自民党総裁選が始まり、既にヒートアップしている。当初は泡沫候補といわれていた高市早苗氏が、安倍晋三氏の支持表明を受けて、急浮上しているらしい。高市氏といえば、とにかく超保守、あるいは右翼政治家というイメージが強い。靖国神社参拝継続、選択的夫婦別姓は反対、LGBT法案にも反対ということが、彼女の政治姿勢を象徴しているように受け取られていた。だから、まさか総裁選にでて、首相をめざすとは、あまり思われていなかったし、出たとしても、泡沫候補で直ぐに消えてしまうと見られていた。これまで女性初の首相候補として、名前が出たことはあまりなかったはずである。それが今では、河野氏と争うほどの勢いになっているというのだ。もっとも、そう見ていない評論家もいるが、私がみる限りは、岸田氏より優勢になる可能性はあると思う。
そこで、『文芸春秋』9月号に総裁選出馬に関して寄稿しているので、それを読み、昨日(9月8日)に行なわれた出馬記者会見の映像を全部見てみた。菅首相とは違って、説明能力と説明意志があり、記者会見の受け答えなどは、かなりきちんとした対応をしていた。安倍首相の嘘つき答弁や、菅首相の官僚の書いた原稿の繰り返し棒読みに慣れていたせいか、政治家としては、当たり前のレベルだと思うが、能力が高いという印象を与えていた。単なる右翼政治家で安倍晋三の操り人形的に見ていると、間違いであると思われた。
『文藝春秋』の文章は、「総裁選に出馬します!」と題するものだが、菅首相の不出馬表明以前に書かれた文章なので、最大対抗馬が菅首相であり、菅批判が比較的強くでている。
・菅内閣は、安倍内閣の政策を引き継ぐということだったのに、「機動的な財政出動」をせず、コロナ対策を適切に実行できなかった。
・党員も含めた総裁選を経ずに選ばれ、総選挙の洗礼も受けていないので、国民に信任を受けていない。
というような批判である。そして、次に自分の政策を説明しているが、「危機管理投資」と「成長投資」が柱である。自然災害、サイバー犯罪、安全保障などのリスク、日本の優位な技術開発等への投資を行なうということだ。「改革より投資」が必要だから、そのための国債発行を躊躇しない。つまり、自然災害やサイバー犯罪への対抗措置を断固とるというニュアンスよりは、措置が可能になるように、しっかり投資して、対抗措置がとれるようにするということなのだろう。意外な感じがした。
もうひとつの柱として、情報機器の活用拡大で、電力利用が飛躍的に増大することの対策を重視しているが、既存の原発路線ではなく、「小型モジュール原子炉SMR」の地下立地を提案している。詳しいことは書かれていないが、SMRについては、一種の原発であり、到底賛同できるものではない。(批判として、https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20210528.php )
太陽光については、問題を多く指摘して、土砂崩れを起こすような設置があるとか、パネルの処分方法を予めルールつくりしておく必要などを主張している。これは、部分的には賛成するが、高市氏は、再生可能エネルギーには、あまり共感していないようだ。SMRを持ち出すことは、既存の原発については、全面的な賛成というわけではないのだろうが、その部分についてはあいまいだし、また、核廃棄物については、まったく触れていない。エネルギー政策は、意欲は感じるが、バラバラな印象がぬぐえないのである。
そして、最後に「中国リスク」についてぺージを割いているが、これは戦争のリスクなどではなく、技術的を盗まれるリスク、サイバー攻撃などへの対策が中心になっている。尖閣問題などについての施策を説くのかと予想したが、具体的な対抗策としては、まったく触れていない。
専門ではないので、正確に判断はできないが、「特許制度」の見直しとして、非公開可能な特許制度を提案しているのだが、それは、そもそも特許制度の原則に反するものなのではないだろうか。特許というのは、発明した技術を特許として認定されると、特許料によって、発明者に利益がもたらされる仕組みである。だから、公開して活用されないと意味がない。高市氏のいうように、軍事技術は、公開できないというのは、もちろんだが、秘匿すべき技術は、特許の対象にしないのではないだろうか。そして、盗まれてはこまる技術については、開発者がきちんと秘匿管理することで、遺漏を防ぐしかないのではなかろうか。
以前は、軍事技術が民生用に転用されたが、現在では、民生用に開発した技術が軍事に転用されることがあるということが、困難を生んでいることは確かだろうが、民間技術は、あくまでも民生用の機器を製造して、利益をあげるために開発されるのであって、それを非公開にしたら、開発者は利益を生むことができない。軍事技術の保護のための施策は、具体的に、いくつか書かれているが、(機密にアクセスできる研究者の身辺調査等)そうしたことで対応すべきで、特許制度の根幹を否定することが、社会全体にとってプラスとは思えない。もし、民生用に開発された技術が、重要な軍事的意味があり、その技術を他国に知られることを防ぐなら、その技術の特許申請をやめさせて、国家が代わりの特許料にあたる部分を保障すべきだろう。
このように、『文芸春秋』の文章は、主に経済政策について書かれており、より政治的な、つまり彼女の超保守的なイデオロギーについては、まったく触れられていない。経済政策についても、「サナエノミクス」などという名を付していない。そういう意味では、地味だが、いくつかの点を除けば、賛同できる部分もあるが、疑問の点も少なくない。
だから、多少肩すかしをくった感じだった。
それで、次に出馬記者会見の映像を見たのだが、それは長くなるので、次回にまわすことにする。