野球話題 高校野球の経済状況と中田翔問題

 高校野球について、興味深い記事があった。高野連の経済状態がきついので、クラウドファンディングで資金協力を募ったが、あまり集まっていないというところから始まって、夏や春の甲子園大会が、どのように資金的に運営されているか、あまり考えたことがなかったので、とても興味深かった。
 驚いたのは、NHKなどの放映が、無償だというのだ。IOCの運営資金の多くが、NBCの放映権から出ていることを考えれば、NHKの放映権でかなりの収入を得ているのだろうと思っていた。出場するチームの正式メンバーや指導者は、高野連から交通費や宿泊費がだされることは知っていたので、かなりの費用がかかるわけだ。球場の使用料や管理費用、審判などの謝礼等々と思っていた。しかし、ここでも驚きなのは、甲子園球場の使用料は無料だという。そして、甲子園球場は、そもそも戦前の中学野球の全国大会のために建設されたのだとか。そのために、使用料が無料だというのだ。暑い時期に、ひとつの球場で行うのではなく、エアコンの効いたドーム球場でやればいいではないか、と考えていたが、どうやら簡単ではないようだ。
 地方大会では、地方の野球連盟が運営しているのだが、事情は似たようなものだろう。ただ、甲子園に全国からくるような費用は、地方大会ではかからないので、規模は小さいだろうが、それでもそれなりの費用がかかるだろう。

 これまで、そうした費用を賄ってきたのは、入場料なのだという。しかし、昨年は大会が中止、そして、今年は、無観客であるために、入場料がとれない。オリンピックと似たような状況だが、オリンピックには、スポンサーや、国家と自治体の公費援助がある。赤字は、ほとんど税金で補填されるのだろう。しかし、高校野球は、助成金はあったとしても、予め予算化された範囲に違いない。入場料収入がなくなったから、その分、どこかが補填してくれるわけでもないだろう。
 ただ、放映権料がないこと、球場使用料がないことは、世間の常識からすると、かなり異様だ。これは、ひとえに、高校野球は教育活動の一環だからという理由付けがなされている。しかし、この教育活動の一環というのが、いかにも苦しい状況になっていることは、既に明らかになっている。甲子園大会に出場する球児たちは、いかにもきびきびとして礼儀正しく、審判に一切クレームなどをつけないが、普段の練習や試合では、ずいぶん雰囲気が違うはずである。教育の一環ということで、かなり厳しく、甲子園に出場するチームには、指導されるようだ。なにしろテレビに映って、全国配信されるのだから、純粋な高校生でなければならないのだ。
 しかし、有力選手たちからすれば、甲子園大会は、プロ野球のスカウトに注目されるための「就職活動」の一環のようなものだ。だから、真剣にもなるのではないか。そういう意味では、もっと商業的な活動として運営することも、ありうるだろう。しかし、過度に商業主義になるのは、なんといっても、高校生が主体だから、反発も大きいはずだ。
 私は、部活は、社会体育のクラブに移行すべきであると思っているので、クラブ対抗試合になって、常識的な経済的配慮がなされるようにしたほうが、合理的なのではないかと思う。
 
 高校野球の経済状態に関する記事は、以下のリンクで読める。
 
 もうひとつは、中田翔問題だ。暴力事件を起こして、一軍・二軍の全試合の出場を禁止されたのに、1週間程度で巨人に電撃トレードされ、すぐに試合に出て、2試合目には先発出場、そしてタイムリーのホームランを打った。日本ハムの栗山監督は、感激し、ずっと感謝の念をもってやれとエールを中田に送った。それに対して、ネット上では、かなりの批判が沸き起こっているというわけだ。そして、おまけというか、今年の4月の日ハムの試合の前に行われる円陣での掛け声の際に、人種差別発言があったということまで蒸し返されてしまった。日ハムのコンプライアンスはどうなっているのかという批判である。
 私は、日本のスポーツ界において、暴力が追放されているとは思っていないので、今回中田翔の暴力が、非常に強く非難を受けていることが、多少驚きだった。星野監督などは、選手を殴ると公然と語っていたと思うし、それは、昔のこととはいえない。もちろん、殴って指導するなどということが、効果的であるはずもないし、許されるべきではないのだが、何か、悪役じみた雰囲気のある中田だから、非難しやすかった様な感じもするのである。そして、無期限という処分だったのに、10日間程度で、試合に出てホームランまで打ったことについて、納得できないというわけだが、少なくとも受け入れた巨人にしてみれば、暴れものを引き受けて、りっぱに活躍しているということを示す機会としては、非常に都合のよい状況がつくられたといえる。商業的な観点からいうと、巨人にとっては、本当に一石二鳥というところだ。
 だから、非難は日ハムに向かっている。日ハムは、選手育成がうまいかのように宣伝しているが、実際には、選手が育っていないではないかという批判も現れた。
 どうなのだろう。日ハムというと、とにかくドラフト運がよいという印象がある。以前から、話題の有名スターをたくさん引き当ててきた。
 ダルビッシュから始まって、中田翔、大野奨太、斎藤佑樹、大谷翔平、有原航平、清宮幸太郎と話題の一位指名の争奪で勝っている。(大谷のように、大リーグ挑戦を公言していたので、他球団が指名しなかった例もあるが)ただ、清宮は活躍していないし、その後は一位指名を外していて、最近の低迷の原因になっているのか、あるいは低迷の結果なのか、育成がうまくいっているようには見えない。選手がトップクラスになって、高い年俸になると、トレードにだして、収益をあげるという手法も噂されるが、中田は無償トレードになって、日ハム商法にも限りが出てきたかと思わせる。
 球場移転にしても、何かうまくいっていない感じがして、チームに勢いがなくなると、こうした不祥事が出てくる。そんな気がしている。
 過ちを犯した人間でも、やり直しができることが望ましいので、中田か巨人で活躍してほしいと思う。ずっと試合にださせず、謹慎させたからといって、何か、球界にいいことがあるのだろうか。暴力とは無縁の選手として活躍するようになることが、球界にとってもいいことなのではないだろうか。暴力をうけた被害者にしても、加害者がチームからは追放されたわけだし、中田がずっと罰を受け続けることを望んでいるとは思えない。
 また、元木のようなコーチは、中田をうまく指導できるのではないかとも、期待している。 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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