COPは成功するのか 温暖化で儲ける人々

 イギリスでCOP首脳会談が開催され、岸田首相は数時間だけ滞在するという離れ業のような参加をして、とんぼ返りをしてきた。総選挙とその後の特別国会を控えているためだが、とにかく大変な仕事だ。ところで、COPは成功するのだろうか。これまで、世界の首脳が声を大きく主張してきたわりには、目標の達成はおぼつかないようにも思われる。スウェーデンの高校生グレタが、今でも政治家たちは偽善的で、しなければならないことを回避していると非難している。おそらく、世界の指導者たちが、努力を表明しているのだから、真剣なのだろう。しかも、今年度のノーベル物理学賞は、気候変動のモデルをつくった真鍋氏が受賞したが、これは、世界の科学者たちが、温暖化ガスと人間の活動による気候変動が、本当に深刻な状況になっていると、大々的にアピールしたようなものだろう。
 しかし、残念ながら、それとはまったく異なる動きもある。そのことを少し考えてみたい。

 第一は、二酸化炭素の排出による温暖化などは、嘘・デタラメだという宣伝の大きさである。これは、日本のyoutubeをみても、そうした主張を流しているものが、多数ある。しかし、そのなかには、「科学者である」と称している者すらある。注意深く視聴していると、そのデタラメな論理が浮きでてくるのだが、なんとなくみていると、なるほどと思ってしまうかも知れない。
 そうした気候変動デタラメ説は、決して個人の思いつきではなく、組織的な背景があるようだ。そうした背景と活躍する人物に焦点をあてたドキュメントがある。NHKのBSで放送された「地球温暖化はうそ?世論動かすプロの暗躍」というものだ。今年の8月に放送されている。
 番組は冒頭で、NASAのハンセン博士が、地球温暖化への継承をアメリカ議会で述べたのが、1988年であり、ブッシュ(父)大統領、サッチャー首相などが、真剣に取り組むことを表明した映像、そして、山火事や食料危機などの深刻な事態の紹介から始まるが、すぐに、それを組織的に反対するプロパガンダの手口を解明していく。
 ここには、何人かのスピーカーたちが登場する。
 ジェリー・テイラー。気候変動を否定する議論を展開していた。みずから、自分は口が達者で、テレビ映りもいいと自慢する。そして、目的は、気候変動や温暖化などについて、科学者たちが述べていることに疑いをもたせることだという。つまり、積極的な異なる見解を述べて、それを納得させることなどは意図していない。
 マーク・モラノ。彼も、疑問をもたせることを目的としている。温暖化を否定するデータを集めて、科学者との議論でそれをつきつける。セールスマンだったが、そこで話術を鍛えられ、それが生きたという。テレビでは、相手が馬鹿げていているようにみえるようにする。テレビ討論にでて、科学者を相手にするが、お前の見解は、データが欠けるといいたてる。自分は、話術がたくみで、畳みかけるようにいうので、そういう議論になれていない科学者たちは、たいてい押されてしまうというのだ。人は、合理的に意見を決めるわけではなく、感情的に、ほしい結論を探す。だから、温暖化で深刻だという意見よりは、そんなことは嘘で、心配する必要はないという意見に飛びつくというわけだ。「大騒ぎする必要はない。いつもの脅しだ。資源が枯渇するといっていたが、そんなことは起きていない。」といえば、人々は、納得する。
 温暖化は嘘だといいたてている人たちのなかには、気象学の専門家はいない。多くは、科学者ですらない。「話術の専門家」が多いというのが、このドキュメントの情報である。そして、彼等は、利益団体やシンクタンクに所属して、その背後には、石油メジャーがいる。エクソンなどの石油メジャーが、資金をだして、シンクタンクに研究させ、話術の専門家に、科学者と対決させる。
 ただし、すべての石油企業が、温暖化をウソだと宣伝することに力を貸しているわけではなく、温暖化の研究自体にも資金を提供しているものもあると付け加えている。
 
