パラリンピック学校連携観戦への疑問

 パラリンピックが始まり、オリンピックではほとんど中止された学校連携観戦が、かなり減ったとはいえ実施されている。オリンピック開始時とは比べ物にならないほど、コロナの感染が拡大しているにもかかわらず、学校連携観戦が強行されているようにみえる。そして、強行であることからくる、いかにもおかしな対策が取られている。そして、ましなことだと思われることでも、批判されたための後追い策になっている。
 例えば、当初公共交通機関を使用して、ひとつ前の駅で降りてから徒歩で会場にくるようにという指示だった。それは、最寄りの駅は、観客が多く利用するので、子どもたちは歩けということだった。この炎天下に、本当に歩かせていたら、かなりの熱中症患者がでただろう。それが、貸し切りバスを使用することが認められた。無観客になったからだ。しかし、駐車場等が使用可能かどうかはわからない。主な会場の周辺は、厳しい道路制限が実施されているから、会場によるようだ。

 教育委員会レベルでは、もともと学校連携観戦は中止すべきというところも多かった。あの東京都教育委員会ですら、多くの疑問がだされ、東京全体で中止すべきという雰囲気だったそうだ。しかし、これは、おそらく小池都知事のごり押しで、保護者のアンケートをとり、希望の多いところは、参加を強制したとしか思えない。しかし、それでも観戦による感染拡大のリスクが大きいので、突如、参加の子どもには、PCR検査をするといい出した。しかし、これはほとんど実効性のない措置で、逆に辞退する学校が増えたらしい。
 読売新聞の記事を見てみよう。(2021/08/26)
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「児童生徒のパラ観戦中止相次ぐ、都が急きょ導入のPCR検査に「現場に丸投げ」と批判も」
 東京都港区は25日、児童生徒が東京パラリンピックの競技会場を訪れる「学校連携観戦プログラム」への参加を取りやめると発表した。新型コロナウイルス対策として都が23日に急きょ導入を決めた参加者へのPCR検査について、区は「都から具体的な方法が示されず、調整する時間的な余裕がなくなった」としている。
 PCR検査を巡っては、江東区も「感染が判明した子供の差別やいじめにつながる」として参加を中止しており、辞退の理由としたのは2区目。都教育委員会は「感染拡大を防ぐ安全対策として意義がある」とするが、実施の判断は区市に委ねられ、「都が責任を回避するため、現場に『丸投げ』しただけ」(区長の一人)との批判が出ている。
 港区では小学6年~中学3年の参加を想定。24日に保護者に実施方針を伝えたが、都から検査導入の連絡を受けて撤回したという。
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 いかに見識なしに、提案がなされているかがわかる。興味深いことに、観戦を促進させるためのPCR検査の指示が、逆に参加を減らしてしまったことだ。そして、PCR検査を実施するということだけは、記者会見等で公表するが、その実際の形については、関係者にしか伝達しない。
 千葉県の熊谷知事は、オリンピックでは学校連携観戦を中止したのに、パラリンピックでは実施する方針を示した。熊谷知事は、これまで合理的な政策を示してきて、県民の支持が強いが、これには疑問がだされた。そして、理由を説明したのだが、プロ野球やJリーグは普通に試合をして、普通に観客がはいっているという理由をあげている。
 この熊谷知事の理由付けは、あまり説得力がない。もし、そういう理由なら、何故オリンピックでは中止したのか。オリンピックのときよりも、先述したように、圧倒的に感染拡大しているのだから、違う理由が必要だろう。オリンピックのときだって、プロ野球やJリーグは観客をいれて試合をしていたのである。
 そして、プロ野球やJリーグと決定的に異なるのは、学校連携観戦が、学校という集団で観戦し、教師が引率することである。もし、プロ野球と同じだというなら、チケットを家庭に配布して、親が付き添って、子どもと一緒に観戦すればよいのだ。どうせ、チケットは余っているのでだから。それならば、教師への過重労働を更に強いることもない。
 教師に引率を強制する問題が、知事やメディアの議論では故意にか、ほとんど無視されている。
 熊谷知事の気持ちがなぜ変化したのかは、わからない。しかし、東京では、教育委員会ですら中止の意見が多かったのに、知事が強行したのは、保護者アンケートを取らせたことが大きいように思われる。アンケートの時期にもよるが、常に、ある程度の観戦を希望する保護者がいることは事実のようだ。結果の詳細が公表されていないので不明だが、一月万冊の本間氏の元に、現場の教師からの通報があるようだ。そして、youtubeの一月万冊では、本間氏が、こんなにたくさんの保護者が、観戦にいかせたいと希望をだしたことに驚いていたが、特に驚くことではない。実際に、パラリンピックを生でみることができる機会は、ほとんどの日本人にとってないのだし、障害者のスポーツの迫力をみることが、大きな感動を呼ぶことは間違いない。そういう体験をさせたいというのは、どの親も考えるだろう。しかし、それだけではなく、コロナ感染のために、外出もままならない状況で、学校が責任をもって引率して、子どもを連れ出してくれれば、親としても自由時間が確保できる。あるいは、心配せずに仕事をすることができる。いわば子守だ。そういう感覚があることは、否定できないと思う。本間氏は、さすがにそこは、多数の視聴者がいるyoutubeでも、触れるわけにはいかなかったのかも知れない。本間氏は、オリンピックやパラリンピックをやるくらいだから、感染はそんなに深刻ではないに違いない、という楽観論に囚われているのではないかという解釈をしていた。それもあるだろうが。
 しかし、引率の義務を負わされた教師こそ、迷惑な話だ。教育委員会が不参加を決めたという報告を聞いた教師たちが、一斉に拍手をしたという話もある。
 現場にとっては、オリパラ教育という、実は実態とかなりかけ離れたオリンピックやパラリンピックに関する教育をさせられて、更に、引率までさせられるのは、たまったものではないに違いない。
 
 もうひとつ、これまで大会期間中に、弁当13万食を廃棄していたのだそうだ。これは日本社会だけではなく、地球に対する犯罪ではないだろうか。誰が責任を取るのだろう。https://news.yahoo.co.jp/articles/f2113f1c986c1bad86e27c48bfaa91cdb4b70a59

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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