自民党の総裁選を単なる権力闘争とみるべきではない

 菅首相の自民党総裁選不出馬から、俄かに総裁選争いが活性化している。野党は大丈夫なんだろうかと心配になってくるが、自民党の総裁選も極めて重要な意味をもっているように思われる。というのは、主張の明確な人たちが、前面に出てきたからだ。
 まずは、高市氏だ。右派政党である自民党内でも目立った保守派で、選択的夫婦別姓やLGBT法案にも反対。これまで、必ず靖国に参拝し、首相になっても参拝すると明言している。経済政策は、安倍内閣の継承路線である。しかし、インフレ防止2%の物価上昇といっているが、安倍内閣とは別の主張なのか、同じなのかわからない。安倍内閣での2%は、そこまで物価をあげたいということだったが(その意味は、いまだに不明だ。高橋洋一氏の解説では、2%までなら大丈夫という意味なのだが、2%まであげるのがよいという妙な見解があるとしていた。それでいけば、安倍内閣の考えは、「妙な」ものとなる。)、現在の課題は、2%をはるかに超えて、文字通りのインフレになることが懸念されている。昨年あたりから、かなりの生活必需品の値上げが目立っているのだから、それを抑えるという明確な意識と政策をもっているなら、けっこうなことだが、やはり高市氏の場合、政治的イデオロギーで、国際的な摩擦を生じさせる恐れがある。高市氏支持層というのは、中国と明確に対立することを望んでいるようだが、中国と対立することが、どのようなメリットがあるのだろうか。人権抑圧がけしからんといっても、中国嫌悪派が、国内における人権状況にどれだけ問題意識をもっているのか、極めて疑問なのである。

 高市氏に最も対立的な位置にいるのが、河野氏だろう。河野氏が首相になれば、これまで封印していた脱原発路線を歩みだす可能性がある。そうすれば、非常にけっこうなことだ。原発依存をしている限り、本当の意味での日本の安全は確保できない。福島は、決して、今後も唯一の例外とはいえないのである。実際に、大地震が太平洋側で起きたら、危険な原発はいくつもある。福島だって、津波による機能停止と、メルトダウンの危険性は事前に認識されていたのに、その対策がとられなかった人災なのである。他の原発で、本当に最大限の対策がとれているなどと、冷静にみれば考えられない。そうした危険性をひとつ潰すためには、原発をやめることは不可欠である。そして、再生エネルギーを最大限活用し、電力需要の調整システムが機能することで、電力不足は十分に補えると思う。
 こうした政策面の相違もあるが、まだまだ単なる権力争い的な側面もぬぐえない。それに翻弄されているのが岸田氏ではないか。岸田氏が、安倍氏への配慮からか、あるいは暗に要請されたのかわからないが、二階降ろしに走ったのは、致命的な誤りだったといえる。そもそも、岸田氏は、参院の広島で、安倍首相に、これ以上ない屈辱を受けたのだし、二階幹事長は、安倍氏の違法行為の鍵を握っている人物であり、また、実際にこれまでキングメーカー的な役割を果たしてきた。単なる権力争いとしては、二階氏と組んで、安倍不正を追求して負い落したほうが、勝ち目が大きかったのではないかと思うのである。安倍氏のご機嫌とりをして、二階負い落しを実現したのに、肝心の安倍氏は、高市支持を既に打ち出している。やはり、禅譲をずっと期待していたような人物には、権力奪取は無理なのだろう。
 メディアでも散々いわれているが、今回の総裁選は、すぐあとに続く総選挙を有利に進めるための候補者選びになっている。そういう点では、河野氏が選ばれる可能性が高いようだが、脱原発路線を堅持してくれるならば、他の候補者よりは、期待できる。
 もちろん、私は自民党支持者でもないので、あくまでも外野での意見だが。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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