がどんどん増すばかりだ、というある種の厭戦気分がでてきたことの表れと見ることもできる。それにアメリカの最新兵器を渡したら、アメリカの最高技術をウクライナに知らせることになる。ウクライナが検討虚しくロシアの軍門に下ったら、アメリカの技術がロシアに渡ってしまう危険性だって皆無ではない。やはり、やがて潮時を見定めねば、という感覚がバイデンのなかに出てきても、おかしくはないのだ。
 
 ウクライナの東部では、あきらかにウクライナ軍の武器と弾薬が不足して、ロシアに押されている。戦死者も多い。しかし、6月中旬から欧米からの武器が到着するので反撃できると、ウクライナは再三いってきた。それが本当になって、反撃できるのか、やはり、ロシアの物量作戦に押されて、結局欧米の意志によって、停戦を余儀なくされるのか、あるいは、信義上ウクライナ支援をやめるわけには、やはりいかず、戦争が長引いていって、ロシアの政治上が変化するのを期待するのか。6月中旬が過ぎれば、ある程度展開が明確になってくるに違いない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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