自民党総裁選の争点 脱原発こそ最重要な争点だ

 自民党総裁選の候補者が出揃い、いよいみこれから論戦が開始される。そして、次第に、それぞれの政策が明らかになりつつあるようだ。議論していくにつれて、支持母体との関連で修正がなされていくと思われるが、やはり、基本的な部分については、 ぶれないでもらいたいものだ。そして、自民党総裁は、ほぼ確実に総理大臣になるわけだから、国政の基本方針を闘わせる場でもある。そういう意味で、やはり重要な政策についての論点こそが、浮き彫りになる必要がある。
 もっとも中心的な政策は、経済とエネルギー政策だろう。

 岸田氏が、新自由主義的な政策をやめて、中間層の形成を重視するといってが、要するに、新自由主義政策が登場する以前の支配的な政策であったケインズ主義を復活させるという趣旨に受け取れる。岸田氏の宏池会は、伝統的にケインズ主義を基盤にしていた。宮沢喜一などは優れたケインズ研究者でもあった。中曽根首相から始まって、小泉内閣は明確に新自由主義的な政策に傾き、その傾向が100%ではないにせよ、続いてきたわけである。菅内閣は、どの程度意識的であったかはわからないが、新自由主義的立場をとっており、菅氏が支持している河野太郎氏も、新自由主義的政策のイメージが強い。結局は、福祉政策をどのように位置づけるかという相違として出てくるといえるが、現在の日本において、相当進展してしまった経済格差をなんとか是正しなければならないことは、大きな政治課題であるはずだ。
 エネルギー政策は、気候変動とも大きく関わっているし、また、社会の安全の問題でもある。そして、エネルギー政策の対立点の最大のものは、原発である。かつての原発の安全神話は、完全に崩壊したし、また、原発は安上がりであるというのも、まったく成り立たなくなっている。そして、ヨーロッパは原発を減らしていくことに、舵をきっている。
 河野氏は、はっきりとした反原発論者だったが、安倍内閣の閣僚になって以来、その主張を封印し、また、今回の立候補の記者会見でも、消極的な姿勢をみせていた。反原発である立場を放棄したとまでは思われていないが、薄めたことは確かだった。しかし、再び、反原発の立場を鮮明にしだしたと見られている。核燃料サイクルを見直すと明言したからである。
 それに対して、明確に反対の立場は高市氏である。高市氏は、立候補記者会見で、核融合や新方式の原発を提唱した。現在の原発再稼働を明確に推進する立場には立ちにくいと思っているのか、あるいは、新規のものが好きなのか、ともに実現性の低いものを持ち出している。そして、太陽光発電について、パネルの処理が問題になるので、その研究が必要であるなどとしているが、太陽光発電の廃棄物よりは、原発の廃棄物のほうが、圧倒的に、問題性が高い。そして、それは原発の当初からの一貫した課題でもあり続けており、そして、まったく解決されていない問題である。太陽光パネルの処理法などは、やがて合理的な方法が考案されるだろうが、原発の廃棄物は、近々解決されることはありえないし、また、負荷の度合いも桁違いに大きい。
 かつて、日本の原発推進論は、地球温暖化対策の一環として、原発を位置づけていた。そして、原発推進論と地球温暖化論が重なって見られていた時期すらある。だから、2050年に、二酸化炭素排出実質0などという政策は、原発なしには不可能だという議論は、健在である。
 原発廃止論の立場からは、従って、原発なしに二酸化炭素削減を公約通り実行できるのか。原発がなくても、電力不足は起きなかったではないか、という議論に対しては、火力発電を最大限活用して、眠っていたものも再活用しているから、電力が足りているので、二酸化炭素削減するためたには、当然火力発電をかなり削減しなくてはならない。もしかしたら0にする必要がある。すると、再生可能なエネルギーと水力発電だけで足りるのかということについても、きちんと現実的に答えなければならない。
 おそらく、火力発電をゼロにしなくても、二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることは、可能なのではないかと、素人ながら期待している。人工光合成の実現や、二酸化炭素そのものを空気中からとりだして、さまざまな分野での原料として使う技術が発展すれば、排出ゼロに近づいていくだけではなく、むしろマイナスになる可能性すらある。そして、それらは、原発のような危険性を伴わないはずである。
 おそらく、世界の科学者はそうしたことに向けて、日夜努力しているはずである。
 そういうことを踏まえて、日本はどういう方向に向かうべきなのか。私は、明確に原発から可能な限り早く脱出することが必要だと思っている。結局、特に日本のような地震大国での原発は危険極まりないもので、事故が起きたときのマイナス面は、他のどんな弊害よりも桁違いに大きい。そして、福島原発の事故処理は、今後も莫大な費用をかけながら、長期間、いつ終わるかさえわからないほど続くのである。第二の福島が起きる前に、原発をやめる必要がある。それを明確にしている候補者は、ひとりもいないが、河野氏が、それに一番近いことは確かだろう。
 だから、財界や官僚は、反河野の働きかけを陰に陽にやり始めているという。
 選択的夫婦別姓や、LGBTも、相違が明確で争点ではあるが、やはり、重要性という点では、経済政策と原発・エネルギー政策であり、この点についての候補者の討論がしっかり行なわれる必要があるし、国民はそれをしっかりと確認しておくべきである。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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