ドーピング問題 指導者への罰が必要だ

 北京オリンピックは、審判の判定問題が多数でている。私は、基本的にオリンピック反対派なので、中継はみないが、報道で知る限りでは、近年になく不明朗な判定で揉めている印象がある。ジャンプのスーツ、スピードトラック競技の失格判定、平野のジャッジ。そして、今後もおお揉めになりそうなのが、ワリエワのドーピング問題だろう。まだ決着がついておらず、どうなるのかわからない。
 ロシアは国家的な関与が疑われて、ロシア国家としての代表派遣が認められないので、ROCなる組織をつくって参加している。ただし、これについては、「ドーピングをまったくしていない個人」という参加資格があるから、競技当日の検査でシロならよいというわけではない。

 今回の問題では、団体競技で金メダルをとったから、当然ドーピング検査が実施されたが、そこでクロになったわけではなく、何か突然、昨年12月の大会で、実はクロだったという報告が、なされたわけだ。16歳以下は、結果が公表されないというルールがあるのだそうで、そのために、これまでは報告がなかったのだろうか。しかし、公表はさておき、12月の大会でのクロが判明していれば、代表選手にはなれないはずである。公表は、あくまでも社会に対してのものであって、大会に対してではないはずである。ということは、ロシア側が、その結果を無視して、代表に選んだことになる。もし、検査機関が、大会関係者に対しても、結果を隠していたのならば、機関の責任も問う必要があるのではないだろうか。
 
 当然、立場が違えば、見解も異なる。
 ロシアメディアは、ワリエワに対して同情的で、今回の判定はシロだったのだから、いいではないかと主張しているようだが、代表派遣の大会でクロであれば、そこで失格するのだから、ルール通りにやっていれば、北京に来ることはできなかったわけである。これは、別にロシア人でなくても同様だが、ロシア人に対しては、国際的に特別に厳しくされているから、尚更、ワリエワがオリンピックに参加することはできなかったと考えるべきだろう。
 カタリーナ・ビットという、かつてのチャンピョンが、ワリエワ個人の判断ではなく、コーチに責任があるという同情論を語っているという。なつかしい名前だ。確かに、大きな責任はコーチにあると思うが、だからといって、選手を不問に付すことはできないだろう。ネットでけっこうたくさんの意見があるのは、コーチも処罰の対象にすべきだという。それは同感だ。最近の女性のフィギュアで著しいのは、とにかく、15歳くらいがピークで、18歳くらいになると、第一線になれない、引退状態になるという点だ。特にロシアでは、その傾向が強いようだ。浅田真央も、15歳制限にかからずに、参加できていれば、金メダルの可能性があったといわれている。4年間待たねばならなかったので、その間に体型的に不利になってしまったという見解だ。
 ロシアの場合、コーチと選手の関係でいうと、とにかく、選手は使い捨てのようなもので、ドーピングで勝利させ、そのことが事後的に問題になっても、次々に若い人材を育てていけばよいということになる。この悪循環を断ち切るには、やはりドーピングを主動した指導者の活動禁止が必要であろう。指導された選手だけが、責任をとらされるのは公正とはいえない。
 
 若い人にとっては、ドーピング検査は昔からあるように思っているかも知れないが、実は厳しくなったのは、21世紀にかかるあたりからではないだろうか。何か特殊な物質で、身体を興奮させたり、あるいは筋肉を増強させたりすることは、古代からあったようだし、特に、軍隊に対してドラッグを使うようなことは、一種のドーピングともいえる。しかし、スポーツでは、19世紀後半あたりから少しずつ活用されるようになったらしい。ドーピングによる死亡事故がおきて、徐々に禁止されるようになり、検査が行われるようになった。
 私が若いころの記憶として、たしかミュンヘン大会だったと思うが、デーモンというアメリカの水泳選手が、1500メートル自由形で金メダルをとったのだが、ドーピングで失格となり、金メダルが剥奪されてしまった。ただ、彼は小さいころから喘息もちで、身体を鍛えるために水泳を始めたのだという。しかし、ずっと薬は服用しており、その薬のなかに、禁止物質が含まれていたということだった。気の毒だと思ったし、同情も大分寄せられたが、結局メダル剥奪は覆らなかった。コーチがしっかり食事や服用する薬の成分をチェックする必要があると、言われるようになったきっかけだったと思う。
 他方で、当時は東ドイツやソ連では、ドーピングによる身体改造が盛んに行われていたと言われている。東ドイツの女子水泳選手の体型などが、よく話題になったものだ。現在、ロシアで国家的にドーピングをやっていると思われているが、そうした「伝統」が残っているのかも知れない。そういう意味で、やはり、指導者への罰則が必要だと思われる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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