高市早苗氏の総裁選政策について2

 昨日は、『文芸春秋』の文章を紹介したが、今日は記者会見の内容から考える。この記者会見の映像を全部みたが、なかなか興味深かった。特に、菅首相の記者会見と比較すると、本当は当たり前のことをしているに過ぎないのだが、高市氏が実にしっかりした政治家に見えてくる。主張は明確であるし、質問に対して、とにもかくにも、まともに答えようとしていた。追加質問を禁止するようでもなかったし、最後に、指名されなかった記者が、大声でどなるような形で質問をしたのだが、それに対しても、回答していた。しかも、用意した原稿を棒読みするでもなく、また、質問そのものは、予め決められていた様子はなく、自由に記者たちが発しており、それに対してメモもなしに、ほぼ澱みなく回答していた。一国の総理大臣になる地位を争っているのだから、この程度の応答能力は最低限もっていてほしいものだ。

 しかし、態度として不可解だったのは、視力が弱いので、質問者の顔がよくわからないといって、確かに、見えにくそうな素振りをしていたのだが、それなら、眼鏡をかけるなり、コンタクトを装着するなりすべきではないかと思った。質問を聞いているときの仕草は、あまり感じがよくなかったのは確かだ。
 さて、内容だが、いくつか特徴的なことだけ触れておきたい。
 一月万札では、コロナ対策についてまったく触れていないような言い方をしていたが、けっこうたくさん触れている。
 施設の活用、海外に依存している薬品生産の国産化、新薬承認の迅速化、ワクチン優先権の対象の拡大(美容師、鍼灸、災害出動)、緊急事態が発生したときのためのロックダウンの法整備、水際対策の強化、等である。しかし、安倍・菅内閣のコロナ対策の最大の問題である、検査体制などについては、触れてなかった。つまり、厚労省や感染研による間違った政策への訂正は意識されていないか、あるいは改革意欲がないのだろう。また、近年続いた病院、保健所の縮小政策が、コロナ対応における医療崩壊を招いた原因のひとつであるとされているが、その点もまったく無視されていた。ということは、コロナ対策では、表面的なびぼう策しか見られない。
 デジタル体制については、比較的細かく述べられており、地方での可能性を援助するとともに、テレワークを梃子にした地方移転を促進しようという姿勢を示していた。
 注目すべきは、原発関連で、風評被害によって、現在なお輸入制限されている状態を、外交的な働きかけで改善するという点と、質問への回答だが、汚染水の放出については、風評被害がでる可能性がある時期には、実行しないと明言した点である。これは、自分の承諾していない文書に、自分の名前が使われてしまって、不本意であるが、名前が出ている以上、風評被害を重視せざるをえないようなことを述べていた。汚染水の放出をしないと断言したことは、今後本当に公約通りに進めるか、注意していく必要がある。
 最初の政策説明部分は、『文藝春秋』と似たようなことであったが、さすがに質問への回答の部分で、高市氏らしい部分が引き出されていた。
 憲法改正は、自民党案を変更することはないが、より広く他党からの意見も聞いた上で、柔軟に対応していくと回答していた。
 天皇の継承については、歴史的に男系男子できたと述べつつ、旧皇族復帰を可能にする、万世一系が皇統の天皇の源であるという。もちろん、男系できたことを歴史的事実であるが、女性天皇が存在したことは事実であるから、男系男子が皇室の伝統というのは、誤りである。日本の非民主的な伝統よりは、戦後の民主主義体制における新しい天皇のあり方を重視すべきであるが、こういうひとたちには、男系男子へのこだわりが、天皇制そのものの崩壊をもたらすことを、認識できないようだ。男系男子論者の西尾幹二氏によれば、それは「宗教」のようなものであるという。私も、男系男子論者の文章を読む限り、宗教的信念の域をでない、もっと明確にいえば、狂信とでもいうことだ。天皇は万世一系でもないし、こうした狂信的な感覚で、皇室を考えるひとたちが制度を動かすと、いいことはない。戦前の歴史をみれば十分にわかる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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