大谷翔平の不調 死球と四球

 大谷が明らかに不調に陥っている。張本によると、ボールの待ち方、その際の足の使い方に問題があるそうだ。そういう専門的技術については、よくわからないが、大谷が不調になっている原因については、十分にわかるし、多くの人が感じているにちがいない。それは、四死球の多さである。申告敬遠の多さについては前にも書いたが、とにかく、大谷との勝負を避けている投手が非常に多くなっている。ストライクが来ないから、どうしても、打てそうなボール球に手を出してしまい、凡打になるパターンだ。まあ、ホームラン打者への四球の多さは、日米変わらないだろう。王貞治は、オームラン王だったが、同時に圧倒的に四球王でもあった。最近の外国人がホームランをたくさん打って、四球が多くなると、自分は外国人だからホームラン王にならせたくないのだ、王さんとはちゃんと勝負していたのに、というようなコメントをするが、それはまったくの間違いだ。王は日本人ではないし、また、王の四球の多さは、近年の外国人のホームランバッターの比ではなかった。

 やはり、四球が多くなれば、打たせてもらえないわけだから、ホームランの機会も減ってしまう。しかし、これは、強打者の宿命でもあるだろう。もし、チームに他の強打者がいれば、四球の結果、次の強打者に打たれてしまうと元も子もないので、勝負の機会が増える。丁度、V9時代の巨人の王・長島がそんな関係だった。ところが、エンゼルスには、大谷ほどの強打者がいない。トラウトは、いまだに出てこないのだから、大谷を歩かせてしまえば、続く打者を抑えればよい。トラウトが出てくれば、ずいぶん状況が変わるのではないかと思うのだが、トラウトはどうなっているのだろう。
 死球は、もっと深刻だ。先日の故意死球は、みていて本当に腹がだった。明らかに、狙った死球だ。大リーグではよくあるのだそうだ。
 実は、王と長島は、死球に関しては、ずいぶん違う対応をされていた。長島は死球が多かったし、死球にならないまでも、いわゆるビンボールが多かった。それに対して、王はあまりビンボールを投げられなかったと記憶している。その結果は、長島はフォームを崩しがちになり、王は、一般足打法をずっと崩すことなく維持できた。同僚の金田正一が、長島のフォームはビンボールですっかり崩れてしまったんだ、と球界のあり方に疑問を呈していてた。ファンは、長島が打つところを見に来るのだから、長島が打てないと、観客は減ることになる。それは、相手チームにも不利益になるはずである。真っ向勝負で討ち取られるなら、別だが。 
 何故、長島がビンボールをたくさん投げられ、王があまり投げられなかったのか、私にはどうもよくわからない。王には求道者のような面があり、何か冒しがたいのものがあったのだろうか。それに対して、長島は、ファンサービスのためか、かっこうよくみせるためか、動作がだいたいにおいて大げさだったので、じゃ、きわどいところ投げれば、おおげさによけて、客を喜ばせるだろう、というような違いだったのではないかと想像するのだが、真実はわからない。しかし、長島が、フォームを崩して、選手寿命が縮まったことは間違いないと思う。そういう意味で、投手たちの長島へのビンボールの多様は、球界の損失をもたらした。打たせないために、内角のきわどい球をなげて、体勢を崩すのは、作戦のうちとしても、死球を与えることは、やはりスポーツとしての醍醐味を奪うことになる。客は、ボールをぶつけられて痛がる姿をみにいくわけではないし、みたいのは、投手と打者の力の勝負だ。
 四球や死球は、その醍醐味を奪い、結局、野球の面白さを低下させる。
 大谷は、今その弊害をもろに受けているように思う。大リーグでも、王貞治のように、死球を与えてはいけないと、相手投手に尊敬されていた打者がいるのだろうか。また、そういう余地もあるのか、私にはわからないが、大リーグも本当に、人気を長期的に保つためには、フェアな力の勝負に徹することが絶対に必要なのではないかと思う。
 今後も死球を受けて、怪我でもしたら、球界の至宝を大リーグは失うことになるのだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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