4月の20日ころに大きく話題になった神奈川県の飲食店の、マスク飲食の徹底を調べる県民モニター制度であるが、県民による「密告」制度だと、大きな批判を浴びている。もっとも、神奈川県のホームページによれば、4月30日の段階で、7月から実施し、今後募集予定としているので、実際に行われ化どうかはわからない。批判が強いという理由でやめるかも知れない。そこで、この問題を考えてみたいと思った。
神奈川県によると、県民モニターは、「認証店舗に実際に赴き、マスク飲食実施店の工夫や努力をしている点など、優れた取り組みを利用者の目線で評価するもので、今後募集予定」ということだ。そして、チェック項目は以下の通りである。
以下の全ての項目の実施が必要です。
感染防止対策取組書
1.感染防止対策取組書の掲示
2.取組項目の実施
基本的な感染防止対策
1.手指消毒の徹底
2.アクリル板等の設置又は座席の間隔の確保
3.換気の徹底
マスク飲食実施店認証条件
1.マスク飲食実施店であることの対外的な発信(宣言)
2.入店時の「マスク飲食の実施」についての丁寧な説明
3.マスク飲食に協力しない方に対する入店遠慮の働きかけ
4.マスク飲食用マスク等の配布
5.注文用タブレット、店内放送・ディスプレイ等での呼びかけ
6.注文時や料理提供時の再度の説明
7.マスク飲食の実施状況のウォッチ(注文した料理を待っている間を含む)
8.マスク等なしで会話をする方に対する着用の呼びかけ
9.マスク飲食に協力しない方に対する早期退店の要請
以上である。マスク飲食店として、まず認証システムがあり、その認証を受けた店をモニターがチェックにいくということである。
気になるのは、マスク飲食は間違いだという説も最近表れており、その点については、きちんとしているようだ。つまり、マスクはウィルスがたくさん付着している可能性があり、不用意にマスクを触って外したり、付けたりすると、かえってウィルスが手について、その手で他のものを触り、人に感染する可能性が指摘されている。ただ、神奈川県が公表している「マスク飲食店認証制度」のビラには、「ひもをもって」と書かれている。ただ、それを客が正確に実施するかどうかは、保障の限りではないので、チェックが必要ということになるのだろうか。ただし、認証を受けないと、協力金を受け取れないということではないらしい。また、認証を受けると時短要請が解除される、という話が出回っているのだろうか、それに対しては、決定されているわけではないと断りがなされている。
さて、こうした認証制度がどの程度効果があるのかは、わからない。東京都の認証制度は、単にホームページで用紙を入手して、店に掲げれば、認証を受けているように振る舞えるので、間もなく停止されたと記憶している。また、成功していると言われる山梨県では、実際には、認証印がある店を選ぶよりは、空いている店を選ぶ、というような人の話を読んだことがある。つまり、認証を受けていても混んでいる店よりは、認証を受けていなくても、空いている店のほうが安心だというわけだ。
この制度の問題は、「密告制度」というよりは、チェック項目に、客の行動が含まれていることだ。つまり、協力しない客がいたときに、店側としては、強くは出られないのが普通だ。客を追い出せば、金銭的な損失だけではなく、悪口を言われる可能性がある。しかし、それで黙認せざるをえなくなったときに、モニターが現れれば、認証を取り消されてしまうことになる。「呼びかけ」や「要請」をしていれば、合格というのでは、意味はあまりないことになる。
批判の多い密告制度について考えてみよう。この件でのモニター制度は、はたして密告制度といえるかどうかは疑問だ。密告とは、密かに通告することをいうので、モニターというのは、認定された者だから、検査官のようなものだ。つまり、正規の検査システムということになるだろう。もし、こうした認証での密告制度というのならば、任意の客が疑問をもったときに、通告する窓口を設定することだろう。そして、通告があったら、密かに覆面調査官が出向くというのならば、密告制度といえるだろう。
ただし、「密告」制度とは、全面的に悪いものとはいえない。企業内で犯罪的な商行為が行われており、社内での批判にあっているのに、経営者がいっこうに改めようとしてないときには、誰かが行政委員会に通告することがある。フォルクス・ワーゲンの排気ガスのごまかしなどは、そうした密告によって明るみにでた。こうした行為は、公益に適うこととして、むしろ奨励されているし、公益通告者保護制度という、いってみれは、「密告者」を保護する制度もある。つまり、通告といおうが、密告といおうが、同じことだと思うが、密告という行為そのものが否定されるべきではなく、その内実であろう。
歴史的には、独裁政権は、政権維持のための密告を奨励する。ナチスなどがその代表例だろう。少年の心につけいって、親すら密告させようとしたわけである。現在では、北朝鮮などでも奨励されていると言われている。そうした密告と違って、明らかに不正を正すための密告、通告は奨励されるべきである。
現実問題として、コロナ対策をしっかりやっているという認証を受けた場合、それが確実に実行されているかどうか、調べることは当然でもある。かつての東京都のように、自分で認証して、証明を店にはることができて、そのチェックをまったくしないというほうが、よほど問題であろう。
要は内実であり、上に書いたように、店で取り組めることを認証し、店でできる範囲を超えていることをまで、チェック対象にして、「マスク飲食に協力しない客を退店させなかったので、認証を取り消す」などということがあれば、それはやはり、非難されるべき密告制度といわざるをえないだろう。