小室夫妻会見 殺伐としたものを感じたひとは多いだろう
歴史に残る記者会見となったといえる。皇族の結婚という、国民の祝福が極まるようなことであるのに、なんとまあ、殺伐とした空気が支配していたことだろう。こんな会見ならしないほうがよかったという見解が、多数だされているが、同感だ。個々の内容に詳しく触れる必要はないだろうが、今後の天皇制のあり方とも関連して、いくつか驚くことが語られたので、それについては、触れざるをえない。
なんといっても、驚いたことは、小室圭氏の母親とその婚約者のあいだの金銭トラブルに関して、また圭氏の留学について、真子氏が主動し、真子氏の意図に反した対応をとったことはないこと、そして、先のこととして考えていた圭氏の留学を、あの時期に実行して、海外に拠点をつくってほしいと願ったのも真子氏であったということが、本人から語られたことだろう。
前者については、憲法違反だという批判まででている。私自身は、別段憲法違反だとは思っていないが、皇族が、民間人のトラブルに介入し、一方の肩をもって、他方を批判するというような行為をしたことは、強い批判を受けてしかるべきだ。これでは、批判された元婚約者が気の毒だ。会見でも、理不尽な要求をしているように言われていた。
また、留学の件についても驚きだ。費用はまったく出していないということだが、では誰が出していたのかということになる。留学してくれといった以上、費用の相談は当然しただろう。勤め先が出していたとされる金額では、とうてい賄えないはずだから、だれかが負担していたことは明らかだ。この点こそが、「黒幕はだれか」ということに関連することで、今後皇室のあり方に影響を与える可能性が高い。
何度も書いたように、この二人の結婚それ自体は、どうでもよく、ネットで主張されているような、幸せになれない、反対だ、皇族と結婚するような家柄ではない、とか、そういうことをいうつもりはない。本人の自由に属することだからだ。
しかし、歴史上何度も繰りかえされてきた皇室利用が、現在の皇室に向けられた具体的な行為であり、そのことが、天皇のあり方に、今後重要な意味をもつ点で、関心をもたざるをえないのである。それは、小室氏が皇室利用をしたというレベルの話ではなく、もっと大きな皇室利用とつながっている危険があるということだ。
現憲法における天皇は、国民の象徴であり、国民の総意に基づくことになっている。それは、戦前の天皇制が、軍部に利用され、国民に最大限の不幸を強いた反省によっている。戦前、昭和天皇の弟たちを、一部の軍人たちが接近して、利用しようとした形跡があったとされている。昭和天皇は、戦前からの天皇であり、単純にはいえないが、平成の天皇と現在の天皇は、私が見る限り、時の政権に利用されないという、自身の憲法的スタンスをとっていたし、現にとっているといえる。天皇を利用しようと思う勢力にとってみれば、煙たい存在なのである。しかし、私の見る限りでは、秋篠宮は利用されやすい側面がある。一見自由を重視する姿勢であり、自身の結婚に際しても、昭和天皇の喪中に決行しようとするような点があり、きっちりとしきたりを守る人ではない。最終的には喪があけたあとに一連の行事が進行したが、それ以降も、様々な伝統離れを示している。これこそが、実は、利用されやすい面なのである。
そして、実際に、大きな「利用」をされた事実がある。民主主義社会で当たり前の皇室典範改正をしようとした小泉政権に対して、男子を出産することで、その改正を阻止したことことは、男系男子派の意図をそったものであり、典型的な古い天皇主義者に利用されたのである。もちろん、自身に天皇になりたいという意欲があっただろうが。
だが、その後に起こった事態をみれば、これがいかに現在の天皇システムにとって危機をもたらしているか、明らかだろう。ネット上の書き込みをみれば、天皇は令和で最後にすべきという見解が多数ある。ネットだけの話だろうというわけにはいくまい。ネットの意見がなくても、後継者がいなくなるという可能性すらあるのだから。
もうひとつ今回の会見で強く感じたことがある。それは、ネット世界と、大手メディアの世界が、あまりに違うことだ。ネットでは、今回の会見で、ふたりの強い愛に感動したなどという意見は、ほとんど見当たらない。しかし、久しぶりにみたテレビの羽鳥モーニングショーでは、玉川氏が、ふたりを尊敬していると、感動したことをアピールしていた。そして、PTSDを患った真子氏を心配し、誹謗中傷するメディアを非難していた。ネットの世界では、PTSDは仮病であり、事実に基づかない誹謗などはあまりなく、心配する気持ちから問題提起しているのだ、という雰囲気が強い。どちらが正しいか、それは後者であると、私は感じている。それはさておき、このふたつの情報世界が、まったく異なる雰囲気で支配されていること自体が、極めて重大なことではないだろうか。