 第二は、温暖化は、決して人類の全員にとっての深刻な事態とはいえないということである。それだけではなく、利益である部分も存在し、また不利益を利益に変える産業に取り組んでいる人々もいるということだ。別段不思議なことではなく、温暖化が進めば、ロシアがこれまで夢にまでみた不凍港が実現するし、グリーンランドの氷河がなくなれば、普通に農業ができるようになる。いまではデンマークからの独立運動すら起きているが、それは温暖化が可能性を意識させたからだ。北極圏には膨大な石油が埋蔵されているといわれており、温暖化によって採掘が可能になる。シベリアも厳しい地域ではなくなる。このように、温暖化の恩恵を受ける人や地域もあるわけだ。しかし、それだけではなく、温暖化によって困った事態になるからこそ生まれる産業に投資する人たちもいる。それを詳細に追いかけたノンフィクションがマッケンジー・ファンク著の『地球を「売り物」にするひとたち 異常気象がもたらす不都合な「現実」』(ダイヤモンド社」である。
 まず北極圏に実際にいって、氷が溶けることを期待している人々を、次に、様々な温暖化ビジネスを紹介している。「強欲な人間のシンプルでシニカルな前提『気候変動は止まらない』」という標語が、現実をつきつけている。
 各章の題をみれば、おおよその内容は見当がつくから、詳細な紹介は省いて、各章の題名を載せる。
1 コールドラッシュ
2 シェルが描く2つのシナリオ 気候変動を確信した石油会社は何を目指すのか(争奪戦の世界へ)
3 独立国家グリーンランドの誕生は近い
4 雪解けのアルプスをイスラエルが救う 人工雪と淡水化というおいしいマーケット
5 災害で利を得る保険ビジネスの実態
6 水はカネのあるほうへ流れる 投機対象になった次世紀の石油(=水)
7 農地強奪 ウォール街のハゲタカ、南スーダンへ
8 環境移民という未来の課題 緑の長城が防ぐのは砂漠化か、それとも移民か
9 肥沃な土地に逆流する脅威 バングラデシュからインドへの移民が後を絶たない理由
10 護岸壁、販売中 オランダが海面上昇を歓迎する理由
11 地球温暖化の遺伝学 デング熱の再来で盛り上がるバイオ産業
12 テクノロジーですべて解決 気候工学信奉者の楽観的な未来
エピローグ 気候変動に関する、もっともつらい真実  私たちは手遅れになるまで傲慢さに気づかない・誰かを犠牲にした利益に手を伸ばす前に
 
 エピローグでわかるように、著者は、気候変動で儲けようとしているひとたちに、強い疑義と問題提起をしているわけだが、実際に、気候変動によって起きている現象への対応で、巨額の利益をえようと奔走している人たちが、実にたくさんいるという現実も、また否定できない事実なのである。氷河が溶けて、海面が上昇すると、もっともこまると考えられているオランダが、実は、それへの対策技術を使って、ちゃくちゃくと経済的利益をえているという、実に皮肉な現実が紹介されている。これが、この本のもっとも印象的な提起だ。ちなみに、砂漠化の防止のための緑化の活動に、日本の宗教団体が大きく関わっていることも紹介されている。新興宗教団体の「崇教真光」という団体だそうだが、そのホームページにも確かにそうした活動が書かれている。
 本書は、大変興味深い内容なので、ぜひ多くの人に読んでほしい書物だ。
 
 京都議定書は、温暖化を経済的利益を媒介にして、縮小しようという試みを初めて提示した。しかし、それは二酸化炭素の排出を抑えることが、明確な目的であったといえる。しかし、マッケンジーが紹介したビジネスは、温顔化が進むほど利益がえられるという構造になっている。どんどん温暖化してくれ、そうすれば、俺たちは得するというわけだ。COPがこうした側面にも切り込んでいけるか、検証する必要があると感じた。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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