菅首相が4月の中旬に訪米して、バイデン大統領と対談を行う予定とされている。最初の日程が一週間延期されたのは気になるが、とにかく、バイデン大統領と最初に対面で会談をする、世界で最初の首脳だということが、自慢のようだ。
しかし、ここ数日の間に、コロナの感染が急拡大している。大阪は、過去最大の感染数を記録しているし、どう考えても意図的に検査数を絞っていると思われる東京ですら、じわじわと上がってきた。こんな状況のなかで、外国訪問などできるのだろうか。菅首相は、口を開けば、コロナ対策に万全を期すと言っているが、実際のところ、本当に必要なことは、ほとんどしていない。自らの失策で遅れに遅れてしまったワクチンの確保に、それなりの本腰をいれているくらいではないか。それだって、まだまだという感じだ。
考えてみると、昨年の安倍首相に(当時)始まり、小池都知事、菅首相と、コロナ対策は、決定的に失敗しており、その要因のひとつがオリンピックをなんとしてでもやりたいという野望にあることは明白だ。コロナ対策は、昨年の3月くらいまでは、新しい事態として戸惑うのは仕方なかったとしても、それ以後は、感染症対策に必要なことは、専門家でなくても明白だった。
政府や自治体等の行政側がやるべきことは、
・検査と陽性者の隔離
・医療体制の整備
・治療薬とワクチンの開発とそのための国際協力
そして、国民の側では、マスク、手洗い、3密を避ける等々の、個人としてできる対策をしっかりとること。
こういうことは、疑いようのないことであるにもかかわらず、国民はかなり守ったために、欧米のような感染爆発は防いだわけだが、行政側がやるべきことは、ことごとく不十分であり、とくに第三波では見るも無残な状況になった。日本は、死者が少ないなどといわれているが、欧米ほどではないにせよ、かなりの死者がでた。とくに、第三波の死者数は、かなり深刻なものだ。
そして、今第四波に突入しようとしている。コロナ対策に万全を期すのであれば、この状況で外国訪問などできるはずがない。しかし、それよりも、アメリカから断られる可能性だってあるのではないだろうか。バイデン大統領こそ、トランプの逆をいくために、コロナ対策には、かなりの力をいれている人だ。そして、国際社会から、日本政府はきちんとしたコロナ対策をしていないと、批判されることが少なくない。バイデン大統領は、オリンピックは科学的根拠に基づいて実施を決める必要があるというようなことを延べた。菅首相が、アメリカのオリンピック参加を確実にするためにでかける意図がひとつである以上、今のような日本の状況で、菅首相がやってくることに対して、遠慮してほしいと思っても不思議ではないのだ。
菅首相は、バイデン大統領との会談で、何を獲得したいのだろうか。今の段階で報道されている限りでは、バイデン大統領が、日本政府に対して、貿易問題や在日米軍の負担問題で大きな要求をしているとは言われていない。したがって、そうした領域での改善のために、アメリカにいくわけではないだろう。素人目には、とにかく、日本の新首相は、アメリカ大統領に挨拶にいくのが慣例だから、それを実行するということなのかも知れないが、まさか、それだけの目的でわざわざ、このコロナ禍のなか訪米することではないだろう。今の段階では、やはり、アメリカに対してオリンピック参加の確約をとりたいと考えていると考えられる。
では、逆に、アメリカの要求に対して、どこまで譲歩を覚悟しているのだろうか。
現在、アメリカ政府と日本政府の相違点としてあげられるのは、なんといっても対中国政策である。具体的には、ウィグル族への人権侵害への対応と、北京オリンピック問題である。アメリカ政府がどこまで本気でやるのか、おそらくまだ流動的なのだろうが、世界の人権問題のリーダーであることを示すために、とにかく中国の少数民族抑圧政策を徹底的に批判したい。そして、そのために北京オリンピックをボイコットしたい。そのために、そこに同調してくれる「同盟国」を増やしたい、まだ、立場を鮮明にしていない日本に対して、「同盟に参加せよ」と迫ってくる可能性が高い。
しかし、東京オリンピックを控えている日本にとって、北京オリンピックをボイコットすることなどできるはずがない。アメリカが、東京オリンピックには参加するし、大いに協力しよう、その代わり、北京オリンピックボイコットを表明せよ、などと言われたらどうするのだろうか。まさか、最初のバイデン新大統領との電話会談のように、オリンピック問題は話し合われなかった、などと、また国民に嘘をついて、秘密の合意でもしようとするのだろうか。しかし、合意した以上アメリカは発表するに違いない。日本のように、「それは守秘義務だ」などということで、押し切ることはできないと思われる。メディアの質が違うからだ。それに、アメリカはボイコット同盟を増やしたいのだからは、増えれば必ず宣伝するに違いない。そもそも、この時期に、オリンピック開催問題を話し合わないことなど、ありえないのだ。
常識的にいえば、日本が北京オリンピックをボイコットするとはいえないはずである。そんなことを表明したら、中国は必ず東京オリンピックをボイコットするだろう。とにかく、アメリカと中国の両方が参加しなければ、東京オリンピックは成立しないのだ。たとえ無観客であったとしても。
訪米前の菅首相は、「前門の虎、後門の狼」という状況にある。そして、その状況をつくったのは、安倍前首相以来ずっと続いているコロナ対策のまずさである。今、とるべき最善の策は、オリンピック中止である。そうすれば虎(東京オリンピック)も狼(北京オリンピック)も、問題が消失するのだ。そして、本当に必要な国民生活、経済建て直しのための政策に注力できるようになる。