プーチン体制は継続できるのか

 ロシアのウクライナ侵攻が、長引けば、プーチン体制の危機となることは、十分に予想される。まず最初の目安は、侵攻後1週間だろう。2月24日に侵攻が開始されたから、3月3日に、キエフを支配下におき、ウクライナが降伏的な交渉に応じるようになっていれば、侵攻は成功したといえるかも知れない。しかし、プーチンにとっては残念なことに、かなりの予想が外れ、厳しい状態になる可能性が強い。
 
 端的にいって、かなり早い時期に、ロシア国内での反プーチン勢力が強くなり、プーチン体制は崩壊するのではないだろうか、と期待をもって予想しておきたい。
 ロシアのプーチン体制は磐石で、しかも、強権的で敵を打ちのめしてきたから、そんな簡単に、体制など崩れないと考える人も多いかも知れない。しかし、30年前に、かくも磐石だと思われていたソビエトが、体制ごと転覆したのであり、それは市民の運動が大きな力を発揮したのである。民衆の運動で、あの共産党体制が崩壊するということは、一部の専門家はさておき、一般的にはまったく予想されていなかった。

 当時、ゴルバチョフが現れて、大きな改革を実行し、西側とも協調するような方向転換をしていて、希望がもたれていた。エリツィンの蜂起が、西欧の支援を受けていたにせよ、民衆の運動がなければ、あのような崩壊は実現しなかったはずである。従って、今回同じことがおきる可能性は高い。
 ソ連崩壊の引き金は、アフガン侵攻の泥沼化だった。10年近くアフガンに駐留して、反ソ勢力との闘いに明け暮れた。そして、単なる敗戦ではなく、体制崩壊をもたらしたわけだ。この経験は、もちろん、現在のロシア人の多くは、リアルに共有している。ウクライナが泥沼化、長期化すれば、確実にロシアという国家が再び崩壊してしまうという危惧をもつだろう。真偽は定かでないが、ロシアの軍人の高官たちは、ウクライナ侵攻に反対の空気が強いという。特に退役した軍人たちが、反対表明したという報道もある。それが事実ではないにしても、そういう雰囲気になることはありうることだ。
 そして、現在の状況をみると、3日まで待つとしても、既に長期化、泥沼化の兆候が現れている。ロシア軍の士気が低く、また補給線が十分に確保機能していないという報道がある。燃料がないので、進軍できない戦車があるとのうわさもあるようだ。 
 
 事態がプーチンの意志に反しているのは、いくつかの予想に反した事態が起きているからだ。
 まず第一に、ウクライナ人の抵抗意識が極めて強いいことだ。強大な外国の軍隊が侵攻してくると、多くの場合、元首は国外に逃れ、亡命政府を作る。しかし、ゼレンスキーは残って、国民とともに闘う姿勢を示し続けている。以前からのゼレンスキーのやり方には、全面的な納得はいかないことは、前に記したが、現在の状況における対応は、世界的な支持と共感を集めるものだ。
 驚くべきは、ウクライナ人の抵抗姿勢だ。ウクライナの政治家は、かなり腐敗していると言われ、評価が低い。大統領選挙で、薬物をかけられたり、汚職に問われたり、健全な政治が行われてきたとはいいがたい。ウクライナが豊富な資源や農業があるのに、国としてはヨーロッパ最貧国グループであることをみれば、それがわかる。
 しかし、ロシアは、歴史的にみれば、多くの侵略を受け、それに対抗してきた歴史がある。そして、ヨーロッパから侵入されると、最初に被害を被るのが、ベラルーシとウクライナだ。ヒトラーとの闘いは、その象徴といえる。難民としてウクライナから隣国ポーランドに逃げる家族がいる一方、ウクライナに戻って民兵になるという人も、かなり多いようだ。
 第二に、世界的に、ウクライナ支援の輪が広がったことだ。EUは、ロシアからのエネルギー輸入に頼っているので、ウクライナ支援には消極的と予想していたようだが、最もロシアとの経済関係が強いドイツが、断固とした姿勢をとって、武器供与をウクライナに申し出ている。経済制裁への参加も、おそらく、プーチンが予想していたよりも、ずっと大きなものになっている。プーチンは、ウクライナのNATO加盟を阻止することが、最大の目的のひとつだったが、かえって、NATOとEUへの加盟を促進することになっている。ゼレンスキーは、EUへの加盟申請をしたが、特別な審査での加盟を認めるような見解が、EU内部からでている。ロシア軍の侵攻が継続している間は、おそらくないだろうが、撤退したあとは、NATOがウクライナ加盟を認める可能性は、前よりずっと高くなっただろう。
 
 歴史的にみて、これほどロシア・ソ連が世界から孤立したことはなかったのではないだろうか。ロシア革命のときには、欧米と日本は、多数の国が、軍隊を派遣して、革命を潰そうとした。しかし、革命を支持する意見は、少なくなかった。ヒトラーとの闘いは、絶対絶命近くまで至ったが、連合国として闘っていたので、孤立していたわけではない。
 今のロシアは、革命時や対ヒトラーの戦争のときと比較して、軍事的には比較にならないくらい、安全な状態であるが、世界的な世論の反発は、かつてないほどだ。いくら独裁者といえども、体制を支えるひとたちの支持がなければ、政権を維持することはできない。これほど、世界から非難され、経済制裁を受けて、なおかつ、ロシアの権力を支えるひとたちが、ずっとプーチンを支持し続けるかは、かなり疑問である。おそらく、プーチン自らが、「反省して」退くことはありえないだろうが、反プーチン勢力が、追い落とすことは、十分にありうる。そのためにも、国際的批判が意味をもつ。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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