いまの女性宮家構想は、百害あって一利なし

 小室-真子結婚問題に区切りがつくと、いよいよ継承問題が焦点となり、現在の有識者会議では、女性宮家と旧皇族の復帰が最大テーマとなっているという。実に、ナンセンスで、小泉内閣からの後退が著しいが、ふたつとも、ほとんど意味のない対応だろう。
 旧皇族の復帰といっても、実際に復帰したいと考えている人は、ほとんどいないと、かつて報道されていた。盛んにこの復帰案を支持している竹田恒泰氏は、この復帰対象にはなっていないはずである。まさか、自分が皇族復帰したいから主張しているわけでもあるまいし、事実、そうではないと思う。この案は、小泉内閣のときに検討されて、現在の天皇家との共通の祖先は、ずっと遠く遡る必要があるということで、否定されたということだ。系統的にも意味がなく、また、当人がそうした意識をもっていないわけだから、決めても実効性があるとは思えない。旧皇族の男子と愛子内親王、あるいは佳子内親王と結婚させて、男系男子の子を生ませ、天皇継承権のある人を増やそうという考えをもっている人がいるらしいが、時代錯誤も甚だしいというべきだろう。

 女性宮家のほうは、より複雑な要素があると思う。実は男系男子派も、女性宮家については反対である。当然、それは女系天皇への布石となるという警戒感があるからだろう。男系男子論は、前にも書いたように、宗教的信念だから、現在の政治システムの問題としては、考慮に値しない。実際に女性宮家創設は、女系天皇を実現するための前提として、当初は考えられていた。しかし、現在はその前提条件がなくなっている。とにかく、女系天皇、女性天皇への自民党の拒否感は、信じがたいほど強い。国民は80%が賛成しているというのに。
 竹田氏によると、女性宮家に賛成しているのは、日本共産党なのだそうだが、驚いた。日本共産党は、基本的に天皇制を否定していると理解していたので、女性宮家に賛成しているとは知らなかった。それはどちらでもいいが、私は、現在進んでいる議論での女性宮家の創設には反対である。有識者会議での女性宮家の創設は、皇室の公務の担い手を確保するということが目的であるとされている。現在のままでは、皇族そのものが減少してしまって、膨大な公務を担う人がいなくなるというわけだ。
 しかし、そもそも、皇室が担う公務とは何か。そのようなものは、憲法に何ら規定されておらず、憲法に規定されているのは、「国事行為」だけである。つまり、公務とは、皇族たちが、これまで慣習的に行なってきたことであって、実はそのこと自体を吟味しなければならないことなのである。
 公務の多くは、どこかの組織の名誉職、たとえば名誉総裁などになって、その組織の活動への精神的援助の役割を果たすことである。典型的には、東京オリンピックの名誉総裁を天皇がしているので、開会式に出席して、開会宣言をした。これが、「公務」である。そして、そういう公務が実にたくさんある。
 しかし、こうした公務は、本当に必要なものだろうか。今回のオリンピック開会式に出席することを、天皇は明らかに躊躇されていた。開催そのものについても、部分的に疑問をもっていたことが伺われる。開会式の文言も訂正し、「祝う」を「記念する」に変えた。現在の天皇が、自らの意思でオリンピックの名誉総裁になったわけではなく、昭和天皇以来、そうなっていたから、それを継承しただけだろう。つまり、個人の意志などは、まったく考慮されていないのである。国事行為ではないのだから、個人の意志が公理意されてしかるべきであろう。
 多くの公務は、同じような事情ではないだろうか。
 では、なぜ、オリンピックは、天皇や王族に名誉総裁をしてもらうのだろうか。それは、明らかに、オリンピックの箔付けのためだ。つまり、天皇の政治利用そのものなのである。
 
 ある民間教育研究団体が、ある宮家に名誉会長を頼んでいたのだが、議論の末、それをある時期からやめたという話をきいたことがある。その民間教育研究団体が、宮家に協力を依頼するような政治的主張をもっているわけではなく、どちらかといえは、むしろ批判的、あるいは冷淡な立場であると考えたほうが近いといえる。だから、会員の間で疑問もでていたということだ。では、なぜ名誉会長をお願いしていたのかといえは、大会を開くときに、教育委員会の協力をえやすいし、補助金も獲得しやすいという配慮からだった。もちろん、宮家も好意で名誉会長を引き受けていたわけだし、お互いにトラブルをあったわけではない。しかし、そういう宮家を利用して、補助金をえるのが正しいのか、独立した研究団体が、そういうことをしていいのか、という疑問が強くなり、結局、宮家の好意は理解しつつ、断ったのだそうだ。
 これで、宮家の行なう「公務」なるものの性質が理解できる。宮家が別に問題を起こしているのではなく、宮家を利用している人たちがいて、「公務」なるものが、補助金などの獲得の手段になっているということなのだ。これは、天皇・皇室の政治利用という以外の何ものでもない。
 天皇の政治活動を禁じているなら、国民が天皇を政治的に利用するのも禁じるべきである。
 公務の問題としては、公務の担い手がいなくなるのはこまるので、女性宮家を創設するというのは、まったく間違った対応であって、担い手がいなくなることをいい機会として、公務そのものをなくしていくことが必要なのである。補助金は、もっとその団体の活動に基づいて行なうべきであり、宮家が形式的に応援しているからなどという理由で行なうべきものではない。私がみる限り、公務で、そうした皇室の政治利用的側面のまったくないものは、思いつかない。
 天皇の継承問題については、小泉内閣のときのまとめそのものでよい、と私は思っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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