羽鳥のモーニングショーに、和田秀樹医師が出演して、今ベストセラーになっている著書『80歳の壁』をもとにした話をしていた。そこで、大方の内容はわかったが、もうじき後期高齢者になることもあり、購入して読んでみた。内容が非常にわかりやすく、かつ談話のようなものなので、一気に読めた。内容は、共感する云々以前に、私自身がだいたい実践していることだったので、逆に驚いたほどだ。簡単にいえば、高齢者(この本では幸齢者と書いているが、普通に高齢者としておく)は、好きなことをして、食べたいものを食べ、楽観的に生きなさい、そして、あまり医療に頼るのではなく、病気になったとしても、闘病するのではなく、共病、つまり、病気と共に生きるというのがよい、というようなことだ。
私自身、歴史が好きで、一番好きな人物が織田信長であるので、「人生50年」を過ぎたころからは、とくに何かに執着することなく、いってみれば、十分生きたという感覚で過ごしてきたし、いまでも過ごしている。そして、無理しないのがモットーとなっている。大学院時代、非常に優れた研究者であった助手から、教わった最も有益なことが、「具合が悪くても、休んだら他の人に迷惑かけるといって頑張るほうが、休んでかける迷惑より、ずっと大きな迷惑をかけることになるから、具合が悪かったら、休むのがよい」ということだった。残念ながら、研究的なことでは、あまり援助などをしてもらえなかったのだが、この点はよかった。ただ、世の中うまくいかないもので、彼はけっこう無理をしたのではないかと思うが、若くして亡くなってしまった。自分のモットーを実践しなかったのかも知れない。
私は、それを実践してきたので、いまだに、大きな病気をしたことがなく、ストレスもなく、いたって健康に過ごしている。さすがに、若いころのように、機敏な動作ができなくなって、チェロを弾くのも苦労しているのだが。
この本で、最も共感したところは、高齢者は健康診断しなくていい、という提言だ。私自身、職場で行っている健康診断を受けたことがなく、また、他でもほとんど受けなかった。さすがに職場の会議では、「今年の健康診断未受診者数」などが発表されていて、もちろん、名前などは出されなかったが、苦笑せざるをえなかった。そもそも、健康診断は法的には義務ではないから、いいではないかと思っていたのだが、あるとき、教育機関で働いているものは、最低限の健康診断を受ける義務があるなどといわれ、確かにそういう面もあるかと思ったので、その後は、職場ではなく、開業医で最低限の健康診断を受けるようにはなった。それでも数えるほどだったが。そして、受けたことのメリットを感じたことはないが、デメリットもなかった。なぜなら、結果をもらって、職場に提出しただけだったからだ。
健康診断を受けないという気持ちを強くもったのは、『文芸春秋』の特集で、「健康診断を受けるべきではない」というのがあり、それを読んだことも影響している。つまり、健康診断は、いろいろな数値をだして、基準値より悪いと、より詳細な診断をうけるように勧告され、そして、精密診断を受けると、もともと悪いのだから、病気とされ、薬を処方され、そして、本格的な病気になってしまうのだ、というのがその趣旨だった。この和田氏の著書にも、同じことが書いてある。
更に、和田氏は、そもそも個人や年齢によって、基準値の意味は異なるし、また、例えば、血圧とか血糖値というのも、ある特定の病気については、「悪い」といえても、実は、他の領域では、そのほうがよいという場合もある。だから、特定の規準で判断して、それに対応する薬を服用すると、別の弊害が出てくることが多いのだという。そして、高齢者にとっては、若い人の規準よりは、血圧も、血糖値も、高くて構わないのだという。確かに個人差を、自分の感覚で許容範囲を掴んでおくことが大事なのではないかと思っている。コレステロール値が高いと下げるような薬を処方されるが、コレステロールは免疫に重要な役割を果たしているので、それを下げる免疫力が落ちるとか。
血圧が130を超えたら、対策をとらねばならないようなことが、メディアではよく提起されている。私自身、ごく普通のときには、それはキープしているが、140台まではとくに異常を感じないのだが、ちょっと血圧が高いのかも知れないと感じるときには、150を超えている。そうすると、身体がなんとなく感じるのだが、別に耐えられないような感じでもなく、高めを意識する程度だ。もっと高くなったら、深刻な感じになるのかも知れないが、150台でも、生活に支障が出るわけでもない。つまり、基準値とは大部違うわけだ。個人差なのか、あるいは年齢特有のことなのか、あるいは、そもそも規準などがあまり意味がないのか。それはわからないが、感覚的に何も問題がなければ、わざわざ薬を飲んで下げる必要は感じない。
もうひとつ、私と妻で普段確認していたことと、この著書に書いてあったことで一致したのは、例えば癌などになっても、特別な治療をする必要はないということだった。手術したりしても、必ず治るわけでもなく、手術をすれば、確実に全体として身体に負担をかける。和田氏は、80歳代で亡くなった人の解剖をかなりの数こなしているのだそうだが、その遺体には、ほぼ100%癌が見つかるそうだ。もちろん、大部分は癌を患って治療していたり、それで亡くなったりしている人ではない。癌などに罹患していないと考えていた人たちでも、ほぼすべてが癌にかかっていたというのだ。癌は発見されるほどに大きくなるのに、10数年かかるといわれており、とくに高齢者ではその進行が遅い。だから、小さな癌が実はけっこうあっても、とくに自覚症状がないまま過ぎてしまうというのである。逆にいうと、ある癌が見つかって、その癌を手術で除去したとしても、実はほかにもたくさん小さな癌があって、それらをみつけて取り除くことをしないわけだから、結局、同じことなのだという。むしろ、手術をすることで他の臓器を痛めつけたり、あるいは放射線治療などで、身体に負担をかけるほうが、ずっと大きな身体へのマイナスになるというわけだ。
手術などをするよりも、進行が遅いから、痛みがでた場合にその対処をすれば、あとは、生きている内にやりたいをことをやりつくすように生活した方がずっと幸福に暮らせるというが、私たちも実はそのように考えていたので、この本には大いに共感した。
最後のほうに、健康な高齢者として過ごすための「かるた」が、和田氏によって創作されており、これもなかなか楽しい。自分が高齢になりかかっているとか、あるいは高齢の親を世話をしている人は、ぜひ読んでほしい本だと思う。