高橋洋一氏の炎上に関して

 内閣参与である高橋洋一氏のツイッター書き込みが炎上している。欧米のコロナの感染が多い国と日本の感染数が表示されているグラフを掲載して、日本の感染は「さざ波」として、こんな状況でオリンピック中止は「笑笑」と書いたわけだ。これには、賛同の書き込みもそれなりにあったが、大非難の渦が起き、国会で菅首相にも質問が飛んだ。例によって、菅首相は、個人の考えだ、とまともに答えなかったが、内閣参与にしているからには、やはり、もう少しまともな対応が必要なのではないか。
 ところで、高橋洋一氏については、youtubeの高橋洋一チャンネルは、頻繁にみているので、その発想は、多少理解しているつもりだ。彼は、とにかく数字に強く、逆に数字以外のことについては、ほんとうに幼稚な感じなのだ。また、数字の扱いにこそ、立場が表れることを、あまり自覚していないのかも知れない。あるいは、自覚してやっているなら、かなり始末が悪い人物である。
 今回のグラフでも、出ているのは、日本よりも圧倒的に感染が多い欧米中心である。しかし、日本は東アジアに属していて、東アジアや近いオセアニアの主な国として考えてみれば、圧倒的に感染が多く、死者も抜きんでているのだ。つまり、G7としては、感染が低いが、東アジアとしては、感染が多いのだ。そして、日本は東アジアに属していることを忘れてはならない。その数値をみせて、なおさざ波といえるか。しかも、欧米はどんどん収まりつつあるのに、日本は拡大している。しかも、インド株は、ひょっとして、これまでの欧米とアジアの立場を逆転させるかも知れない。インド株は、日本人の免疫をすり抜けるという研究がでている。そうすると、あくまでも推測だが、いままでの欧米で猛威をふるった株は、アジア人の免疫が強く働くものだったために、アジアでは感染力が弱かったが、インド株は逆転して、アジアで猛威を振るう可能性がある。しかも、他の感染を防いだ国は、対策に習熟したが、日本の対策はザルだから、もろに被害を受け、欧米と逆転する危険性がないとはいえない。

 こうしたことを、既存の数字でも考察できるのだが、それは高橋氏はしない。
 
 また、youtubeなどで盛んに述べていることのひとつとして、国ができるのは予算をつけて、それをだすだけで、あとは地方自治体の仕事だというのがある。しかし、緊急事態宣言の発出についてみればわかるように、地方自治体の要請をそのまま政府が認めているわけではないし、地方が要請していないのに、政府が発出している場合もある。つまり、政府は予算を決めて、使い方は地方が決めているなどというのは、まったく事実に反するのだ。こういうごまかしの論理を、高橋洋一という人は、けっこうやっている。
 
 早速、高橋氏の説明が自身のyoutubeに出たから、聞いてみた。しかし、残念ながら、説得力を感じなかった。あくまでも、欧米中心の酷いところとの比較をしているわけで、私自身は、「さざ波」とか「笑笑」という表現そのものを問題にするつもりは全然ない。むしろ、彼が「選択」した数字が問題なのである。
 そして、オリンピック中止については、やはり「莫大な賠償金」が発生するといっている。具体的に数千億円という数字までだしている。しかし、何を根拠にしていっているのだろう。オリンピックに関する契約書が、オリンピック組織委員会のホームページに公開されているが、そこに、オリンピックをしないことになったときの対応について書いてある。賠償的なことについていえば、まず「違約金」といわれているものについては、書かれていないので、「違約金」は発生しない。これは、武藤事務局長もテレビで明確に発言している。しかし、「損害賠償」の権利は消失しないと書いてある。つまり、損害賠償は確かに発生する可能性がある。(そもそも損害賠償を請求する権利は、誰にだってあるのだ。)
 そこで、違約金と損害賠償の違いだが、違約金は、日本がこの契約にもかかわらず、オリンピックを開催しないという申し出をしたら、自動的に発生するものだ。それはない。それに対して、損害賠償は、IOCが日本あるいは東京に対して、訴訟を起こして請求するものである。損害賠償については、スポンサーから提起される可能性もある。
 だが、高橋氏は、それが確実に数千億円発生するようなことを、確信をもって話しているが、そういう確信をもっているとしたら、ずいぶん軽々しい判断をしているといわざるをえない。
 コロナに苦しんでいるのは、日本だけではない。様々な国で大変な状況にあり、予選に出場できない国もある。そういう状況で、世界的にも、中止を主張している組織、メディア、個人がある。そういう状況で、開催は不可能だという申し出をして、IOCが日本に損害賠償などできるだろうか。そんなことをしたら、今後、オリンピック開催に立候補する国など、でてこなくなるだろう。ただでさえ、立候補する国は極めて減少しているのだ。自然災害は、近年温暖化のために、異常なほど増えている。引き受けたが、実施前に大きな災害に見舞われても、災害復旧をそっちのけにして開催しなければならないことになる。災害のために中止要請すると、莫大な損害賠償をしなければならないとすれば、そんな危険な開催都市に立候補などできないではないか。
 今回、裁判になったとしても、国際的には、日本を応援してくれるだろうし、日本に著しく不利な判決がでるとも思えない。それより、そんな訴訟を起こすほどIOCは愚かではないだろう。それは、スポンサー企業についても同様だ。国際的なコロナ禍で中止したのに、訴訟など起こしたら、その企業イメージは著しく低下するに違いない。しかも、スポンサーはかなりの宣伝を既に実施している。本番のみの宣伝効果のマイナスよりは、企業イメージの低下のほうを重視するだろう。
 そういう意味で、賠償金が発生するという高橋氏の言い方は、極めて無責任なのである。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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