面白くもないドタバタ劇はうんざり 佐々木宏問題

 オリンピックの仕事を担っている人たちがすべて、このような人であるとは思わないが、次から次へと出てくる、このナンセンスなできごとは何なのか。
 森氏といい、この佐々木宏氏といい、オリンピックに関わっている人には、いわゆるオリンピック精神に合致した精神をもっている人は、いないのではないかと思えてくるほどだ。それだけ、オリンピックとは、虚像なのか。あるいは、あまりに利権に走ってしまった日本のオリンピック関係者の異様な姿なのか。森氏と佐々木氏の共通点は、女性蔑視、女性差別意識という点だ。しかし、考えてみると、初回オリンピックは、女性の参加を認めていなかったことでわかるように、近代オリンピック創設者のクーベルタンは、実は女性差別主義者だったともいえるのだ。何しろ、フランス兵が弱くなったから、体力増強を図る目的があったという位だから。
 そういう点とは別に、今回こうしたリークが「今」なされたのは、なぜだろうかということに、興味がいだかざるをえない。なにしろ、一年前のことなのだ。lineのやり取りをしたメンバーから出たか、あるいは、そのメンバーが誰かに話し、それを聞いた人がリークした可能性があるが、現時点でだしたということは、オリンピック開催に対するネガティブキャンペーンをする意図を示したということだろう。また、式を演出するチームに、まとまりがないことも憶測させる。 

 これにともなって、野村萬斎氏やMIKIKO氏の辞任についても、異なった報道がなされている。気になるのは、コロナ禍のために、日本的伝統を重んじながらも、簡略な開閉会式にしようと考えた野村氏に対して、森委員長(当時)が、それに真っ向から反対したために、野村氏が辞任したというものだ。報道だから、真偽はわからないが、わざわざお願いした人が辞めたのだから、何か不快なことがあったに違いない、と思うのは、当然なことだろう。そして、MIKIKO氏だけではなく、女性スタッフは、チームからいなくなったという。おそらく、佐々木氏と合わなかったのだろう。つまり、佐々木氏のオリンピッグ案は、決して、ちょっとしたおふざけではなく、彼の体質なのだろうと思う。ソフトバンクのコマーシャルなどをみても、はっきりいえば、下品な受け狙いとしか、私には思えない。あのようなコマーシャルを制作して、評判をとっている人が、なぜオリンピックの開閉会式の演出を担当するのか、選出したひとのセンスをも疑わざるをえない。もともと、私はオリンピック開催そのものに反対だから、そういう人事に興味がなかったが、今回の事件で、やはりそういう世界なのだと改めて認識した。
 この案は、チームのひとたちの反対で退けられたが、では、構想されている内容はどんなものなのか。こんな案を考えるひとだから、世界中のひとたちを感動させるような内容を構想できるとは思えない。所詮、下品なお笑いをとることに長けているひとでしかないのだから。
 
 ここまで御前中に書いて、やはり、『週刊文春』を読まねばと思い、Kindle バージョンで読んでみた。文集砲は、本当にすごいと思わずにはいられないほどだ。口をつぐむMIKIKO氏に、資料やlineのやりとりを見せて、結局事実であると認めさせているので、文春で書かれていることは、少なくとも、実質的な実効的な演出案をほぼ完成させていたMIKIKO氏から見た事実としては、正しいのだろう。MIKIKO氏のプランは、IOC担当者の前でプレゼンしていたが、非常に高い評価を受け、佐々木氏に代わり、佐々木案をみたIOC委員は、MIKIKO案のほうがよいと、言い続けたという。500名ほどのスタッフを抱え、ほぼ資材なども発注していたMIKIKO案をなしにして、佐々木氏がその地位を乗っ取ったというのが、文春の分析である。
 驚くのは、開閉会式の総責任者は、佐々木氏で4代目だという点だ。初代山崎貴氏は、実物大のゴジラを登場させるなどという、非現実的な案ばかりだすので交代、二代目野村萬斎氏も、「茶室が空を飛ぶ」などという空想的な案ばかりで、森氏が交代させ、そして、3代目がMIKIKO氏で、ここで現実的で高い評価をえたプランが進行していったというのだ。ところが、彼女の右腕といわれた菅野薫氏が、パワハラ疑惑で懲戒処分を受けて外され、そこに佐々木氏が加わったという。そして、line事件は、その2カ月後に起きている。そして、その直後に、コロナ対策の責任者に佐々木氏がなり、その条件として、式典を全部自分の案でやりたいという条件をだし、MIKIKO案を無視しながら、自分の案をつくっていく。ところが、IOCの評価が低いので、MIKIKO案をパクッたというような分析になっているが、とにかく、干されてしまったMIKIKO氏は結局、辞任せざるをえなくなる。MIKIKO案が完全になくなることによって、500名のスタッフと資材など、50億の無駄が生じたと書かれている。そして、その後主立った女声スタッフは全員やめてしまう。(文春は「排除」と表現)
 佐々木氏は、文春の取材に、渡辺直美をかわいく見せる案だったと弁解しているが、結局、文春が発売されるに及んで、辞任を決意せざるをえなかったのだろう。
 新聞記事などを読んで、予想していたこととは多少違う部分は、文春で補った。
 この式典演出のごたごたを見ると、森会長や武藤事務総長が、いかに、適切なリーダーシップを発揮していないかが、切実に感じられる。4人も責任者が代わり、そして、4人目も辞任してしまった。4人目の佐々木氏のつくった案は、どのようなものか、もちろんわからないが、文春によれば、IOCの担当者の評価が非常に低いという。それを、佐々木氏が辞任したあとの責任者がそのまま継承することは、まずできないだろう。とすると、MIKIKO氏を説得して、案とともに復活させるのだろうか。橋本会長は、おそらく、その線を考えるだろう。私は、MIKIKO氏という人は、今回の件で初めて知ったくらいなので、引き受けるかどうかはわからないが、契約解除してしまった元のスタッフを呼び戻すことなどできないだろう。当然、別の予定を組み込んでいるだろうから。そういう意味で、引き受けないだろうし、引き受けても、当初のプランをそのまま実現することは難しいだろう。
 しかし、5代目を新たに決めて、間に合うわけもない。
 結局、オリンピックは、中止せざるをえないのではないか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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