「日本型学校教育」中教審答申批判 3

 今回は、「8人口動態を踏まえた学校運営や学校施設の在り方について」を検討する。ここでいう人口動態は、
・少子化
・高齢者人口の増大
・労働人口の減少
・人口増減の偏り
等である。
 高齢者人口の増大や労働人口の減少は、大きな社会的、政治的な課題であるが、教育的課題とは言い難い。生涯学習や、リカレント教育の課題としては、当然改善していく必要があるが、ここでの課題としては、学校教育であり、主には義務教育段階なので、考慮されてもいない。
 主に課題となっているのは、子どもの人口が少なくなっている地域での問題である。確かに深刻だと思うのは、1市町村1小学校1中学校という市町村が233団体(13.3%)あるのだそうだ。これまでの文科省のこうした状況認識から出てくるのは、ごく当たり前のように、学校の統合だったが、この答申では、他のいくつかの提言をしている。

 まずは、統合するか、あるいは小規模校として維持していくか、あるいは、下級段階で小規模校として残し、上級学年では統合してスクールバスを活用する、あるいは、ICTを利用した遠隔授業などを活用して、ネットワークとしての教育を行う。あるいは、上記のような小中学校が1校ずつしかない地域では、2校とも義務教育学校に再編してしまえば、学校数を減らすことなく、義務教育の学校を保持することができるというような案も示している。
 様々な方策があるが、自治体の関係部局が協力して、その地域の最善の形を採用していくことを求めている。こういう提言は、これまでなかったので、文字通り実施されるとしたら、好ましいことであるといえる。ただし、これまで文科省は、全国的な、統一基準による実行を求めてきたが、地域の事情に応じて、多様な形をとることを容認するというのは、大きな方針転換のように見える。これまで中央に従ってきた自治体が、本当に総意工夫をして、それが、住民に受けいれられるような形で実施されるとしたら、日本の教育も大きく変わる可能性があるといえる。しかし、簡単にできることとは思えないし、また、本当に文科省がそれを推奨しているのかどうかも、長い期間をみなければわからない。
 遠隔授業をしたり、あるいは、複数校担当の教師を配置することなども含めれば、学校を個別に管理する仕組みだけではなく、ネットワークとしての複数の学校の運営管理を合理的、民主的に行う必要がでてくる。
 自治体の関係部局(文教関係だけではなく)が総合的に検討することが必要であるとしているが、妥当であり、必要である。学校の問題は、地域の人口、住居形態の在り方にも大きく左右されるから、地域計画との関連が重要であることはいうまでもない。
 というわけで、この部分については、地域の状況に合わせて、柔軟に対応するというレベルでは、あまり反対する部分はないが、全国的な制度設計としては、疑問が残る。
 それは、文科省は、義務教育をどのような学校種で構成しようとしているのかということだ。特別支援学校は、別として、義務教育に関する学校の種類は、小学校、中学校、義務教育学校(小中一貫)、中等教育学校(中高一貫)という、一条校として位置づけられている学校としても4種類がある。そして、小学校と中学校が同じ敷地内にある、あるいは、違う敷地でも連携校という形になっている学校もある。
 少なくとも、私が知る限り、先進国で、国内の義務教育の公立学校の区切り方が、多様になっている国は存在しない。アメリカやドイツのように、州に教育の権限がある場合には、州によって異なることはあるが、州のなかでは、統一されている。(ただし、ドイツでは、分岐型と統合型が並列している州もあるが、それはふたつの体系があるということで、日本のように、体系的にはひとつだが、区切り型が多様だというものではない。)
 義務教育の段階で、このような制度的多様性をもたせる意味はなんだろうか。しかも、通学する学校の指定をしているわけだから、たまたま住んでいる場所によって、義務教育学校に行ったり、小学校と中学校にいったり、連携校にいったりする。そして、中学には進まず、中等教育学校にいく者もいる。もちろん、私立を加えれば、もっと多様だ。当然、こうした実態になっているのは、統一的な制度設計をした結果ではなく、ときどきに、基本的な小学校、中学校の他に、思いつきか、なんらかの理由かで、別の形態の義務教育のための学校を設置してきた結果だ。選択できるのならば、まだ納得もできる。しかし、指定された学校に通うのが前提なのだから、合理性のない状態というべきである。
 だが、この答申には、そうした多様な学校に分かれてしまっていることの検討は、なされていないようだ。義務教育学校推進のような意図は、なんとなく伝わってくるが、それならば、将来的な移行プロセスなども提起すべきであろう。
 簡略に私の考えを整理しておこう。
 まず、義務教育の学校制度は、基本的にひとつの単位であるべきだ。現在のような区切りが多様になっているのは、歴史的に継ぎ接ぎ的に形成されてきた産物である。
6・3・3と6・6と9・3という3つの基本形の相違があり、更に、小学校と中学校を一体に扱っている学校では、5・4という区切りにしている場合もある。しかも、これらは、多くが通学区指定になっている。学習指導要領は、同一であるとしても、区切り方によって、教育の在り方は異なってくるのだ。6・6の6という中等教育学校を設置した理由は、おそらく、中高一貫の私立学校に対抗するためだろう。実際に、かつての名門公立高校が、中等教育学校として再編されて、受験競争で成果をあげている場合すらある。
 私は、多様な教育を認めて、選択できるべきだという考えなので、行われている教育が多様であるのは、歓迎する。しかし、区切り方は、統一的であるべきだ。地域の特性で、過疎地域で、下級学年を小規模分校とし、上級学年を中規模校とすることはありうるだろうが、それは、統一的な内容をもった便宜的な区切りであるべきだ。
 では、どういう統一形態か、私は、9年制の義務教育学校にすべきであると考えている。北欧は、かなり前に9年制の国民学校に再編している。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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