中国の宿題制限 効果があるとは思えない

 中国で、学校での宿題を制限する政策を打ち出したことが、報道されている。どれも似たようなものだが、ひとつを引用しておきたい。
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 中国政府は、義務教育にあたる小中学生の宿題の量を制限し、学習塾の設立を規制する方針を発表しました。
 中国政府は24日、小中学校での宿題の分量について、小学1年と2年生には筆記式の宿題を出さず、小学3年から6年生には1時間、中学生には1時間半を超えないようにするといった指針を発表しました。また、学習塾の新設は許可せず、既存の学習塾は非営利組織とし、運営会社の株式市場上場は禁じるとしています。
 学歴が重視され受験戦争が日本以上に過酷といわれる中国では、親が子どものためにかける教育費の増大や過度な宿題の量など、子どもへの負担が少子化の原因の一つとも指摘されていて、政府の規制強化の背景には出生率を向上させたい考えもあるとみられます。https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4322587.html
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 中国で受験が過熱するというのは、1500年近く続いていた科挙の伝統があるから、こうした制限でなくなるとは思えない。韓国でも、塾や家庭教師を禁止していた時代があったが、そのうち有名無実化し、現在では、教育産業はかなり発達しているはずである。中国でも営業としての塾が盛んだというのも、妙な話だが、長い中国の伝統から考えれば、ごく自然なことだといえる。

 逆に、通常の小学校で、一年生から宿題がでているのかと、そのほうが驚きだ。宿題とは義務としての家庭学習だが、別に宿題などなくても、勉強させる親はいくらでもいるだろう。激しい受験競争がある以上、宿題を制限したからといって、受験競争がなくなるわけではない。逆に、親の教育熱心さと経済力の差が、より明確に反映されるようになると考えるほうが自然だろう。
 中国は、アメリカから技術を盗んで、経済を発展させていると非難されているが、既にそういう時期は過ぎていると思われる。独自の開発力も相当に進み、それが、中国の教育熱心さと競争によってもたらされていることは否定できないだろう。
 こうした事情を考えれば、やはり、勉強の過熱は、一時的な緩みはあっても、続いていくだろう。それよりも、この報道で気になるのは、出生率を向上させるためだという点である。
 先進国では、少子化による人口減少が問題だといっている。しかし、世界のなかで先進国の人口は、少数なのである。圧倒的に途上国のほうが人口が多く、国際的には、人口減少ではなく、人口増加こそが、主要な人口問題である。そして、世界でもっとも人口が多いのが中国であって、そのために、中国は一人っ子政策を実施してきた。それも、逆の意味で極端すぎる政策で、いつか破綻するだろうし、また、抜け穴や弊害もあるだろうと言われてきた。いまは廃止されているが、今度は少子化対策をして、人口増大を図ろうとするというのは、国際社会における人口問題という点から、そのことが深刻な事態をもたらす危険がある。中国としては、やがてインドに抜かれるかも知れない、その結果として、経済力として、やがてインドがトップになるという危惧をもっているのだろうか。
 しかし、いいかげんに、国家全体の経済規模などを重視することは、やめるべきなのだ。大切な経済的要素は、国民全体が豊かになることであって、人口が小さければ、経済規模が小さいのは当たり前のことだ。
 高齢化社会は、対応不可能な問題ではない。高齢者が労働の世界に留まり続ければ、高齢化社会は、さほど問題ではないのだ。もちろん、病気や働けないひとが出てくるが、それは、若い世代も同じことであり、特に、教育を受けている世代は労働の外にいる。
 国際社会での人口過多は、環境問題の深刻さを増進させる。環境問題は、まずは人口増大から生じるのだから、増加しすぎる人口を抑制することこそ、国際社会、そして個々の国家の課題である。日本でも、私は少子化の進行はいいことだと思う。
 中国で、教育が過熱し、教育にお金がかかるという意識が浸透してきたことは、中国人の教育が、以前の裕福な階層だけではなく、広く浸透してきたからだといえる。これは、中国が典型的な先進国の社会に入っていることを示しているのであって、その結果として、出生率が低下するのは、当然なのである。
 宿題の制限が、より自由な子どもたちの発達を促進させるためのものであるなら、大いにけっこうなことだと思うが、こうしたことで、受験過熱が緩和されるとは思わないし、まして、少子化の進行か遅くなるとも思えない。逆に少子化がとまり、人口増大が起きることのほうが重大である。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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