皇位継承有識者会議報告書の検討2

 まず初めに確認しておく必要があることは、この皇位継承有識者会議(会議1と略)の認識が、まったく国民の見解と隔絶しているという点だ。どのような世論調査でも、女系天皇・女性天皇の支持者は7割を超え、女性天皇に至っては8割以上が賛成している。ところが、この会議1が行ったヒアリングでは、21名から意見聴取をしたそうだが、「ヒアリングの中では、皇位継承のルールについて悠仁親王殿下までは変えるべきでないとの意見がほとんどを占め、現時点において直ちに変更すべきとの意見は一つのみでありました」と書かれている。もちろん、女系天皇・女性天皇支持に対して、ただちに変えるべきかという質問項目にすれば、減るかも知れないが、女性天皇支持者は、愛子天皇実現を望むという意味と考えられるから、実質的には直ちに変更を望んでいるわけである。国民の70%と、会議1のヒアリングでは、4.7%の相違は、はっきりと記憶しておくべきことである。つまり、国民の意識をまったく無視したヒアリングをした上での報告書であるということだ。有識者会議は、「天皇は国民の総意に基づく」という意味を、真剣に考えてみたことはないに違いない。この点については、報道でほとんど触れられていないので明確にしておきたい。

 
 次に、「秋篠宮、悠仁親王という継承の流れについては、ゆるがせにしてはならないということで一致した」という認識を確認した上での議論だった点について検討しよう。
 これは、二重の意味で間違っている。
 第一に、前に書いたように、国民の総意ともいうべき世論に反している点である。
 第二に、報告書そのものが矛盾しており、「流れをゆるがせにしてしまう」可能性があるという点である。この会議1は、皇位継承と皇族数の減少についてが課題であるが、事実上、皇位継承については先送りにして、見解が示されていない。つまり、悠仁親王の即位までは時間があるから、いまは緊急の課題ではないということか、あるいは、どうしていいかわからないか、本当は国民の意識を尊重すべきだが、それには政治勢力のある部分が許さないから、明確にできないか、理由はわからないが、とにかく最も大事な部分が未検討になっている。そこで、皇族が減少すると公務にも差し支えるから、皇族の確保をしようと、いくつかの提案をしているわけだ。
 そのなかに、「皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること」という案が含まれている。これは、最終手段だということになっているが、とりあえず提案されているのである。すると、まったく仮定の話だが、以下のようなことが起きる可能性がある。
 この法律によって皇族になったある男系男性と、愛子内親王が結婚して、男子が生まれたとする。すると、その男子は男系男子で、皇統に属することになる。令和にそうしたことがおきたら、その男子は天皇の直系の孫になり、直系優先が現在の皇室典範だから、継承順位は1位になるのではないだろうか。つまり、秋篠宮1位、悠仁親王2位という継承順位は崩れるのである。
 もちろん、そんなことか起きることを、私が望んでいるわけではない。私は、長子継承がよいと思っているので、報告書のとっている基本的立場に賛成していないのだから。だが、そういうことが論理的可能性としてはあるのだということだ。
 
 第三に皇族数確保の前提としての任務の是非をまったく検討していないことである。「国事行為の臨時代行」「摂政」「皇族会議」「文化・学術・スポーツ振興などの公務・外国訪問」などに皇族が必要であるという前提にたっている。前三者は確かに皇族が必要であるが、2名いればよいことになる。そして、それは確かに現在の天皇制を前提にすれば、必要な皇族といえる。しかし、最後の「公務」なるものは、再検討する必要があるものだろう。外国訪問にしても、秋篠宮家のひとたちの場合、訪問先で顰蹙をかってしまうことも多かったと言われており、また、振興のための公務などは、逆に民間による皇室利用という側面があり、かえって問題を抱えているともいえる。こうした点については、精査が必要である。利用される公務に熱心であったといわれる秋篠宮家において、小室問題が起きたのは、けっして偶然ではないというべきなのである。(つづく)
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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