プーチンは、ウクライナがNATOに加盟するのは、ロシアにとっての安全上の脅威であるために阻止しなければならないとか、ウクライナはナチスによって支配され、住民が抑圧されているので解放する必要があるなどという理由をつけて、ウクライナに侵攻したということになっている。しかし、最近の動きを見ていると、それはあくまでも表向きの理由で、別の理由があるのではないかと思わざるをえなくなってきた。それは端的に、「領土拡張」ではないかということだ。
ロシアは、大国のなかでも、領土拡張政策が歴史的にも極めて強い国家だ。世界一の領土をもっているのに、これ以上ほしいのかと疑問も出てくるが、ロシアの領土のかなりの部分は開発されないままの土地だ。開発することも難しいのだろう。そして、よくいわれるのが、不凍港を必要とするということだった。それは確かにそうだろうし、現在でもその野望はもっている。ただし、それだけではなく、そもそも領土を拡大したいという国家的要請は、主に農業生産物を求めているからだ。第二次産業や第三次産業、まして、現在の最先端技術のためには、別に大きな領土は必要ない。
ウクライナに侵略しているロシアの軍隊は、ウクライナに備蓄されていた農産物を大量に略奪していると報道されている。コロナのために、海運が滞って、輸出されずに備蓄されている小麦などが、ウクライナには大量にあるというが、それをどんどん略奪しているというわけだ。そして、それを南部占領地から輸出しているという。もちろん、ロシアに輸送している部分もあるのだろう。ウクライナ東部の拡大だけではなく、むしろ南部を確実に抑えようとしているのは、南部の港から輸出するためで、こうした状況を考えると、ロシアが狙っているのは、ウクライナの穀倉地帯をロシアの領土にして、農業生産物を輸出し、かつロシア国内で消費することが、大きな戦争目的なのではないかと思えてきた。これは、完全に19世紀までの帝国国家観であって、グローバル化した現代では、逆に社会の経済的力を弱めてしまうような発想である。ロシアは、世界最初に人工衛星を打ち上げたり、宇宙開発で大きな力を発揮するほどの技術力をもっていたが、現在では、多くの先端技術を外国に頼っているとされる。それは、石油や天然ガスが豊富にあり、それが国家財政を支えているために、それに頼った経済運営をしてきたからだというのが、定説である。つまり、第一次産業は大事であるが、それに頼っていれば、当然先端技術では遅れを加速してしまうのだ。そして、ロシアは、さらにそれを外国への侵略によって、さらにその方向を強化しようとしているともいえる。
もちろん、エネルギーと食料が自給できれば、国家は国民の生活を保障することができる。もちろん、贅沢をいわなければだが。ロシアはそういう国家、社会をめざそうとしているのだろうか。しかし、これだけ情報が発達している国際社会のなかにあって、ロシア国民がそれに満足するかどうかは、かなり疑問だ。また、政治家も、大国のプライドを棄てることはできまい。領土拡張のために、戦争をしたり、また占領地の統制をするためには、大きな経済的負担があり、これまでの植民地経営の教訓として、決して経済的にも、政治的にもプラスにはならないことが分かっている。現代の科学技術の発展にそった社会にしていくためには、領土の大きさなどは、まったく無関係なのである。そのように、政策の転換ができないと、ロシアは本当に貧しい国家になってしまうに違いない。
ウクライナ戦争が終わったあと、情報統制が解除されれば、ロシア国民もそういう方向に意識が向くだろう。