河野太郎出馬会見も全部みてみた。高市氏とは印象がだいぶ違っていた。高市氏は、自分の政策を説明する時間をたっぷりとり、受けた質問は少なめだったが、河野氏のは逆で、自分の政策説明はずっと短く、質問者は、ほぼ全員にまわしていたのではないかと思われた。
自民党支持者ではないので、誰に共感するとかそういうことはないが、単純に見応えがあるという意味では、河野会見は多少不満だった。
まず、最初にワクチン担当大臣としての実績を述べて、10月には先進国なみの接種実績になると誇っていたが、ワクチン接種の混乱については、ほとんど触れることがなかった。国民は、ワクチン接種がそれほどうまくいったとは思っていない。思っていたら、菅首相が立候補を諦めることはなかっただろう。菅内閣への最大の不満は、コロナ対策が十分でないからで、その大きな部分がワクチンだった。確かに、ある時期から接種スピードが加速したが、それでも、さまざまな問題がでた。それを無視して、数をこなしたことを誇示されてもなあ、というところだ。
他には、デジタル、テレワークの推進と、それによる、東京一極集中から地方への移転が進むことを期待する発言があった。行政における認め印の廃止も、デジタル化の推進という文脈で語っていたのは、説得力があった。
詳細は語らなかったが、子育て支援、病児保育、年金等、社会福祉を重視する姿勢は示していた。それから、盛んに述べていたのは、国民の意見をよく聞いて、共感をもって政治をしたいということだが、誰でもいうことなので、実行を見る必要があるだろう。
こうしたことを述べたあと質問タイムになった。高市氏でもそうだったが、この質問タイムで、河野氏の現在の立ち位置が示されている。質問とその回答でわかったことを箇条書きにしてみる。詳しい回答はほとんどなかったので、箇条書きが適切だろう。
・河野氏は脱原発論者として有名であるが、それははっきりと後退させている。いずれゼロになるとは思うがと留保しつつ、カーボン・ニュートラルの実現のためには、石油、石炭、天然ガスをやめざるをえず、再生エネルギーでは不足する場面で、安全確認された原発を稼働させることが現実的である。ただし、あとの質問で増設について聞かれていたが、増設は否定した。
・拉致問題や北方領土については、かつて外務大臣として取り組んだように、全力で取り組むとしたが、具体的にどうするというようなことは、触れなかった。
・森友学園について、何度か質問されたが、検察が動いているので再調査の必要はないと断言した。
・コロナ対策については、抗原キットなどを薬局で購入できるようする、を繰りかえしていたが、病院や保健所のあり方等、その他の具体的施策はふれなかった。
・皇室に関しては、女系容認論者とされていたが、有識者会議でしっかり議論しているので、それを尊重するというにとどまった。
・福島原発の汚染水については、科学的なデータに基づいた説明と議論をしていくとした。
・沖縄の辺野古移転について、住民は反対しているが、という質問には、普天間の危険性回避が重要だとして、質問の中心点には答えなかった。
・非核三原則と核兵器禁止条約については、日本がアメリカの核の傘の下にあること、中国も交渉にのせながら、核兵器の数を削減していくことが大事とした
・経済政策でインフレ率2%については、インフレ率を目標にするのは間違いで、経済の結果として決まってくるものだ、重要なのは成長だ。アベノミクスでは企業が利益をあげたが、賃金には波及しなかった。労働分配率を一定以上にした企業は税の優遇措置をとるなどを考えていきたいと述べていた。
・コロナの一律給付金については、デジタル化が進むと、その点での支援が必要な人がでてくる。またデジタル化が進んで、申請でなくプッシュ型での支給が可能になるので、そちらでいきたい。
・情報公開に積極姿勢を示していたが、国民がもっとも知りたいのは森友問題の真相だとの突っ込みに対して、国民がもっとも知りたいのは、コロナに関する正確な情報だと切り返していた。
・日本に滞在する外国人について、技能実習生のあり方は改めるべきとした。特定技能の制度に移っていく必要がある。
主なものはこのようなものだったが、全体として、河野カラーは、大幅に引っ込められたという印象だ。あくまでも自民党内部の選挙なので、党の長老たちを無視することはできないということなのだろうか。あるいは、元々彼の脱原発や女系天皇容認は、自民党内部で目立つための方便だったのだろうか。閣外にいたときの河野氏は、まるで立憲民主党の議員ではないかと思われるような側面があったが、閣内にはいったときには、そうした独自の見解を封印していた。総裁になるためには、封印の度合いが拡大したというイメージだ。
しかし、閣内に入るということは、総理大臣に協力するということだから、自己の見解を封印することは納得できるが、今回の表明は、自分が総裁、そして総理になったらどうするかという政策の発表だから、従うべき相手は、論理的にいないはずである。自分がトップになって実行した政策を発表、説明しているのだから、その時点で、党内、あるいは何か党外の組織を慮って、自己の見解を封印するというのは、担ぎ上げるほうとしては、自然に納得できるというものではないように思われる。
また、質問をはぐらかすような答弁と思われる場面も少なくなかった。例えば、河野氏は脱原発派だったが、現在はどうなのか、という質問に対して、「脱原発の定義が人によって違うので」という回答で逃げている。自分の定義では、こうで、今でも脱原発だとか、あるいは、以前はこういう意味で脱原発だったが、カーボンニュートラル政策をきっちりやるためには、その意味での脱原発では不可能だと思うので、脱原発を長期的にはめざすが、現時点では、変わったとか、また、別の自分の定義で、いまでも、その意味では変わらないとか、質問に対して向きあっているとはいえなかった。
もちろん、政治の世界で、純粋に自分の見解を述べることが難しいことは理解できる。大事なことは、賛同者として自分に票を入れてくれる人を増やす必要があるのだ。しかも、今回の総裁選は、自民党内部の選挙であると同時に、直後に、国民の審判を仰ぐ総選挙がある。だから国民に支持される政策でもなければならない。女系天皇の問題では、自民党内部では、男系派が優勢だとしても、国民の見解は、7割が女系天皇支持であり、女性天皇については8割に達している。河野氏本来の意見こそが、国民の意見と合致しているはずであるが。