ウクライナ戦争後の構造は?

 最近のウクライナ情勢をみていると、どうしても思い出してしまう風刺画がある。小学校や中学校の教科書に載っていたので、多くの人が覚えていると思うが、日英同盟を結び、ロシアとの戦争に向かっていく日本を描いた絵だ。恐ろしいロシアに、イギリスとアメリカが日本をけしかけている図である。
 
 
 私には、日本をウクライナに置き換えれば、そっくり現在の図式になると思う。もちろん、日露戦争は、純然たる帝国主義戦争であったが、現在行われている戦争は、ロシアがウクライナに侵略しているものだ。そして、日露戦争は、日本でもロシアでもない地域で闘われたが、現在の戦場はウクライナという当事国の一方である。こうした大きな違いはあるが、それでも、侵略意志をもったロシア、それをやっつけようと思っていて、実力はあるが直接闘う意志はないイギリスとアメリカ、そして、闘う意志はあるが、単独では無理だと思っている日本とウクライナという図式は、まったく相似関係にあるように映る。

 あくまでも行動を起こし、侵略したのはロシアであり、ウクライナが防衛をしている以上、非難されるべきはロシアであるが、これまで何度も書いたように、アメリカとウクライナが戦争をさける行動をとっていれば、ロシアの侵攻を防ぐ可能性は高かった。明らかに、ふたつの国家は挑発的な行為をしていた。このことについては再度触れることはしないが、メディア報道については、目にあまるものがある。ロシアでは完全に言論統制が行き届いていて、プーチン批判などは一切ないし、プーチン政権に都合のよい情報だけが流されていると、日本のメディアでは解説されているが、では日本の報道は、客観的で、双方の立場を踏まえて報道しているかといえば、あまり誉められたものではない。確かに、ロシア側の映像も流されるが、しかし、それはロシア側の非道さを示す材料であって、基本はウクライナ側に都合のよい情報が厳選されているし、解説もその方向でのみ行われている。2014年以降、ウクライナはアメリカの指導を受けて、軍隊の強化を図った。そして、ウクライナ侵攻して直後、キーウの空港からロシアの特殊部隊が侵入して、ゼレンスキー逮捕、あるいは殺害を計画していたが、アメリカの民間傭兵にことごとく殲滅されたというのだが、アメリカとウクライナは、ロシア侵攻に対して準備万端整えていたことを意味している。こうした経緯については、今後の情報に待ちたいが、アメリカが、ロシアをどのようにしたいのかを表しているように思うのである。
 
 さて、日露戦争と今回のウクライナ戦争が大きく異なるのは、旧東欧諸国の存在だろう。西欧諸国は、日露戦争時の米英と同じように、資金援助や物資の援助をするが、人的支援などは一切していない。そして、変わりつつあるとはいえ、やはり、ウクライナ支援の消極的姿勢は否めない。それに対して、ポーランドを中心とする旧東欧諸国は、ウクライナ支援により熱心である。それは、ロシアを心底怖がっており、この際ロシアを徹底的に敗北させ、できることなら、ロシアの分解までもっていきたいと思っているかも知れないからだろう。アメリカにもそうしたことを望んでいる勢力があるかも知れない。しかし、独仏などは、そこまでロシアを追い詰めるべきだとは考えていないと思われる。
 
 ここで思い出すのは、ソ連崩壊後のNATOの拡大をめぐる問題である。真相はわからないが、ワルシャワ条約機構の解体に呼応して、NATOも廃止することに同意する意見も、内部にあったようだが、それを押しとどめたのは、ワルシャワ条約機構から抜けた旧東欧諸国が、NATOの存続とNATOへの加盟を強く望んだということがあったからともいわれている。そして、旧東欧は多くの国がNATOに加盟し、旧ソ連の国も、いくつか加盟を望んでいる。欧米からみれば、仮想敵国であったソ連がなくなり、資本主義国家になったのだから、必ずしもNATOは必要なく、確かに、廃止してもよいという見解はあっただろうし、ジョージ・ケナンのように、東方拡大に強く反対した人もいた。しかし、旧東欧諸国、特にポーランドのように、長くロシアに抑圧されてきた国からみれば、ソ連がロシアになっても、恐怖感が強く、ロシアを強い仮想的国とする意識がずっと続いてきた。それが、今回ウクライナ支援(武器供与と難民受け入れ)に積極的になっていることに表れている。
 現在はロシアが優勢だとしても、長期的にはロシアが敗北することは、ほぼ予想される。そうすると、やはり、ロシアをどこまで追い詰めるのか、という終結形態が、EU(西欧)、米英、旧東欧とで思惑が異なってくる可能性が高い。この順番でロシアに対する弱体化を望む度合いが強くなっていくことは明らかだ。日本人のなかにも、ロシアが徹底的に弱体化、分解して、日本の援助を求めてくることを前提に、北方領土を取り返すことを望むひとたちも存在する。ロシアはいくつもの領土紛争を抱えているから、そのときには、各地でロシアに対する反乱が起きるだろう。もしそうなれば、対中国のあり方が根本的に変わることになり、その予測はとうていつかない。
 ただ、忘れてはならないのは、ベルサイユ体制で、ドイツをあまりに追い込んだために、その反発からナチスがドイツ国内で力をもっていったという経緯である。ケインズが、過度なドイツへの賠償請求を批判したが、それは歴史によって証明された。ロシア国民に、怨念を強く残すことは、歴史の過ちを繰りかえすことになる。
 他方、明らかに不当な侵略をして、ウクライナに大損害を与えたのだから、その復興に責任を負わせる必要はある。私は、封鎖をしたロシアの銀行預金を、復興資金に活用すればいいと思っていたが、実際にそのための法の準備が進んでいるようだ。戦争に主要な責任を負う人と、一般国民をきちんと区別した対応が必要である。こうしたことのバランスをとった対応こそが、工夫される必要があるだろう。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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