メルケル引退後初のインタビュー 自身を弁護

 朝日デジタルにメルケルが、退任後はじめてインタビューに応じたという記事があったが、あまりに簡略だったので、もう少し詳しい記事を探した。「Angela Merkel opens up on Ukraine, Putin and her legacy」https://www.dw.com/en/angela-merkel-opens-up-on-ukraine-putin-and-her-legacy/a-62052345
 朝日デジタルだと、メルケルは、ロシアのウクライナ侵攻を非難したが、2014年のクリミヤ併合について、もっと厳しい対応がありえたことを認めたこと、ソ連崩壊後も戦争を防ぐための安全保障機構をつくることができなかったが、自分は間違っていなかったから謝る必要はない、ということが簡潔に紹介されているだけだ。
 英文の記事には、「退任後最初のインタビューで、対ロシア政策を弁護し、現在のウクライナの状況に関して、自分が責任を感じることはない」と述べたというリードが付けられている。

 
 メルケルが現在批判的に語られるのは、あまりにプーチンと親しかったという点だろう。メルケルは東独で育った秀才だから、ロシア語が堪能だし、プーチンは、若いころKGBの一員としてドレスデンに滞在して諜報活動をしていたから、ドイツ語が堪能だ。つまり、お互いの言語を自由に操れるので、意思疎通が便利だったことは間違いなく、だから、プーチンとの親しさが強調されるきらいがある。
 しかし、メルケルは、「私は、プーチンを単純に扱っていたわけではない。外交は、それが機能しなかったからといって、間違いということではなく、プーチンは、貿易の約束などではく、軍事的障害という観点からのみ理解をした。」と述べ、プーチンとは違う価値観をもった人間であったことを強調している。
 そもそも、ソ連の崩壊に対する感覚が正反対だったことは、よく知られている。プーチンにとってソ連崩壊は、20世紀最大の不幸と感じたが、メルケルは、ベルリンの壁崩壊によって、自由となったと感じたという。だから、ソ連下の社会主義国家で育ち、若い時期の活動をしていたが、ソ連の崩壊については、まったく逆の見方をしており、それは、彼らの立脚する基本的な考えが相違していることだ。メルケルは「大きな不一致があった」と述べている。
 そして、ウクライナのNATO加盟が議題になった2008年のNATO会議について語っている。ゼレンスキーは、この会議でウクライナの加盟に反対したメルケルとサルコジを非難している。それに対して、メルケルは、当時のウクライナが、およそNATOが前提として求める政治体制ではなく、汚職が蔓延している国家だったこと、そして、NATO加盟を認める方向にいったら、プーチンは断固とした対応をしただろう、というふたつの点で、ウクライナのNATO加盟に反対したことを、正当化している。これは、実際に、最近までのウクライナの政治が、腐敗していたし、民主的とはいいがたい政争に明け暮れていたことも事実であり、NATOとして、そういう国家を仲間として受け入れ、かつ、完全に防衛に共同責任をもつという決断をすることができなかったことは、理解できることだ。ゼレンスキー自身も、この戦争に対する断固たる姿勢で、国際的な支持を集めているが、莫大な資産を海外に保持していることが暴露され、支持率を低下させたことも、周知のことであり、この戦争によって、そうした汚職が払拭されているとはいえ、戦争が終われば、再び以前のように戻る懸念がないわけではないのだ。国内が、異なる外国勢力と結びついて、内紛を繰りかえしている国家は、やはり、混乱から抜け出すことは、非常に難しく、ウクライナもEU派とロシア派が争い、それが武力衝突になってしまったことで、NATOの判断は正しかったともいえるのである。
 メルケルは、当時のウクライナの国内が、ふたつの政治勢力に分断されていることが、NATO加盟を容認できない理由だったと述べている。
 
 メルケルが大きな役割を果たしたミンスク合意については、国連も関与しており、ウクライナに時間的準備を与えたとしており、これは暗に、時間を無駄にして、対立を深めてしまったウクライナ政府を批判しているように思われる。
 そして、ロシアのクリミア奪取については、より厳しい対応が必要だったかも知れないといいつつ、G8からロシアを追放するなど、かなり厳しい措置はとったと弁明している。
 
 次の問題は、ロシアとの経済的結びつきである。ドイツのエネルギーがかなりの部分をロシアに依存していたために、ウクライナ支援が緩くなっているという批判がドイツに投げかけられているわけだが、ロシアとの結びつきを、最初に強化したのは、メルケルではなく、その前の反対政党である社会民主党である。
 メルケルは、ノルト・ストリーム2が稼働する前であったのに、プーチンはウクライナ侵攻を始めたのであって、したがって、ふたつのことは直接的な関係はないと、主張したいようだ。確かに、ノルト・ストリーム2が戦争要因になったわけではない。むしろ、ここまでロシアに依存してしまったために、ドイツ経済が困難に直面したということであるし、また、一国にエネルギーの半分近くを依存すること自体が、やはり、国家としての安全からみて、危険だろう。ロシアの石油や天然ガスが無尽蔵なわけでもなく、枯渇し始めているという報道もあるほどだ。日本にとっても、大きな教訓となることだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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