ウクライナ侵攻についてのコメンテーターへの不満1

 ウクライナ侵攻は連日、各局でさかんに放映されているが、コメンテーターの解説がすっきりしない点が散見される。少なくとも、私のような素人から見ても、不十分であったり、論点がずれた解説、そして、肝心のことについて口を閉ざすような場面がある。極めて興味深い番組だと思った、日本テレビの「深層NEWS 日テレ」(4月22日放送)を素材に考えてみよう。この番組が、非常に興味深かったのは、    駐日ロシア大使のガルージン氏へのインタビューがあり、それに関して、解説者がコメントする形をとっていたことだ。
 解説者は、佐藤正久(自民党 外交部会長)、畔蒜泰助(笹川平和財団 主任研究員)、飯塚恵子(読売新聞編集委員)の3名で、キャスターは、右松健太(日本テレビ)という構成だった。なおガルージン氏はすべて日本語で応じていた。
 
 最初に、上松氏が、ガルージン大使に、ウクライナ侵攻の目的は何かと質問している。

 
ガルージン ウクライナによって、東部ロシア人とその共和国に対して、ジェノサイドが行われていた。方法は、砲撃、空爆などで住民を攻撃してきた。14000人の犠牲者が出ている。最終的に東部を武力で制圧することを狙って、3月に、ウクライナは前線に10万の兵力を終結して、2つの共和国を制圧することをたくらんでいた。ロシアは、NATO加盟拒否を含めてのNATOの不拡大、ロシア周辺におけるNATOによる攻撃の停止を申し入れてきたが、それはNATOによって拒否された。3月の計画がある以上、流血をさけるために先手を打った。
 
 言っていることは、明確だった。
・ウクライナがウクライナ東部の共和国に対して、ジェノサイドをしており、3月に10万の軍隊を終結して、共和国制圧をしようとしていたから、それを阻止することが目的だった。
 こういうことだ。そこで、上松氏は、「 ジェノサイドが行われていたという証拠が国際社会に示されていない。それをやってから、迫害を受けているというのなら、軍事侵攻まえに第三者の協力をうけて調査をすべきではなかったのか」と切り返している。
 それに対して、大使は、「問題提起を8年間毎年やっている。国連安保理、総会の場でやっている。OSCE(欧州安保協力機構)の関係機関の場で問題提起している。国際社会が、反ロ的なウクライナ政権を支援するということを優先課題とみて、我々の問題提起を完全に無視していた。」と反論している。
 残念ながら、この点については、上松氏や3人の解説者は、明確なことを何もいっていない。ウクライナ東部で、ウクライナ側とロシア側(自治共和国住民といっても、ロシアからの援軍が混ざっていると考えられるが)とで武力衝突があったことは、国際社会に周知のことである。
 ロシア側からすれば、ロシア系住民が迫害されているから、ロシアとしては支援してき。ウクライナがやっていることは、ジェノサイドだ、つまり、ロシア系住民を消滅させようとしているのだ、という主張だ。ここではガルージン氏によって語られていないが、ウクライナの急先鋒として活動していたのがアゾフ大隊だから、彼らはジェノサイドをやっているネオナチだというわけだ。当初、アゾフ大隊が極右と見られていたことも事実だ。(現在については、評価が分かれているようだ。)
 これに反論するなら、具体的に、異なる事実を提示する必要がある。ロシア系住民が、不当に武力行使してまで、独立しようとしているから、防衛しようとしただけだ、戦闘状態だから戦死した人はいるだろうが、それは住民のジェノサイドとは違う、等々、想定される反論はあるだろうが、残念ながら、「調査」を受け入れるべきではないか、訴えてもいないではないか、というレベルの話で済ましていた。かえって、8年間、様々な組織で訴えてきたが、お前たちが無視してきたんじゃないか、と言い返されている。ならば、国連安保理や総会、OSCEでどのような訴えをロシアがしてきたのか、それがどのように扱われてきたのかを、具体的に反論しなければならないが、それは一切、この番組では語られなかった。そうすると、反論できないのか、大使がいっていることは、事実なのかという思いが出てくる可能性があるのだ。
 
