羽鳥モーニングショーで池江問題がとりあげられ、玉川氏も山口氏も、池江璃花子氏に対する「オリンピック辞退せよ」表明を非難していた。山口氏は、日本が間違った方向にいっているとさえ述べていた。既にウェブに報道されているが、私はリアルタイムで番組をみていた。玉川氏には、普段共感することが多いが、これはいただけないと思った。
私自身、「アスリートの立場は尊重したい一方」という題で、一般論として論じ、アスリートの立場を尊重すべきであるが、アスリートも、自分たちの活躍が、コロナで苦しむ人に勇気を与えるなどと考えないでほしいと書いた。池江問題は、このことが、拗れたトラブルになっているので、もう少し具体的なレベルで考えてみたい。
整理すれば、池江璃花子選手宛に、オリンピックを辞退してくれ、というような要請がSNSを通じて寄せられ、それに対して、池江氏が、戸惑いをツイッターで書いたことに関してである。
既にネット上では、両論があふれている。一方では、オリンピック反対に池江を利用していると書き、他方では、オリンピック推進に池江を利用していると書いている。双方が、相手の政治利用を非難しているのである。
この問題に、youtubeの「一月万冊」は、かなり詳細に時系列をチェックして、「池江氏に対する辞退要請メールがたくさんきて、池江は悩んでいる。自分に努力するだけで、開催、中止どちらでも受けいれざるをえないと、池江がツイッターで述べている」というウェブ上のニュースが、池江のツイッターよりも早い時間にアップされたという事実を紹介している。そして、本当にかなりの数の辞退要請が、池江氏本人に寄せられたのかについても、ツイッターを検索した上で、疑問を呈している。私自身も確認したが、やはりかなりおかしな事実だ。池江氏がツイッターでアップしたあとに、ニュースが流れなければならない。ということは、これはメディアと池江が協力して行ったプロパガンダという可能性を否定できないわけだ。
私も池江氏のツイッターをチェックしてみたし、フォローも少しだがみた。池江氏に、どのくらい、どのような要請があったのか、それが押しつけがましいものなのか、侮蔑的なものだったのか、あるいは、論理的に説得するようなものだったのか、そういうことはまったくわからない。言論の自由があり、また、公に意見公表している以上、表立って、あるいは、個人的に、意見が寄せられることは当然であるし、他人からの意見を言われたくなければ、そのように措置すればよい。拒否措置をしていない以上、そうした要請すること自体を批判するのはおかしいというべきだ。
池江氏は、自分はアスリートとしてできることだけをやっているだけだ、反対しろといわれても、何もできないと語っているのだが、しかし、それは事実と異なる。池江氏は、以前から、明らかにオリンピックの宣伝塔として、積極的にオリンピック開催のために一役も二役もかっている。つまり、何もできないという立場ではなく、オリンピック開催にむけての政治的方向に協力しているわけだ。これは、国民なら多くの人が承知していることだ。それを、反対すべきではないかといわれて、自分は何もできないというのは、やはり、疑問を感じざるをえないのである。もし、不本意ながら広告塔をやらされているなら、はっきりと断ればいいし、あれは自分の本意ではなかったと表明すればよい。もし、自覚的にそれを引き受けたのならば、はっきりと、辞退などはしない、自分はオリンピックの開催を支持していると表明すればいいだけだ。彼女の表現の自由はある。しかし、彼女のとってきた姿勢は、自分はありのままの現実を受けいれるだけだというのは、これまでの姿勢とは違っている。
では、池江氏を擁護する人はどのように書いているのか。
日刊スポーツの記者益田一弘氏は、次のように主張している。
「7日夜に池江がSNSに文章を投稿した。SNS上で「代表辞退」「五輪中止表明」を求める声が届いたという。開催に賛成するのも反対するのも個人の自由だ。だが匿名で自分に都合がいい意見を、20歳の現役選手に無理強いすることが許されるはずがない。(略)
そもそも東京切符は目標のパリ五輪前に思いがけず手にしたものだ。しかも池江は「ないなら次に向けて頑張るだけと思っています」としている。五輪を開催してほしいと主張しているわけでもない。
そしてもちろん五輪開催は1人の選手が決められることではない。」
この主張は、どうも同感しがたいところがある。届いた声が匿名であったかどうかは不明であるし、実名を書いていた者もあったかも知れない。断定できるのだろうか。それから、「無理強い」をしているというのは、いかにもありえないことではないだろうか。「代表辞退、五輪中止表明」を求める声と、本人も書いているではないか。それが、なぜ、無理強いになっているのか。脅迫的な内容があるのならば、無理強いともいえるだろうが、単に求めるだけで、無理強いになるのか。記者ならば、もう少し表現に気をつけるべきだろう。
「五輪を開催してほしいと主張しているわけでもない」というのは、先述したように、正確ではない。五輪開催の宣伝に大いに協力しているのだから、五輪を開催してほしいと主張しているのだ。だから、五輪を中止してほしいと思っているひとたちが、池江氏に要望をだしたのではないだろうか。五輪開催を一選手が決められないことは当たり前だが、代表選手を辞退することはできる。五輪開催を迫ったわけではないだろう。
池江氏のツイッターに対するリプライを分析した投稿もあった。「池江璃花子選手への五輪出場辞退要請は誰が行っているのか」鳥海不二夫 https://news.yahoo.co.jp/byline/toriumifujio/20210510-00237084/
辞退要請よりは、応援リプライのほうが圧倒的に多いと分析されており、誹謗中傷的なリプライを行っているアカウントのフォロー数が少ないと書いている。辞退要請することは、ありうるとしても、誹謗中傷することは許されないという結論になっているが、それは確かにそうだ。
ちなみに、私は、本当に、池江氏に辞退要請を行ったひとがいるとしたら、そういう行為には、賛成できない。それは、彼女を応援する立場とか、そういうことではなく、むしろ、オリンピック反対派にとって、マイナスになってしまうからである。実際に、そういう効果をもたらしている。国家的行事として行っていることに対して、選手として参加している個人に決断をせまることは、無理難題であることは自明のことだ。選手には、選手としての生活があり、それはオリンピックを目標としてやってきたことなのだから、開催を望むことは、ごく当たり前のことなのだ。
もし、そういう辞退表明を求めるならば、「オリンピック選手」という「集団」宛にすべきだ。そして、公開の場での意見表明に限定すべきだろう。しかし、池江氏がオリンピックの広告塔になっていることに対する疑問は、やはり、出さざるをえないともいえる。