ウクライナにロシアが侵攻すると、アメリカ中心のメディアがさかんに宣伝しており、ついにバイデンは、プーチンが侵攻の決定をしたとまで言い切ったようだ。しかし、こういう情報は、あくまでもひとつの見方に過ぎないことを注意しなければならない。20世紀からの歴史をみる限り、ソ連、そしてロシアが外国に侵攻した事例と、アメリカがそうした事例をみれば、アメリカが他国に軍隊を送って攻めたてたほうが、圧倒的に多いのだ。第二次大戦で、ドイツと競う形で国境沿い、その後の東欧諸国に侵攻したことを除けば、戦後は、ハンガリー、チェコ、アフガニスタン等、当然非難すべき事例ではあるが、形式的には同盟国からの要請を受けてという形になっている。少なくとも敵対国への侵入は、ほとんどない。
他方、アメリカは、北ベトナム、アフガニスタン、イラク戦争については、明らかに同盟国ではない敵対国への武力侵攻である。こうした歴史をみれば、戦争意志をもっているのは、ロシアよりアメリカだと見るほうが、妥当ではないだろうか。
米ソの関係でいえば、革命ソ連をつぶすべくシベリア出兵まで、アメリカはしている。
更に常識的にみれば、ロシアがアメリカと戦争して、勝つことは万が一にもないだろう。アメリカがロシアに陸軍が侵略したというのならば、ナポレオン戦争やヒトラーの侵攻例のように、アメリカの侵略が失敗する可能性はあるが、ロシアがウクライナに侵攻したために、アメリカおよびNATOが援護した形の戦争になれば、ロシアの敗北は間違いない。そんなことは、プーチンは十分に理解しているだろう。つまり、ロシアがウクライナを自国領土にするために戦争という手段に訴えるような可能性は、ほとんど考えられないのである。
では、戦争は起きないといえるのか。もちろん、起きる可能性はある。しかし、その発火点はウクライナそのものにある。ソ連崩壊後、ウクライナ政治はずっと混乱していた。そして、大統領をめぐるきな臭い陰謀が何度も起きている。そして、現在に連なっているのは、2014年、ロシア寄りだったヤヌコヴィチ大統領を、ウクライナ右派勢力が、クーデタで大統領を追い出した政変から、今日に至る紛争状態が続いている。右派勢力の背後にアメリカの援助があったことは、ほぼ確実である。ヤヌコヴィチはロシアに逃れ、ロシアは、対抗策としてクリミア半島を奪うことになる。そして、その後ウクライナ東部に居住するロシア人が、独立運動をし、ウクライナ政府との内戦状態となっている。その過程で、オランダを飛び立ったマレーシア航空の飛行機が、ウクライナ上空でミサイル攻撃を受け、墜落する事故も起きている。(打ち落としたのは相手だと双方が非難しているが、オランダ政府はロシア勢力であると結論づけている。)
ウクライナ政治が混乱しているのは、政治家が自立的に動くことができず、ロシア派と欧米派に分裂して、しかし、民主主義的な手続きを守ることができず、相互に武力行使したり、テロ行為をしていることにある。従って、平和的な政権移譲や、あくまで民主的な選挙によって政府が組織され、それを国民が全体として尊重する政治風土になっていないことにあるといえる。しかも、ウクライナは、ロシアからヨーロッパに天然ガスを送るパイプの通過国であり、かつウクライナ自身がロシアにエネルギーのかなりの部分を依存している。これをみれば、ヨーロッパがロシアとの戦争を望む可能性はかなり低い。
つまり、ウクライナの経済にとっては、ロシア、ウクライナ、ヨーロッパが共存していくことが絶対に必要である。しかし、ウクライナの政治のなかでは、東部のロシア人の独立派を認めるわけにはいかないと考えるナショナリストが大勢存在する。だから、東部を攻撃するが、東部は反撃する。この戦闘が激化すれば、東部勢力はロシアに助けを求め、すると、アメリカが介入する。このシナリオは、現実性が、残念ながらある。
そして、見のがすことができないのは、戦争になっても、アメリカにとっては、実害がないのである。ヨーロッパは重要なエネルギー源を一時的にせよ失うし、ウクライナ国内は戦争の被害をもろに受ける。ロシアは、長期になれば、確実に敗北するだろう。それに対して、アメリカは近代兵器、特に無人爆撃機を駆使して、ロシアを攻撃するだけで、自分たちの被害は最小限に抑えることができるし、経済的打撃は受けない。以前は、アメリカ経済は10年に一度の戦争を必要としている、などといわれたものだ。まだ10年経過していないが、戦争をあおっているのは、バイデンだと考えるのが、妥当だろう。
日本は、バイデンの尻馬に乗ってロシアを非難するのではなく、アメリカとロシア、ウクライナ、そして中国の調整に動くべきである。