オリンピックに期待する経済効果は、ほぼ消失した

 毎日新聞が「東京五輪で景気浮揚たいした差ない 専門家切り札に冷徹」(2021.5.18)という記事を掲載した。要するに、五輪を強行しても、たいした経済効果はなく、また、中止しても、既に五輪に期待する経済効果のかなりの部分は済みになっているので、大きな損失はない。そして、無観客で実施した場合に、経済効果は小さく、逆にコロナの感染拡大が起きて、再度の緊急事態宣言など発出した場合の、経済的マイナスは非常に大きいという分析を、多くの経済学者がしているという記事だ。
 オリンピックに懐疑的な者にとっては、常識的な内容だが、オリンピックスポンサーのメディアが、ついにこうした内容を書くようになった。
 オリンピック開催が、東京に決まったニュースで、日本中が喜びに沸き立ったなどという報道があるが、それは間違いだ。当時から、どうして東京になんか決まったのだ、イスタンブールでよかったではないかと思った人は、少なくないのだ。当時文科省にいた森脇氏が、インターネットの番組で、そのように述べていたのが印象的だったが、石原知事がオリンピック招致に取り組んでいたとき、うまくいかなかった最大の理由が、世論の支持が低いということだったのだ。そうして、安倍第二次政権になって、ものすごいメディアによるオリンピック宣伝があり、わずかながら、オリンピック招致に賛成する意見が上回るようになったが、メディアによる「洗脳」とも言うべき宣伝がなければ、けっして逆転することはなかっただろう。

 反対意見の多くは、震災と原発事故からの復興が不十分なのに、オリンピックなどやっている余裕はないはずだというものだったが、更に、そもそも現在のオリンピックは、無駄なお金がかかりすぎ、国民に大きな負担を強いるものだというのがある。こうした反対論の正しさが、証明されつつあるのが、現在の状況ではないだろうか。
 国民の多くが、経済的負担が大きい、つまりマイナスであると感じるのは、なんといっても、オリンピックのために、様々な建設が行われる点である。もし、そうして建設されたものが、オリンピック後も大きな役割を果たし、国民に利便を提供するならよいだろうが、オリンピックのために建設された施設などの多くは、あまり利用されなくなってしまうのが、最近のオリンピック開催国での事情なのである。国立競技場は新たに建設されたが、オリンピック後の使用は、かなり制限されたものになるという。オリンピックは、人気競技だけではなく、本当にマイナーなスポーツがたくさんある。そうしたスポーツすべてのために、IOCが規定した基準で建設しなければならないが、そうしたマイナースポーツの競技場が、日本で恒常的に使用されるなどということは、あまり考えられないのである。また、競技施設だけではなく、ホテルなどの観光客をあてこんだ施設も相当建設される。だが、オリンピックで訪れる観光客は一時的なものであって、観光客が増えるとしても、オリンピック時からすれば、かなり少ないものになるだろう。
 ホテルは民間資金が投入されるとしても、競技場はほとんどが税金である。オリンピック用の施設を、その後市民が気軽に利用されるようにはならないのだ。しかし、建設する側からみれば、極めて大きな利益をもたらすことは事実だ。そうしたオリンピックの利益に群がる一部の業界にとっては、オリンピックは、利権の対象になっている。それが、オリンピックを熱心に進めようとするひとたちの理由である。そして、今確認することは、そうしたことは、私のようなオリンピック反対派にとっては、極めて不愉快であるが、それを今問わないとしても、建設業界にとっては、そういうオリンピック利権の多くは、既に得た状況になっているのである。
 したがって、これから、オリンピックが開催されることによる経済的利益というのは、ほとんどが観光にかかわることだろう。IOCにとっては、テレビ放映権だろうが、それは日本にとっては、あまり意味がない。しかし、海外の観客の受け入れは、既に無しと決まっている。国内のみの観客も、ほぼ無くなる可能性が高い。メディア関係者やスポンサーの招待客などはいても、経済効果を押し上げるほどのものではないだろうし、もしかしたら、公費による招待かも知れないのだ。明らかにされていないので、そういう解釈は可能性として考えておかねばならない。
 要するに、いくら考えても、オリンピックを強行することによる経済効果は、ほとんどなくなっているのだ。
 逆に、実施しないと大変だということで、強行実施派が常にもちだすのが、多額の賠償金である。しかし、それは、多くの人が指摘しているし、私もブログで書いたが、ほとんど心配することはない。違約金は、契約上存在しないし、損害賠償の訴訟を起こされる可能性はあるが、コロナ禍は自然災害のようなものだし、訴訟を起こすことによるデメリットのほうがはるかに大きいから、そんな訴訟を起こすことはないと、ほぼ断言できる。
 そうすると、オリンピックを強行した場合の、「損失」のほうだ。これは、なんといっても、おそらく、7月までは感染がおさまる方向に進むだろうが、海外から10万人程度の人がやってきて、短期的に、特定の場所に集まることで、感染が広まる危険性である。
 政府や組織委員会は、「安全で安心な大会」にすると、ことあるごとにいっているが、そんなことを信じる国民がいるのだろうか。菅首相が、コロナ対策で国民に向かって約束したことで、実現したことがあるだろうか。そして、感染拡大にとって、もっとも重要な対策のひとつが、海外方らの入国者に対する水際対策であるが、これがザルであることは、散々指摘されている。
 常々疑問に思っているが、海外からの外国人の入国に際し、ほとんど拘束力のない行動規制の計画書などを出させて、事実上自由行動を許しているが、なぜ、ホテルに隔離しないのだろうか。ホテル代は当人たちに負担させればよいのだ。それを入国条件にすればよい。ホテルに隔離すると、無料にしなければならないなどという、妙な思い込みが政策を左右しているような気がしてならない。実際に、ホテル隔離を事実上強制して、ホテル代は、当人負担にしている国はあるのだ。それを入国条件にすればよいだけのことではないか。入国拒否だって可能なのだから、それが不可能ということはない。
 思い出してみると、武漢でコロナが発生したとき、日本政府はチャーター機を飛ばして、日本人を帰国させたが、当初、飛行機代を徴収する予定だったが、非難がでて、公費負担にした。私は、疑問だった。留学生など貧しい人は、無料にすべきだろうが、企業から派遣されて赴任しているひとたちは、企業が出すのだろうから、当然通常の飛行機代を請求すべきだったのだ。ところが、「世論」と称するものに押されて、無料にしてしまったことのつけが、その後もいろいろなところで現れた。しかし、公費負担は大変だから、逆に計画をザルにしてしまう方法がとられたのが、水際処理だと思わざるをえない。そして、これが、コロナの拡散を助長している。オリンピックでは、まさしくそういうことが、もっと大規模に起きる可能性が大きいのだ。そして、おそらく、今のままでは、現状よりも、更に制限がゆるくなるだろう。なにしろ、VIPやスポンサー招待客たちが数万人もくるのだから。
 オリンピックをどうするのか、結論は明白だ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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