総務省接待問題 山田真貴子とは何者か

 菅首相長男による総務省官僚接待問題は、当初予想されたよりは、ずっと長引き、深刻な度合いを強めている。現在は、内閣広報官の山田真貴子氏の問題に焦点が移っているように見える。山田氏の場合は、長男との関係よりは、直接的に菅首相との関係という点において問題が深いように思われる。別に汚職とかそういうレベルではないが。
 私が、名前はともかく、山田氏の存在に強く印象づけられたのは、首相の記者会見を仕切っている姿だった。首相の当初の説明が終わって、記者からの質問になったときに、山田氏がすべて、記者の所属名と名前を言った上で、質問者を指定したのである。そんなやり方を、私は初めてみた。普通は、「最初に所属と名前をいってから質問をしてください」というものだ。だから、強烈な印象だったのである。「このひとは、会見に出ている記者の所属と名前を全部知っているのか」という驚きだ。もちろん、全員の名前を知っているのか、あるいは、知っている人と知らない人がいるのか、それはわからない。全員知っているとすれば、内閣広報官が、記者会見に臨む記者たちを全員掌握しているということになる。すごい、というよりは恐ろしいという感じだ。もちろん、記者クラブは決まった部屋をもっていて、そこに詰めている記者は、決まっているわけだから、知っていてもおかしくはないが、普段から話したり、あるいは飲み会をもったりしていなければ、全員の名前は、記者会見でとっさに指名するほどに記憶しないのではないだろうか。全員は知っていないとすれば、記者会見で指名してもらえるのは、名前を覚えてもらっている記者だけだということになる。それはそれで言論統制だ。とにかく、短い質問時間しかなかったが、山田氏が指名した記者は、全員所属と名前を、山田氏が言っていた。そして、「時間です」と言って、さっさと終りにしてしまう、その冷淡というか、冷静なやり方にも驚いたものだ。

 そして、いろいろ報道されるなかで、首相の記者会見は、予め質問をださせ、予め回答を文章で用意していて、首相はそれを読み上げるだけということが指摘されている。
 しかし、広報官がしきりを間違えれば、予想外の質問が出てくる可能性もある。そこで山田氏が活躍しているというわけだ。予め、回答する質問を決めておき、その質問をした記者がだれであるかを、把握していて、そういう予定された人だけを、山田氏が確実に指名しているということなのだ。これでは、記者会見など、ほとんど意味がないといえるようなものになってしまう。そういうことに、抵抗しない記者たちも情けないとは思うが、抵抗したら締め出されるのだろう。NHKの有馬キャスターが、予定外の質問をしたら、「答えられないこともある」と首相にすごまれて、結果、キャスターを外されたとも言われているわけだ。そして、NHKに番組のあと抗議をしたのが、山田氏であるとも言われている。つまり、首相が一国のリーダーとしての政策的能力をもっていなくても、記者会見を乗り切れるというわけだ。それなら、政策能力のない人が首相になっても、少しもおかしくない。
 こうして日本の政治家たちの政策力量がどんどん低下していることが、大きな問題である。政治家たちの政策力量が低いと、新型コロナウィルス対策のまずさとして表れてしまう。その失敗によって、どれだけ日本社会は損失を被ったろうか。安倍首相時代に、拉致問題も、北方領土問題も、まったく進展がなかったことなども、安倍晋三氏の本当の力量が試される場だったから、何も進まなかったのであろう。
 
 話題が多少飛ぶが、官僚たちの過重労働問題が議論されている。国会審議で、大臣たちが答弁を行うが、その内容を決めているのは、大臣たちではなく、官僚なのだ。そこで、官僚たちの担当者が、まず国会で質問する議員に、その質問内容を受け取る。この受け取り方も多様で、かなり苦労する場合もあるようだ。一番の苦労は、ぎりぎりまで出ないということのようだ。出るまで、じっと待っていなければならない。そして、質問を集めると、答弁書の作成にかかるわけだが、これは、過去の政策や現在の法律、そして、政府の施策等を参照しつつ、間違いがなく、かつトラブルにならないようにしなければならない。そうして、答弁内容ができて、大臣に示すということが、官僚たちに求められるのだ。厳密にいえば、これは、官僚の義務ではない。答弁するのは大臣なのだし、政策は与党が決めるのだから、官僚は、与党からの問い合わせがあれば、それに答えていけばよいだけの話だ。決まったことを実行するのが、行政官庁の役割なのだ。しかし、実際には、そういうことでは、大臣は答弁ができないのだ。これが、日本の政治家の劣化と言われるものだ。つまり、政策に通暁していることが、大臣の資質であると考えられていないわけである。政策に精通することは、たいへんな勉強が必要だ。しかし、パソコンをいじったことがないようなおじちゃんが、IT担当大臣になって、「適材適所」だなどと、首相からお墨付きがでるような実態なのだ。とすれば、大臣が国会で返答に詰まってしまったら、官庁として実施したい施策が台無しになってしまう。それを防ぐために、官僚たちは、なんとしても、どんなに無理な労働を重ねても、質問とりと回答作りをせざるをえないのである。IT技術を駆使すれば、過重労働をかなり軽減できると思うが、基本的には、政治家が政策を自分たちで整合的に作れる能力をもつことが、絶対に必要なのだと思う。
 ところが、総理大臣自身が、想定された質疑応答しか応じないというのが、今の日本の現状だということを、国民はもっと切実に意識する必要がある。山田真貴子氏は、そういう「政治家の実態」が存在していることを、象徴的に表現している存在なのである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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