 この続きのインタビューで、飯塚氏が、「ロシアの主張は安保理の常任理事国でありながら、ほとんどの決議がロシアを非難難、否定する内容になっている」と質問すると、大使は、「国連安保理の理事国と常任理事国は、大多数はいつもアメリカ寄りである。西側だ。だから、我々の論拠にまったく耳を傾けず、自分の一方的で歪曲された主張だけを押し進めている。残念な遺憾な国連の現実である」と反論し、実際にはその後の展開は、放映されていないが、そのままだと、飯塚氏は、有効な反論ができなかったような印象を受けてしまう。確かに、国連加盟国の多くは、アメリカ寄りだろうし、聞く耳もたないということも、G20でロシアが演説するときに、アメリカやイギリス等が退出してしまうということは、事実で示してしまっているのである。日本が退出せず、批判したことは、大いに評価されるのだが。 
 「我々はずっと訴えてきたのに、あなた方がまともに聴こうとしていないではないか」ということについて、実はまったく反論していなかった。
 
 このあと、ロシア人の感情の特質について、スタジオで解説が始まる。
 上松氏が、「 国際社会が無視しているんだという形で、 国際社会に不快感を示していた」と紹介し、そうした感情はどこから来るのかと解説者に質問している。つまり、ガルージン大使は、西側が聞く耳をもたずに、無視してきたではないか、ということに対して、ロシア人の被害感情として扱っているのである。
  畔蒜氏は、ヒトラーの軍隊と闘った第二次世界大戦「大祖国戦争」に対するロシア人の共通の思いがあり、また、アメリカに対する敵対心、欧米からロシアは疎外されているんだ、という強い思いがある。それは、政府だけではなく、国民の共有している考え、思いだ、と解説している。
 ここで、郡司アナウンサーから、「大使の発言は、ロシアの国民も共有しているということだが、教育から来るのか」と質問し、それに畔蒜氏は、歴史的に、ロシアはヨーロッパに入りたいけど、でもなりきれない。そういう歴史の繰り返し。ジェノサイドについてはおいといて。国際社会に対する強い不満については、ロシア人の多くが共有している感情であることは確か。事実かは議論があるが等述べている。
 「ジェノサイドについてはおいといて」というのは、聞いている私としては納得できない。そして、質問が、なぜそういう感情が共有されているのか、教育のせいか、と質問しているのに、その問いはスルーしている。そして、ロシアがアメリカに敵愾心をもち、欧米から疎外されているという感情について「ヨーロッパに入りたいけど、なりきれない」というのでは、説明になっていないし、ロシア人は不思議なひとたちだ、という非生産的な論理を押しつけているだけになってしまった。
 もし、郡司氏の疑問をガルージン大使にぶつけたら、また、滔々と歴史を語ったかも知れない。ナポレオンの軍隊は、ヨーロッパ中の民族から成り立っていた。60万人のヨーロッパの軍隊がモスクワまで攻めてきたのだ。ロシア革命が起きたとき、欧米は革命を潰すために、攻め込んできた。そして、第二次大戦では、ヒトラーがソ連に攻め込んできたし、欧米は、ソ連がヒトラーにやられるように仕向けたのだ。そして、戦後、冷戦が起こって、ソ連を潰そうとしてきたし、ソ連解体後は、ソ連の同盟国をNATOに加盟させて、ロシアを敵として扱ってきた。こういう事実があるのであって、教育で洗脳しているわけではない、というのではないだろうか。
 ヨーロッパに入りたいけど、入れきれないから、被害者感情が国民に共有されたというのは、私には、説明になっているようには思えない。
 続いて、様々なテーマが扱われたが、長くなったので、続きは明日にしたい。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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