北朝鮮による拉致被害者に関する生方発言

  10月11日の産経新聞に、立憲民主党生方議員が、北朝鮮に拉致された人は、誰も生存していないという発言をして、拉致被害者家族会と支援組織が抗議をしたという記事がだされた。
 要点は以下の通り。
 
 生方議員が9月に千葉県松戸市で行なったかいごうで、「日本から連れ去られた被害者というのはもう生きている人はいない」と発言した。横田めぐみさんが生きているとは、自民党議員も含めて誰も思っていない。めぐみさんの遺骨とされたものを、日本政府はDNA鑑定で偽物としたが、当時はそういう技術力はなかった。
 死亡の根拠は、生きていたら当然帰す。生きていたら何かに使うはずだが、一度も使ったことがない。

 一度だけ拉致者を帰国させたが、そのとき、一端は北朝鮮に再度戻すという約束を政府間でしたのに、日本がそれを破った。約束を守らないのはだめだ。
 
 
 この記事に対して、生方議員は、ただちにツイッターでお詫びをした。
 
生方幸夫 衆議院議員 立憲民主党 りっけん
@ubukatayukio66
9月の市民フォーラムにおいて、不適切な発言をしてしまいました。発言を撤回するとともに、拉致被害者の家族の皆様及び関係者の皆様にお詫び申し上げます。生方幸夫
 
 これに対して、「許せません」という反応があった。
 さて、最初に疑問なのは、なぜ、今の段階で生方議員が、拉致被害者は生存していないなどということを、市民フォーラムなどの場で述べたのだろうか。総選挙が間近になっている時期に、こういう発言をすると、選挙に有利になるとは到底思えない。不利になると考えるのが普通だろう。はっきりしていることは、生方氏の発言には、かなり無理があるということだ。
 自民党を含めて、政治家はみんなそう思っているというのは、何か根拠があるのだろうか。自分の政治的対立者も含めて、同じ意見であると断言するのは、かなりの根拠が必要だと思う。当日は詳しく述べたのかもしれないが、産経の記事ではわからない。
 生存していないという理由も、かなり薄弱だ。生きていれば、「使う」はずである、使わないのだから、生存していないのだ、というのは、場合によっては事実の可能性もあるが、逆の可能性も大いにある。使えない事情があるということだ。
 横田めぐみさんの場合には、その使えない事情が、本当かどうかはわからないが、かなり言われてきた。つまり、北朝鮮の権力中枢の人たちに、何らかの世話をしたり、あるいは日本語を教えたりして、権力者たちの秘密を知っているために、帰国させることはできないのではないか、という憶測である。これは可能性としてはあるだろう。
 日本に帰国した拉致被害者を、一端は北朝鮮に戻すという約束を、日本政府がしていたことと、それを破ったことは、事実である。政府の担当者たちは、その約束を履行しようとしたが、帰国した被害者たちが、再度北朝鮮にいくことを、強く拒んだと言われている。当時官房長官だった安倍晋三氏も、約束にしたがって戻そうと説得したようだが、国民の支持もあって、被害者たちの気持ちが優先された。北側が、それに対してショックをうけたとか、怒ったとか言われたことも、記憶に残っている。余談になるが、その間の事情を安倍晋三氏が、自分は戻すことに反対して、被害者たちにそって行動した、と述べていたことに対して、蓮池氏がそれは事実と違うと、安倍氏に対する不信感を露にするようになったということも事実である。
 約束は、一端来たに戻してから、再度最終的に日本に帰国させるというものだったと記憶しているが、北朝鮮がその約束をまもるはずがない、というのが、日本側の雰囲気だった。仮定のことだから、わからないが、北朝鮮に残っていたジェンキンス氏をその後戻したことから判断すると、北朝鮮側は、約束をまもる意志はあったともいえる。しかし、拉致するような国が、約束をまもるとは信用できないという、当事者たちの気持ちもまた自然なことだったろう。
 ただ、一端できた信頼関係が、壊れてしまったことが、その後の展開を難しくしたことは否定できない。
 
 生方氏の「お詫び」はどうか。またまた、よくわからないお詫びで、発言を取り消して済み、というのがいかにも不誠実といわざるをえないだろう。不適切というなら、どの部分が不適切であったのか、具体的に訂正しなければ、なんの意味もない。発言は取り消せないのだ、ということを、もっと政治家は自覚してほしいものだ。
 
 ここまでは、ヤフコメなどに書かれていることと大差ないが、では、政府はきちんと取り組んできたのか、という点も考えなければならないだろう。
 安倍内閣は、外交が得意だと自己宣伝していたが、拉致問題を一歩でも進めたのか。実際には、いかなる成果もなかった。トランプに、金正恩に伝えてもらったということは、成果とはとうていいえないだろう。逆に、トランプに伝えてもらうしかないほど、パイプがないことを露呈したわけだ。敵国だからパイプなどいらないというのは、幼稚な見解に過ぎない。
 安倍内閣は、拉致問題を解決する気などあまりなく、北非難のカードとして使ってきたという印象をぬぐえない。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です