インフラ劣化の記事 建築会社は工業としての農業を

 熱海の土石流災害に関連して、日本全国のインフラが耐用期間になり、今後劣化が進み、補修の必要性が出てくるが、財政難の折り非常に困難な状況にあるという記事があった。「限界目前、こうなることは分かっていた日本のインフラ」加谷 珪一 2021/07/26 06:00
 
 単にインフラの劣化だけではなく、温暖化の影響で台風被害などが大きくなり、熱海のような事例が今後多数起きる危険性を指摘している。
 日本のインフラ整備などは、日常的な生活のなかで、常に感じるところだ。インフラの代表は道路だろうが、日本には歩道のない車道がたくさんある。オレンジ線のひかれた道路から、脇にはいった住宅地の道路は、歩道がないことが多い。しかし、住宅地だから車はどんどん入ってくる。だから、歩行者と車が区分のない道路を行き交うわけである。そうした道路で何度も悲惨な事故が起きている。

 私はオランダに2年間暮らし、またその間周囲の国に車で何度もでかけが、車が頻繁に通るのに歩道がない道路は、見たことがない。皆無とはいわないが、ほとんどないといってよい。もろろん、日本とヨーロッパは人口密度が違い、ヨーロッパは、日本に比べれば土地の余裕があることは確かだ。しかし、やはり違うのは安全意識なのではないだろうか。近年、「安心・安全」という言葉が、より空虚に響く文脈で多用されているが、もともと、安全意識が低いのが、日本社会の特質であると思っている。
 大学の講義で、子どもの安全を扱うとき、オランダの信号と日本の信号を比較して、学生たちの意見を聞くと、まず例外なく日本のほうがよいというのだ。オランダの信号は、車と歩行者、自転車の区分、そして、直進、左折(日本では右折)の区分が明確で、別々に青になる。日本のように、右折のときに、前から来る車や歩行者を気をつけながら運転する必要がなく、安心なのだが、待ち時間が多くなる。それに対して、日本では、そうした区別があまりなく、安全・安心よりは、待ち時間の短縮のほうが重視されるのである。もっとも、車を運転している学生はそれほど多くはないから、実際に運転するようになると変わるのかも知れないが。
 宅地開発などでも、こうした安全意識が、どこまで徹底されているかは、かなり疑問だ。しかし、意外に、日本は安全な社会だと言われているために、安全意識が高いように錯覚されているともいえる。
 
 インフラ整備は大規模開発、とくに住宅開発と不可分だが、日本は住宅を多数建築するための開発は、止めるべき時期に来ていると思う。正確にいえば、既にずいぶん前にそうした時期になっていた。しかし、いまだに、森林が刈り取られ、水田が潰されて、開発する姿があちこちでみられる。私が住んでいる地域で、私が移住してきたから、伐採されて消失した森林は、数えきれないほどだ。そうした地域はほとんどが宅地になっているのである。他方、空き家は無数にあるのだ。散歩をしていると、とにかく、あちこちに住んでいない家がある。
 建築会社は、住宅を建設しなければ、商売にならない。だから、なんとか、宅地造成してどんどん一戸建て、アパート、マンションを建てていく。しかし、その一方でどんどん空き家、アパートの空き部屋が増大していく。こんな無駄はない。では、建築会社は何をしたらよいのか。私は、建築会社はどんどん農業会社に転換していくべきであると思うのだ。住宅も農業も土の上でやることに変わりはない。そういう意味では、建築会社は農業に親近性があるはずだ。建築は一端建てたら、その後数十年そこには建てないのが普通だ。しかし、農業は一年中やることができ、絶えることがない。
 また、オランダの話になるが、オランダは、農産物輸出実績で、世界第二位か第三位である。日本の十分の一しか国土面積がない国が、アメリカに継ぐ農産物輸出大国なのである。それは、オランダ農業の特色から来ることだ。オランダは野菜つくりと花つくりがメインだが、花は畑で大規模に栽培する。花は、食料ではないので、農薬などを使用しても、とくに問題がないので、畑で大量に栽培することが容易だ。他方、野菜は、ほとんどがハウス栽培である。私は、オランダに住んでいた間、野菜を栽培している畑を見たことがない。そして、ハウスは、コンピューターによって、温度、湿度が完全に制御されている。太陽が照っているときにも、照っていないときにも、自動的に一定の温度・湿度が保たれている。収穫の方法も機械化されている。つまり、オランダの農業は第一次産業ではなく、第二次産業なのである。しかも、第三次産業的管理がなされている。そして、これは、最近のことではなく、1980年代から発達した手法なのである。
 こうした栽培のために、一定の品質をもった農産物を、一年中収穫することができ、害虫の発生がないので、農薬を使うこともほとんどない。非常に安心な食料だから、国際的に求められているわけだ。
 日本の農業も、オランダからかなり学んでいるが、オランダと異なって、太陽が豊かであるためか、工業化された農業が主流にはなっていない。しかし、建築会社ならば、こうした農業に転換することは、容易なのではないかと、私は常々思っている。私の住んでいる地域に、かなり広大な水田地帯があるのだが、道路の半分はすっかり潰され、配送センターになってしまった。やがて、半分も潰されるのかも知れない。潰される最大の理由のひとつが、後継者がいないことだ。だから、建築会社が、水田事業をコンピューター制御で行う工場にすれば、建築会社は恒常的な収益場を確保し、日本の地域から水田がなくなることを止めさせ、安い農産物、米が大量に生産できることになる。いいことづくめではないだろうか。
 
 どうしても建築にこだわる会社は、空き家の再活用に、より生産的な事業に移行したい建築会社は、農業に転換する時期ではないだろうか。
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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