ジャーナリストによる名誉毀損訴訟2

 前回、安田氏は、極めて狭い価値観からものごとを見ているのではないかと書いた。それを感じるのは、小室圭-真子氏の結婚に対する見方である。
 「皇室と結婚の報道に感じる理不尽さ」と題する文章を日経新聞のCOMEOというサイトに書いている。皇室と結婚の「報道」に感じる理不尽さ|安田菜津紀(フォトジャーナリスト) (nikkei.com)
 
「両性の合意に基いてのみ」婚姻が成立するはずのこの社会で、生まれながらにして「国民」扱いされず、寄ってたかって自身の結婚を「認める」「認めない」と言われ続けなければならない立場に置かれてしまう不条理…報道に触れる度、そんな違和感を抱いていた。
「こっちは税金払ってるんだから」という乱暴な声さえ耳にする。自ら立候補した国会議員と違って、彼女は生まれながらにして今の立場にある。「お金が絡むんだから結婚にも口を出されて仕方がない」かのような立場に誰かを追いやっていること自体が、非常に理不尽ではないだろうか。
 
 このあと、小室圭氏の帰国時の騒動について触れているが、ロンゲがどうのこうのという報道については、私も呆れていたので、その部分については特に異論はない。問題は、上の引用部分だ。

 安田氏は、難民、移民、戦場の被災者たちを取材する、極めて硬派で社会的なジャーナリストであるのに、この結婚問題を、まるで純粋なプライベートなことであるかのように受け取っているのだろうか。今や、この問題が、極めて政治的な意味をもつ「事件」であることは、疑いようがない事実として認識されている。ほとんどの皇族の結婚は、国民に祝福され、なんの問題も発生させないし、高額な一時金に反対意見がでるわけではない。今回の結婚に、国民の多くが反対し、いまだに騒ぎが収まっていないのには、それだけの理由がある。
 天皇が国民の象徴であり、国民の総意に基づく存在である以上、天皇を補佐する立場の皇族の結婚が、国民の関心事でないはずはないし、また、国民に祝福される結婚であることも求められることは、当然のことだろう。私自身は、それでも、ふたりの結婚そのものには反対する意志はないが、反対するひとの気持ちは十分に納得できる。小室家の問題が借金だけであるかのように、安田氏が思っているとしたら、あまりに認識不足だろう。また、借金は母親のことだという認識も、その借金の大部分が、圭氏の教育費のためのものであることを考えれば、それも間違いである。この家庭には、国民の象徴たる天皇家と姻戚になるには、あまりに影の部分がありすぎることは、少しでも調べればわかることである。
 しかし、それは結婚というプライベートなことだというのも可能だ。
 だが、反対するひとたちが、本当に問題にしているのは、そういうことではない。端的にいえば、一般人、あるいは一般人になった夫婦に対して、不当な公的支出や支援があるということだ。結婚前は、それは憶測だった。
・小室圭氏のフォーダム大学の入学やその後の就学や生活には、不当な働きかけと不当な費用の援助があったのではないか。
・夫婦の生活費には、税金が支出され、ビザの取得にも特別な働きかけがあったのではないか。
 結婚する場合には、生活の基盤が整っていることは、常識に属するが、この二人はいずれも十分な生活基盤がないし、フォーダム大学の大学院に入学するための基礎条件を小室氏が満たしていないことは、様々なに指摘されていた。また、修得できるはずのない奨学金を受領し、できないはずのLLMからJDに編入したとされていた。
 しかし、こうしたことは、小室氏のニューヨーク司法試験不合格がきっかけになって、次々と裏の事情が明らかになってきた。フォーダム大学への入学は、裏口入学といわざるをえないものであったこと、JDを卒業したと称していたが、卒業していないらしいこと、結婚後の日本およびニューヨークの住居や生活に対して、税金が投入されていること、これらは、多くのひとの情報提供で、ほぼ確実であるといわれている。もちろん、善意の援助もあるだろう。しかし、後々の利益を狙った援助もあるに違いない。
 
 「こっちは税金払っているんだから」などという乱暴な言い方を、私はネット上で(ネットに紹介されたり、掲載されたメディア報道でも)みたことがない。結婚にもの申すひとに対して、そういう言い方をすることは、誹謗中傷ではないのだろうか。
 結婚について反対する立場は
・皇室を思う気持ちから
・真子内親王が幸せになれるとは思えないから
があり、そういう発言をする資格があるとすれば、それは「国民の総意」の一国民として述べている、と私は解釈している。「税金払っているんだから、いう資格がある」というような発言をみたことはない。それは、逆に結婚へのネガティブな意見を書くひとへの非難のなかに見られる言葉ではないだろうか。安田氏が使っているように。
 税金の話は、一般人である小室圭氏や一般人になった真子氏に、不当に税金を支出するのはおかしいという文脈ででてくることだ。
 
 安田氏の誤解はさておき、ふたりの結婚に関しておきたことは、日本の皇室そのものの存続にかかわってくるほどの大きな影響を与える可能性がある。そういう政治的な事件だという認識は、現在広くもたれている。決して、ふたりの人間が単に結婚したというような、私的な領域のことではないのである。
 安田氏が、社会的な問題を訴えていくジャーナリストであるならば、その程度の認識はもつべきであろう。また、自分がかけられた言葉を名誉毀損だと訴訟まで起こすのならば、自分と見解が異なる立場に対して、「乱暴な」などという言葉を浴びせるべきではない。率直にいって、私は、上記に引用した安田氏の文章に対して、強い不快感をもった。
 
 安田氏は、まだ若いジャーナリストだから、今後成長していくことを臨むが、自分と異なる意見のひとと、しっかりと論争して、自分を鍛える必要があるのではないだろうか。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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