日本は本当に能力主義社会か12 コネ採用 日大田中体制から

 本日(12月26日)に時事通信の記事「日大に「縁故採用」規定 職員応募、学長・監督の推薦必須 田中体制で強化」が掲載されている。 https://news.yahoo.co.jp/articles/ba0fe2910f8dfe7d2fffb640a175eaa6ea49c1dc
 ヤフコメが実に多様な意見が出ていて、珍しい現象だと思う。また見出しを読むと、日大が縁故採用をルール化しているような印象を与えるが、記事を読むと、必ずしもそうではない。
 記事によると、日大の2022年度大卒職員(一般職)採用選考試験実施要項によると、応募資格は
(1)大学の長等(他大学の長も含む)により推薦された者
(2)日大競技部に所属し、優秀な競技歴を有し、かつ将来競技部の監督・コーチの後継者となることについて期待し得る者
(3)日大任期制職員(一般職)にある者で、所属部科校長等により推薦された者
 要するに推薦状が必要であるとしているだけで、推薦状を大学が発行する場合には、実際に文章を書く人がだれかは別として、推薦する名義は学部長であったりする。ただし、この記事が批判的に扱っていることは、このことではなく、以下の部分だと思われる。

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 日大によると、この要項は「(採用者の質の)一定水準を保つため」、01年には設けられていたという。  日大関係者は「08年に田中氏が理事長になり、側近を人事部長に据えてから『縁故』が幅を利かせるようになった」と指摘。特に田中被告らが所属していた体育会や、背任事件の舞台となった「日本大学事業部」からの採用が目立って増えていったという。
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 つまり田中体制になって、縁故者がおそらく増えただろうし、縁故者が力をもつようになったということだ。面白いのは、私が勤めていた大学とは推移が逆だということだったし、また、縁故採用が必ずしも悪いとばかりはいえないことだ。
 私が勤めるよりも20年くらい前に設置された大学だったが、設置の際は、縁故もなにもないわけで、とにかく、ツテを頼って事務員だけではなく、教員も集めたようだ。私が勤め始めたころは、そうした職員が高齢者になり、新しく採用された事務がだんだん多くなっていた。そして、新採用の多くは、大学の卒業生だった。これは私立大学では、珍しいことではない。日本教育学会の会長を務めたことがある寺崎教授が、東大から立教に移ったとき、この事務員構成の特質に驚いたそうだ。卒業生が多いことだ。そして、肯定的に評価していた。つまり、卒業生は大学を支えようという愛校心が強いというのだ。
 それは私の大学でも感じた。
 では、どのような学生が事務員として採用されていくのか。厳密なルールが決まっているわけではもちろんないが、だいたいは、学園祭の実行委員長なり指導的立場にいた学生と、全国大会で常時優勝しているような部活の指導者が主要な供給源だった。もちろん、有力教員の強い推薦があると有利であることも事実のようだ。こうして採用されたひとたちは、私の見る限り非常に有能だったし、また仕事の姿勢も積極的だった。これは、明確な根拠があったといえる。学園祭を運営していくことは、かなりの意欲、能力、人望が必要である。だから、責任者として運営を成功させることは、優秀な人材であることがかなり保障されているわけだ。常時優勝している部活は100人以上の部員がおり、これも運営がかなりしんどいといえる。そうした組織を切り盛りしたことは、更に、実質的に担当の教員に推薦される必要があるのだから、2,3回の面接で判断するよりも、ずっと適性を正確に見ることができる面もあるのである。
 外からみれば、これもコネ採用と判断されるのだろうが、大学が拡大傾向にあった時代だったから、能力をもち、組織への愛着がある彼らの選抜には、合理性があった。
 しかし、内部からばかり採用するのは問題であるという声がでるようになって、一般公募に切り換わった。そして、それ以降は、けっこう名前の通った大学の卒業生が事務員として採用されるようになった。内部との比率等については、知る立場ではなかったが、そうして外部から採用された事務は、確かに高い能力をもっていたように思う。ただ、教員と密接に関係しながら仕事をする教務などについては、大学特有のやり方があるから、そうした点での不慣れから、トラブルなどもいくつかあったように思う。
 企業体が新しく人を雇うとき、能力や人間性の高い人をとりたいわけだが、信頼できる、よく知っている人の推薦は、適切な人かどうかの判断として有効であることはいうまでもない。要は、最終的に判断する主体の人を見る目と、企業体の発展を心底望んでいるかによるのだろう。田中元理事長のように、自分の利益・権力の拡大が大きな目的であれば、そうした合理的な選抜のあり方が、権力拡大に寄与してしまうことになる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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