今回は最後の検討だが、対象は小泉内閣のときにだされた「皇室典範に関する有識者会議」の報告である。周知のように、これは、長子継承の提案を行い、小泉内閣のときに法案まで準備されたものだが、議論が始まる前に、悠仁親王の妊娠が発表され、安倍官房長官が、この親王の即位を妨害するのか、と小泉首相に迫って、改革を見送らせたというものだった。しかし、答申としては残っており、当然今回の有識者会議においても、最も重要な文書として検討の対象とすべきものだったはずだが、まったく無視されたようだ。
この文書をじっくり読んでみたが、自民党政府の審議会報告として、これほど、明快な論理と結論を示した文書を他に知らないくらいである。
さて、内容を紹介しつつ、検討してみよう。
報告書の構成は
1 問題の所在
2 基本的な視点
3 安定的で望ましい皇位継承のための方策
4 結び
となっている。
問題の所在は、当然、このまま推移すれば、皇位継承者がいなくなるということである。だから、安定的で望ましい皇位継承のための方策を提示する必要があるということだ。そして、憲法を前提にすることが明確にされている。これは今回の「皇位継承有識者会議」の報告書には、見られない姿勢である。
憲法を前提にして、基本的な視点を3点あげている。
・国民の理解と支持をえられるもの
・伝統を踏まえたもの
・制度として安定したもの
伝統主義者は、男系が一貫していたという「伝統」に固執しているが、男性は伝統ではなかったし、また、伝統そのものが時代によって変化し、新しい積み重ねで伝統が新しく形成されてきたとも書いている。天皇のありかたが、時代によって大きく変化してきたことは、明らかであるから当然の視点といえるだろう。(皇位継承有識者会議では、国民の理解と支持、制度としての安定はまったく達成されていない。)
このまま現皇室典範の男系男子を維持すれば、継承者がいなくなることは、誰にも明らかなのだから、やはり、何が変わったのか、何が変わってはいけないのかを腑分けすることが大事だろう。
報告書は、男系が維持されてきた背景には、男子優位の社会と、非嫡出子を容認していたことをあげている。女性天皇は8人だけであったが、非嫡出子の天皇は、実に半数近かったというのである。旧皇室典範は、もちろん非嫡出子の皇位継承を認めていた。しかし、外国との関係で、大正天皇や昭和天皇は側室をもたなかったにすぎない。そして、戦後の新皇室典範で、非嫡出子を認めないことを明確にしたのである。
つまり、非嫡出子と女性・女系を両方認めないことが、安定的な皇位継承者の確保を阻害していることになれば、天皇制の維持を前提とする以上、どちらか、あるいは両方の制限を外す以外にはない。
ここで、この会議は、憲法や国民の理解と支持を考慮して検討することになる。皇位継承有識者会議とはまったく異なる姿勢だ。
非嫡出子でもよい、とすることは、まったく現在の社会状況や国民の意識、国際的理解をえられないことは明らかだろう。だから、今回の有識者会議でも、そのことは同じ判断にたっている。それに対して、女性・女系の継承者を認めることは、どうだろうか。これは、国民は7,8割の賛成を示しているし、国際的にみても、女王は普通に存在しているのだから、まったく問題がないわけである。そして、憲法でも男女平等原則が明確にされている。むしろ、女性・女系を認めない人は、日本人としても圧倒的少数派であり、国際的にみれば、そういう見解こそ非難の対象であろう。
そこで、この報告書は、女性・女系を容認し、長子継承の原則を提起したのである。それ以後、こまかい順位等の考えかたが述べられているが、それは技術的なことであり、検討する必要はないだろう。
以上のことから明らかなように、現在の皇室のありかたをみれば、小泉内閣の打ち出した方針こそが、適切に現状の問題を解決する、ほとんど唯一の方法であることは明らかである。
(両報告書はウェブ上で簡単に読むことができる)