入試問題ミス 全員加点は正しいのか? 名古屋大学でも

 名古屋大学の入学試験で、世界史の問題にミスがでたという。いろいろと疑問に思うところがある。
 毎日新聞(2020.2.27)によると、「名古屋大によると、ミスがあったのは中国史に関する文章に(3)~(15)の番号が付けられた空欄があり、該当する語句を埋めたり、関連の歴史事実を解答したりする問題。空欄に割り振った番号を誤り、結果として、四つの問題で解答が導き出せなくなった。」ということのようだが、二次試験なのに、穴埋め問題なのかとまず驚いた。149人の受験生なのだから、全問記述式でだすべきなのではないかと、まず私は思った。共通試験の記述問題導入が大きな騒ぎになったが、共通試験のような50万人も受ける試験では、当然コンピューター採点以外ありえないので、選択式だが、その代わり、二次試験で記述試験にするべきなのである。

 ただ、そうしてないとしても、人間のすること、当然ミスがあるわけだから、出題ミスがあっても、正解がないという事態を避ける措置はしておくべきだすろう。穴埋めでも、「該当なし」という選択肢をいれておけば、致命的ミスの多くは避けることができるし、また、実力がないと、あてずっぽうの正解の余地も少なくなることは、これまでの研究で証明されている。それだけで、かなりの問題作成ミスは、ミスとして処理する必要がなくなる。
 私がいつも、この手のミスがあったときの措置に疑問をもつのは、「全員に正解の点を与える」というものだ。いかにも、不利益になる人がいなくなるから、クレームがつかないように思われるし、事実クレームはつきにくいのだが、不利益になる人がいないというのは、間違いだ。私が指導していた学生が、文科省主催の「小学校教員免許」取得試験、つまり、正規の教育課程で教員免許をとることができなかった学生や社会人に、3次まである資格試験があるのだが、それを受験した学生がいる。私の学部では、小学校免許を履修するためには、選抜試験があるのだが、それにもれたが、どうしても小学校の教師になりたい学生が、この資格試験を受ける援助をしたいた時期があった。
 非常に難しいとされる社会を科目として選んだのだが、(9教科から6教科を選択するのだが、教科によって難易度が異なり、社会はかなり難しいので、選択する人が少ない)そこに、出題ミスがあったのだ。難しい試験の出題ミスだから、なかなか解答を選択できないわけだ。まさか、それが出題ミスの問題で正解答がない、などということは思わないから、考えに考えて選択したが、そこに多大な時間を割いてしまった。当然、他の問題を解く時間が削られてしまった。そういう時間配分のまずさもあったが、結局、満足いく点数にならなかった。社会を受けるだけ、得意科目という意識があったので、まさか出題ミスだとは思わずに、時間をかけたのは、理解できる。
 結果として、そのミスの問題の点はもらったが、(といっても、2点程度だ)結局、総合点が一点不足して、落ちてしまった。競争試験ではなく、資格試験なので、この影響は本当に大きい。たった一点の差だった。「社会」が得意だからこそ、じっくり考えた人と、さっさとあきらめた人が、同じ点数をもらうというのは、あまり共感できないのだ。そして、そのことが、大きく影響して、一点差で落ちる。免許を取得できるかどうかが、こういう形で影響してしまった。
 ちなみに、その学生は、当時はかなり難しいと言われていた東京都の採用試験に合格していたのだが、資格試験不合格だったので、合格は取り消しになってしまった。難しい東京都試験に合格していたのだから、実力は十分にあった。その年、私の大学で東京都に合格した学生は、教育学部も含めて、非常に少なかったのだ。その学生が、大学としての合格体験記を語る代表に選ばれたことでもわかる。卒業後、通信で免許を取得して、現在は小学校の教師をしている。
 もし、ミス問題に、「正解なし」という選択肢があれば、その学生は比較的早く、正解なしという「正解」を選択して、他の問題にも十分取り組め、実力を発揮できた可能性が高いのである。試験問題を作成する人は、かなり慎重に作業していると思うが、ミスのないように、また、ミスがミスではなくなる工夫もきちんとした形で、問題作成をする必要がある。全員加点というのは、あまりに安易な方法だ。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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