大学入試で、これだけ世間を騒がせた不正は、久しぶりではないだろうか。私が若かったころは、毎年のように新手の不正が登場したものだ。いまだに記憶にある印象的なものは、当時刑務所で入試問題を印刷していたが、印刷にかかわっていた囚人が外と連絡をとって、休憩時間にラグビーボール(?不確か)のなかにゲラをいれて、塀のそとに蹴りだした事例と、さる有名女子大で、娘の代りに父親が替え玉受験したという事例だ。特に後者については、いまでも頻繁に話題になる。母親が替え玉になるのはわかるが、父親が娘の振りをするというのは、なんとも大胆だ。私の記憶では、すね毛が濃いことに不信をもたれて発覚してしまったのだが、黒いストッキングでもしていればわからなかったのに、と冗談に言い合ったものだ。
その後、受験生の入構チェックが厳しくなったとか、試験中の監督も厳しくなり、そうした不正は少なくなり、不正はほぼ私大の医学部に集中するようになっていた。ちなみに、大学紛争によって、入試粉砕闘争なるものが行われるようになる以前は、入試の最中でも、普通に学内にはいることができたものだ。そのため、いくつかの大学では、現役学生が学内に控えていて、入試が始まると試験問題を受け取り、急いで解答して、正解答集を印刷して、帰宅する受験生に販売するなどということも行われていた。これは構内にはいることができるため可能だったわけだ。
今回起きた事件は、この解答作成を思い出した。当時は、当然合法的に行われていたわけだが、デジタル機器を駆使して、不正に、秘密裏に行うというものだったわけだ。
事前に、家庭教師依頼をするために、実力を確認したいということで、問題を決められた時間に送り、時間内に解答を送り返すという約束をしておく。そして、当日何らかの方法で問題を撮影して画像を送り、何人かが分担して解答し、時間内に送りかえすことで、それをみて、受験生が答案用紙に記入するという方式だ。デジタル機器で、スカイプを経由して、問題と解答の送信をしていたようだが、受験生が、どのように撮影し、送り返された解答を試験会場で見たかは、報道されていない。おそらく捜査機関からの依頼で、報道されない可能性が高いと思うが、もちろん、既にネットでは方法についての意見が現れている。
私なりの方法を思いつき、これなら、試験会場で、完全に、かつ怪しまれることなく実行できるという方法を確認したが、ここでは書かないことにする。悪いことを実行する方法を公開するのはどうかと思うからだ。ただし、スマホなどを使う方法ではない。まあ同じことを考えるひとはたくさんいると思うが。
私は、センター試験の監督を何度もやったが、スマホを試験中に操作することなどは、99%以上の確率で不可能である。それにしても、情報機器の進歩は、これまでありえなかったような不正を可能にもする。こういうことを思いつき、かつ実行するまで緻密にやれるなら、こんな悪いことではなく、もっといろいろなサービスを考えだして、起業でもしたほうがよいのではないかと思ったほどだ。
それにしても、最近起きなかった大学入試の不正が、このような形で起きたのは、実に意外だった。というのは、現在は大学全入が実現しており、大学を選ばなければ、まず確実にはいることができる。もちろん、一部難関大学や医学部などは、かなり難しいとしても、大学定員のよりもはるかに受験生か多かった時代に比べれば、大分易しくなっている。それをあえて、不正をしてでも合格したいというのは、東大でも狙っていたのだろうか。あるい医学部でも。しかし、不正をして、実力がないのに合格しても、現在の偏差値の高い大学は、かつてほど「レジャーランド」ではないし、簡単に卒業できるわけではないだろう。
これだけの工夫と実効力があるのだから、受験勉強にエネルギーを注げば合格に手が届いたのではないだろうか。
この不正に対して、多くのひとたちは、監視と罰則の強化を主張しているようだが、私の見解は違う。これまで何度も書いてきたが、入学試験という日本独特のやり方が、勉強のさせ方において、時代遅れになっているし、こうした受験制度の元では、生徒たちのベストの発達は保障されない。だから、入試をやめることが大事で、これをきっかけに、そのことまで含めた検討をする時期に入ったのではないかと思うのである。IT機器を使った不正はこれからも起きるだろうし、そもそも、今回は他人に頼んだからばれたが、知人に頼んで、了解済みで協力してもらえばばれなかったのであり、そうやって不正に成功して入学した学生がいるかも知れないのだ。私が想像した方法では、おそらく監督官が注意していても、見のがす可能性のほうが高いように思う。だから、不正の取り締まりの強化といっても、実効性が薄いようにも思われるのである。
香川県で「私がやりました」という自首があったそうだが、これから事実が明らかになっていくだろう。