文春に対するオリンピック組織委員会の抗議 語るに落ちるとはこのこと

 オリンピック組織委員会からの抗議に対して、報道の立場から、文春が断固として拒絶したという記事を読んで、そういうことがあったのかと、早速調べてみた。
 まず、オリンピック組織委員会がどのような抗議をしたのか。「週刊文春報道について」と題する2021年4月1日の声明である。https://tokyo2020.org/ja/news/news-20210401-03-ja に掲載されている。これは4月1日発売の文春の記事「MIKIKO氏日本は終わってしまう 『森会長はぼけている』 女性演出家を排除 黒幕は電通NO2 」に関してである。
 要点を整理すると
・4月1日の文春は、MIKIKO氏のプレゼン内部資料を入手したとして、その内容に言及したことは、遺憾である。
・それは機密性の高いものであり、検討段階のものでも、開会式演出の価値が毀損される。
・内部資料の一部の画像を掲載することは、著作権法に違反するので、直ちに削除、廃棄することを求める。
・不正競争防止法違反の罪及び業務妨害罪が成立しうるので、警察に相談しつつ、守秘義務違反を含め、内部調査を開始した。
・内部関係者には、改めて守秘義務を守るように徹底している。
 
こうした抗議に対する文春の回答は短いので、全文引用しよう。

 
「東京五輪組織委員会の「週刊文春 発売中止及び回収」要求に対する「週刊文春」編集部のコメント
 記事は、演出家のMIKIKO氏が開会式責任者から排除されていく過程で、葬り去られてしまった開会式案などを報じています。侮辱演出案や政治家の“口利き”など不適切な運営が行われ、巨額の税金が浪費された疑いがある開会式の内情を報じることには高い公共性、公益性があります。著作権法違反や業務妨害にあたるものでないことは明らかです。
 小誌に対して、極めて異例の「雑誌の発売中止、回収」を求める組織委員会の姿勢は、税金が投入されている公共性の高い組織のあり方として、異常なものと考えています。小誌は、こうした不当な要求に応じることなく、今後も取材、報道を続けていきます。」
 
 前回の文春の記事、つまり、佐々木氏が辞任に追い込まれるきっかけとなった記事は、渡辺直美氏の件が主要なものではなく、MIKIKO氏の排除の問題性を指摘するものだと、ブログで指摘していた。そして、今回の続編で、そのことがもっと鮮明になった。そして、MIKIKO氏の排除のきっかけが、佐々木氏のトップになりたい欲求だけではなく、例のオリンピッグ案に最初に反対したのが、MIKIKO氏であったことに、佐々木氏が不快感をもったことであると指摘している。つまり自分の案に反対するような人間とは一緒にできないというわけだろう。従って、アイデアを出し合う段階での、単なる思いつきで、反対でひっこめたのだから、何ら問題がないというように片づけられる問題ではなかったということも理解できる。
 そして、今回の記事で明らかにされているのは、電通ナンバー2とされる高田氏が、佐々木氏を取り立てるために、MIKIKO氏を排除する旨を伝え、森会長と確認する場で、森氏が、MIKIKO氏の案を気に入っているから、引き続き責任者をやってくれ、と延べたとしている。それにあわてた高田氏が、別室でMIKIKO氏に、森会長はぼけているから、あれはまちがいで、責任者は佐々木氏に変わると告げたと書いている。文春記者が、森氏にそのことを確認したところ、守秘義務があるのでいえない、と答えたそうだ。その言い方は、常識的に考えれば、事実だが、公式に認めることはできない、という意味に解すべきものだろう。「ぼけている」として、発言を完全に無視されて、真逆のことを実行されてしまった森氏は、今後どうするのだろうか。
 
 ところで、オリンピック組織委員会が、いかにいいかげんな組織であるかが、上の抗議書やこの間の動きでわかる。文春の報じた内容に、守秘義務違反をしたものを調査するとか、警察と相談したとか、業務妨害であるなどと書いているが、オリンピック組織委員会は、公益法人ということになっており、かなりの部分が税金で運営されている。ある意味国家的事業ともいうべきオリンピック、パラリンピックを運営する責任主体である。従って、重要なことについては、説明責任があるということだ。文春の報道で佐々木氏が辞任したときに、記者会見での質問に、ほとんどまともに武藤事務局長は答えなかった。それは、国民が抱く疑惑については、全く説明しないということだ。内部の人間に守秘義務を課すのはいいとしても、国民に説明しなければらないことは、きちんと説明する義務を負っている。その説明責任をまったく果たすことなく、内部のどうしようもない腐敗を隠し、そして、解決することすらできていない。もし、組織委員会に、能力と責任感があれば、この開閉会式担当者たちのごたごたを、表面化する前にきっちり解決して、企画が進行するように計らっただろう。それができなかったから、こうした腐敗体制ではどうにもならないという正義感にかられたひとが、告発をしたのだと思われる。このような告発は、公益のためであり、擁護されるものなのだ。そういうことすら、組織委員会は理解していないようだ。
 著作権云々というのならば、MIKIKO氏の案を葬り去ったあげく、剽窃した佐々木グループは、もっと酷い著作権違反をしているというべきである。
 佐々木氏のあの辞任によって、企画グループがまともに機能していなかったことは、明らかになったのだから、守秘義務云々の前に、現状を明らかにし、どういう体制でやっていこうとしているのか、それをきっちりと国民の前に明らかにする必要がある。そうしなければ、国民が納得するオリンピックになどなるはずがないではないか。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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