プールの水出しすぎで賠償請求 しかし、本当の問題は別に

 横須賀市の中学校で、教員がプールの給水栓を2か月間断続的に出しっぱなしにしたために、プール10~11杯分の水道水が流出し、348万円が余計にかかったので、その半額を担当教員、校長、教頭の3人に損害賠償したという報道があった。
 プールの水を誤って栓を抜いてしまい、もう一度いれ直すような事故は、たまにあると現場の先生から聞いている。プールの大きさや、自治体によって費用が違うだろうが、数十万の損失になり、誰が負担するか問題になるといっていた。
 しかし、今回の問題は、そうしたうっかりミスではなく、誤解による確信犯ともいうべき行為で、コロナ対策として、水を出しっぱなしにする必要があると思い込んだ担当教員が、他の教員が栓を締めても、再度栓を開けて水を入れ換えていたというのだから、不思議な事故だ。コロナの感染者がでたら、プールは中止にするだろうし、消毒が必要なら、消毒液を散布するだろう。水を入れ換えることで、感染症対策をするというのは、あまり聞いたことがない。どうして、そんな認識を仕入れたのか、ぜひ後追いの報道を期待したいものだ。

 こうした場合、教職員個人に賠償請求が、稀にはあると聞いているので、今回の横須賀の措置は、ありえないことともいえない。
 
 さて、コメントにもあったが、私は、以前から学校でのプール指導はやめて、市営なり、民間のプールの指導に移管するべきだと思っている。実際に、ある小学校の建設の相談プロセスにかかわったことがあり、そういう提案をしたのだが、賛同者は少数で、ほとんどの学校関係者や教育委員会のひとたちは、とんでもないという感覚だった。思い込みというべきだろう。20年近く前のことなので、当時は、そうした方法をとっている自治体はなかったと思われるが、現在では、いくつかの自治体はそうした対応をしている。私のかかわった事例でいうと、駅の近くにあった小学校を駅周辺の開発のために少し離れたところに移転したのだが、既に、民間のプールを含むスポーツジムが複数開かれることがわかっており、そのスポーツジムと契約して、授業を代行してもらえば、学校にプールを建設する必要もないし、温水プールだから年間を通して授業が可能になる。授業で使われれば、その学校の生徒で放課後の会員になる者がたくさん出て来るたろうから、スポーツジムとしては、喜んで引き受けるだろう。教師の負担も減るし、学校の敷地に余裕ができ、おそらく財政負担もたいしたことはないと思われる。だから、現在ではその方式をとりいれている自治体が少しずつ出てきているわけだ。
 水泳の授業は、授業中の事故としては、最も多い部類にはいる。水泳は危険を伴うだけではなく、特に小学校の場合、教師で泳げない人はたくさんいるし、救急対応の訓練を大学で教えるわけではない。また、座学として教えるとしても、実地訓練などまで行う大学は、ほとんどないと思われる。泳げない、しかも、救急対応の仕方がわからない人が教えるのだから、事故が起きても不思議ではないのだ。
 スポーツジムに委託し、授業を代行してもらえば、専門的な指導者だから、はるかに安全なのだ。それに、スポーツジムのプールには、かならず指導者以外の監視員が常時、プールの様子をみている。
 学習指導要領では、水泳の実技は必修ではない。プールがない学校もあるわけだから、必修にするわけにはいかないのだ。ということは、プールを建設することは、いろいろな意味で大変であることがわかる。最近は事情が変わっているが、私が子どもの頃は、学校にプールがあることは珍しく、その後次第に増えていったが、その費用はPTAが負担することが多かったのだ。そして、せっかくプールを作っても、使える期間は一年のごくわずかだ。個別の学校で温水プールを設置することは、かなり難しい。だから、どうしても、3カ月程度の授業期間になる。そして、夏休みは、教師が指導のために駆り出されるという、大きな負担が生じる。
 民間のスポーツジムに委託すれば、そういう問題が一挙に解決されるのである。引率という問題が発生するが、そうした時間を余裕をもってとっておけば、近くにスポーツジムがある場合には、ずっとスムーズに水泳の授業が、しかも安全に、かつ優れた指導の下で行われるようになるはずなのである。
 今回の事例で、再度提起したい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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