パラリンピックは中止すべき、パーソンズ会長の発言に怒りが

 オリンピックの開催については、事前にあれほど議論があったのに、パラリンピックについては、主要メディアは沈黙している。ネットでは中止論もあるが。オリンピック開催前には、コロナ感染は、東京で、7月始めの週平均感染者数(1日あたり)500人であるが、8月15日では4000人を超えている。しかも、8月になってからの公表された感染数は、以前にも増して、実際の数よりは、かなり低くなっていると想像できる。それは、陽性率の異常な高さ(4割を超える日がある)と、実際に積極的疫学調査を縮小するという都の方針がだされていることによる。陽性率4割で4000人という数字は、検査数を適切なだけ引き上げれば、1万とか2万人の感染があると想像できる数字である。積極的疫学調査をやめるのならば、感染数の実態をより正確に把握できる、別の方策を提示し、実行する必要があるが、そういうことはまったくしない。パラリンピックに対する反対が強くならないように、感染者数の見かけを少なくするための措置としか思えない。
 オリンピック開始前の中止論が盛んだったころよりも、感染は10倍以上に拡大しているのだ。にもかかわらず、メディアがなぜ、パラリンピックをやるべきか否かの議論すらしないのか。

 オリンピックをやってしまったのだから、パラリンピックは「継続事業」なので、やるのは当然という雰囲気も確かにある。しかし、それ以外にも、パラリンピックを中止せよと主張すると、障害者差別だといわれるのを恐れているということも考えられる。学校観戦は、オリンピックよりもパラリンピックのほうが希望者が多い。そして、今のところ、無観客だが学校観戦は実施するという方向のようだ。障害者が頑張って、あれだけの技術を見せているのを、直接体験すれば、教育効果があることは、率直に認められるだろう。
 しかし、オリンピック開催による危険性よりは、パラリンピック開催による危険性のほうがはるかに多いのだ。オリンピックは感染拡大の原因にはなっていない、などと政府は言っていたが、とんでもないことだ。これだけオリンピック期間中に感染爆発が起こったことが、関連性があることの何よりの証拠ではないか。そして、デルタ株より更に危険だといわれているラムダ株が実際に、オリンピック関係者によって、7月に持ち込まれている。検査をすり抜けた感染もあるとみるべきだろう。
 そして、重要なことは、既に多くの都府県で、医療崩壊が起きていて、救急車による搬送が困難になっている、つまり、重篤な患者でも入院先を見つけるのが難しい状況なのだ。今後自宅放置された人の死者が増えていくに違いない。そういうなかで、パラリンピックが開催されるとしたら、医師と病床を大量に、パラリンピック用に確保してしまうのだ。
 
 ここまでは、8月15日に書いてあった。しかし、アップをしないまにしていたのだが、今日IPCの会長のインタビュー記事を読んで、やはりアップする必要を感じた。
 本日のTBSニュースとして掲載された記事だ。見出しは「IPC会長単独取材「感染状況悪化しても大会は安全に開催できる」」となっている。見出しからして、かなり酷い。そして、これは、そのようにこの会長が述べているのだ。
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 東京パラリンピックの開幕が5日後に迫るなか、IPC=国際パラリンピック委員会の会長がJNNの単独取材に応じ、「今後、日本国内の感染状況がさらに悪化しても、大会は安全に開催できる」などと述べ、大会のコロナ対策の有効性を強調しました。
IPC パーソンズ会長
 「東京の感染者数が悪化しても、パラリンピックは安全に開催できます。なぜなら、私たちはパラリンピックのバブルのなかと、その外側の社会で起きたことの間には相関関係が無いと確信しているからです」
 IPCのパーソンズ会長はきのう、隔離中の都内のホテルからJNNの単独インタビューに応じ、大会期間中に日本国内の感染状況が悪化しても「大会を中止する考えは無く、安全に開催できる」と述べました。
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 バッハ会長もかなり独善的で、ワシントンポストのいうように「ぼったくり男爵」としての嫌らしさを遺憾なく発揮していたが、このパーソンズ会長は、負けず劣らず傲慢な感じがする。東京の感染が悪化しても、パラリンピックは安全に開催できる。東京の悪化とパラリンピックの悪化は関係がないからだ、と。冗談ではない。オリンピックによって、東京の感染状況は、完全に悪化したのだ。オリンピック関係者は関係がないと言い張っていたが、そんなことは、日本人の多くは信じていない。そして、橋本会長すら、関連を否定できないとまで発言しているのだ。もし、オリンピックやパラリンピックが、東京の感染悪化にもかかわらず、安全であるとしたら、日本の側が、日本国民のために必要な医師・看護師、そして病院をオリンピックやパラリンピックのために、確保しているからだ。そして、そのために、東京やその近隣の医療事情は確実に悪化しているのである。今日、妊婦の感染者が、入院できず、自宅療養していたところ、早産してしまい、赤ちゃんが死亡したという。入院できなくて、死亡する人が、毎日でているのだ。今後増えるだろう。パラリンピックは、オリンピックよりも医療資源の提供が大きくなくと考えられる。そうすると、一般国民のための医療ソースがますます多く割かれてしまう。これで無関係といえるのか。そして、パラリンピックは安全に開催されるから、問題ないなどと、言って済ませることではないのだ。
 
 私は障害者が生きやすい社会をつくることが大切であり、障害者を差別してはならないと強く確信しているし、大学に勤めているときに、実際に入学してきた障害者のために、可能な限りのことをしたと自負している。しかし、それでも、なおかつ、ごく稀であるが、障害者のなかには、自分たちには、特別な援助してくれるのが当然であるという態度をとり、特に援助してくれるひとたちに対して、感謝の念すら表明してないひとがいた。障害者団体は、けっこう分裂していて、意見の相違が大きい。そして、なかには明らかに間違った論をもって行動しているところもある。そういう見解を正すために、かなり苦労したこともある。
 社会が障害者を援助し、健常者と可能な限り同じように生活できるようにすることが大事であり、それが社会全体のためになると思う。しかし、それだけでは不十分で、やはり、健常者による具体的な援助行為が必要な場面は多々あるのだ。そういうことに対しては、当然視するのではなく、援助者に対する感謝は必要だと思うのだ。
 しかし、このパーソンズ会長は、かなりの犠牲を払わざるをえない日本国民に対して、まるで感謝の念をもっているようには思えない。パラリンピックは、独立したバブルのなかでやっているのだから、東京がどんなに感染が拡大しても、それは無関係、そっちの話だろうというようないい方だ。悪影響を与えたら直ちに罰則を課すなどといっているが、(それはホテルの人に暴行を加えて傷害を与えた選手を確かに罰したようだが)、開催そのものが、感染拡大に影響するし、また、医療資源を大きく取られるために、東京その他の医療が逼迫する原因になっていることについては、まったく無視しているようだ。普通の感覚をもっていれば、そういう援助に対しては感謝しているくらいの意思表明があってしかるべきだろう。
 障害者の祭典ということで、できる限りオリンピックとは、違った対応をとりたいと思っていたが、会長のインタビュー記事を読んで、わずかながらもあった応援する気持ちが失せた。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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