共通テストの不正再論 本当にスマホを使ったのか

 入試問題を研究してきた人間として、今回の事件は、注目せざるをえない。やったという本人が現れて、一部手口が報道されている。それによると、スマホを袖口に隠して操作したということと、一人でやったと白状しているというのだ。昨日、スマホを使ってやるのは、99%以上の確率で不可能だと書いたので、再度書かざるをえないと考えた。
 正確なことを公表すると、まねする受験生が出る可能性があるから、本当ではないやり口を公表したという可能性はあると思う。当初は、やりくちは公表しないのではないかという憶測も流れていたから、ありうると思うが、そうだとすると、やはり、私の想像した手口は異なる。
 
 とりあえず、スマホを袖口に隠して操作したということだとすると、まず自白の信憑性を疑わざるをえないということだ。本人が手口を隠している可能性もあるが、それは警察としても、実際にやってみさせるだろうから、検証しているだろう。ただし、「一人でやった」というのは、かなり無理があるのではないか。

 まず動画をとって、それをページごとの画像に切り出して、画像を送信したというのだが、それを試験会場で、一人で隠れてやることは、不可能だとしか思えない。可能だとしたら、動画を撮影することだけではないか。すると、協力者がいて、協力者に動画を送り、協力者が動画から画像への切り出しをして、解答者の東大生に送信して、さらに、送り返された解答をスマホでもみやすいように加工して、受験生に送信した。これなら、もしかしたら隠れて、スマホでの対応も可能かも知れない。しかし、それでも、かなり難しいのは、返信された正解答を見ることだ。撮影は、レンズ部分だけを外にだせばいいが、見るためには、画面のかなりの部分をみられる状況に置かなければならない。実際に、スマホでカンニングした受験生が摘発されている。
 ここで、以下のことがいえる。協力者がいた場合には、かなり危険で可能性が低いが、スマホの操作でできたのかも知れない。
 協力者がいなくて、一人で送信・受信をしたというのならば、動画撮影で、画像きりだしをしたという作業は、見つからずにすることはやはり不可能ではないかと思う。それならば、シャッター音を消すアプリと、自動シャッター機能で撮影したのだろう。しかし、これでも、正解答を見るのは、困難がつきまとう。
 
 いずれにしても、監督官がかなり怠慢であったといわざるをえない。靴音がうるさいというクレームがあるから、見回りが十分でないとしても、まったくやらないわけではないだろうし、前からみていても、不自然な動作をしている場合には、明瞭にわかるものだ。視線、手の動作等をみれば、異常に気づかないとしたらおかしい。一人で100人以上もみているわけではないのだから。監督者の責任も問われるほどのことではないだろうか。
 
 ことがらの性格上、正確な情報提供がまずいと判断されるようなことでもあるので、この手口の報道については、もう少し待つ必要があるように思われる。少なくとも、成功率という点では、私の考えている方法のほうが確実だ。
 なお、電波妨害をして、外部との連絡を遮断しておくべきではないかという意見もあるが、それでは、試験会場と本部の連絡もできなくなってしまうから、無理なことだろう。
 
 犯人は、大学生で仮面浪人だったという。それなら、いろいろな算段をとる時間はたっぷりあっただろう。また、在籍を続けるのが不満な大学だったのだから、確実に正解答をだしてくれるような友人もいなかったのかも知れない。もし、進学校での浪人生が、現役で合格した東大生に友人として依頼したら、成功していたかも知れない。しかし、そのような場合には、浪人生が努力して実力で合格するように頑張るだろう。そもそも、こんな不正をして、たとえそれが成功しても、ずるする人間というのは、困難にぶつかると、自分の努力で打開できない人間になってしまうものなのだ。そして、だんだん周囲の信頼を失ってしまう。そういうことをしっかり学んでほしいものだ。ちなみに、この学生に対して、現在の大学はどのような措置をするのだろうか。
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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