オリンピック準備のずぶずぶと世論操作の強化

 日本人は組織力があり、大きな大会の開催は得意だと、みずから誇っているようなところがあるが、現在のオリンピック開催への準備は、あまりに酷い。外国からも、それをあからさまに指摘されている始末である。バイデンアメリカ大統領やファウチ新型コロナウィルス対策責任者は、科学的な判断が必要だと表明して、暗に、現在の日本の準備が、科学的なものになっていないことを批判している。
 またオーストラリアの感染専門家は、4点の問題を指摘している。
 ①日本で流行の第3波が続き多数の陽性患者が出ている②検査比率が主要国中では著しく低い③感染防止対策の多くが国民の自主性に任されている④ワクチン接種が始まっていない(「公衆衛生の論理無視」豪の疫学専門家、東京五輪に懸念 森氏発言も批判 毎日新聞2021.2.26)
 海外の専門家には、東京オリンピックの感染対策は、まったく不合格なのである。具体的にみてみよう。

 
 聖火リレーについて、毎日新聞によると(2021.2.27)岡田輝彦・聖火リレー室長は、「観覧自粛をお願いするというスタンスはとっていない。密を回避できるのであれば、ぜひ沿道で応援していただきたい」と述べているそうだ。そして、観覧対策として、観覧を居住する都道府県以外は控え、インターネットでのライブ視聴を呼びかけるのだそうだ。これでは、どうすればいいのか、さっぱりわからない。聖火リレーには、オリンピック機運の盛り上げと、スポンサー対応というふたつの目的があるようだ。「密を回避できるのならば、ぜひ沿道で応援を」というのは、そもそも両立できない要請である。聖火リレーのために沿道で応援を求めたら、かならず密になるだろうし、密を避けるためには、沿道に来させないことが必要である。
 また、箱根駅伝を参考にしたいようだが、箱根駅伝は、最初から最後までテレビ中継が行われる。そして、休み中だから、かなり高い視聴率が保証されているだろう。したがって、スポンサー効果も、テレビによって可能になるが、まさか聖火リレーをテレビ中継することはないだろうから、やはり沿道にたくさんひとがでないと、スポンサーにとっても宣伝効果はあまりないはずである。したがって、組織委員会としては、できるだけ多数の観覧を求めている。しかし、それは密にならざるをえないのである。
 聖火リレーは、ヒトラー政権によるベルリンオリンピックから始まった、そして、それはその後の侵略政策は密接につながっていたということが、明らかになっている。そのような歴史を考えれば、感染対策としてやめるほうがいいのではないか。
 島根県は、聖火リレー対策費として1700万円計上しているそうだが、やめれば、それをコロナ対策費用として転用できるはずである。その方がずっとよい。
 
 感染対策について、プレーブックなるものが、公表された。これは、初版ということで、3版まででるそうだが、現在の東京オリンピック組織委員会のホームページには、英文のみが掲載され、日本語訳は公表されておらず、メディアの要約で読むしかない。英語の原文はかなりの量なので、普通のひとは読まないだろう。日本の選手は読む必要がないということなのだろうか。
 とりあえず、そのひとつを読んでみた。30ページくらいある英文だが、ほとんどは柱となることの繰り返しである。(The Playbook Press    Your Guide to a safe and successful Games)
 
プレーブックの内容の柱となる部分は以下の通りだ。
・最低限の身体的接触
 身体接触を最低限にする
 ハグや握手などの身体接触を避ける
 二メートルの距離
 混雑したなかにいかない
 プレーブックに従う交通利用、公共交通機関を利用しない
 予め提出した行動計画に従う
・検査、追跡、隔離
 日本のCOCOAをダウンロードして活用する
 出発前に陰性証明、到着後も検査 
 日本での最初の14日間の行動制限
 試合中の検査
 いかなる徴候でも検査して隔離
・衛生を考慮する
 手洗い
 マスク
 くしゃみするときはティシュー
 応援では声をださない
 物を共用しない
 換気をよくする
 
以上の内容が繰り返し書かれているだけである。
 これで十分な対応が取られると思うだろうか。そもそも、重要なCOCOAについては、重要なバグがあり、しかも、それが3カ月ほど放置されていたことが明らかになったのが、つい最近である。そして、日本人の間ですら、あまり普及しておらず、しかも、あまり役に立たないと言われているものだ。別のアプリを、莫大な費用を投じて、大至急開発にかかっているという話もあるが、実際のところはわからない。とにかく、テニスの全豪オープンでとられた対応と比較すれば、そのずぶずぶさは、明らかである。
 海外メディアの紹介でも一応確認しておこう。
 BBCニュースの要約で一部みておく。(https://www.bbc.com/japanese/55929577)
 
 「日本に到着してから14日間は、「観光地や商店、レストラン、バー、スポーツジムを訪れてはならない」としている。
 さらに、「公式の競技関係会場とその他の限られた場所に行く時しか宿泊施設を出てはならない」と定めている。
 大会参加者と日本国民の安全確保を目標に掲げているプレイブックだが、リスクを「完全に取り除く」ことはできないとし、参加者は「自己責任で」参加することになると強調している。
 参加者にはワクチン接種は義務付けないが、大会開幕前の4週間内に新型ウイルス検査で陰性と証明されることを義務付けている。大会期間中は、選手らは少なくとも4日に1回は検査を受ける。」
 
 第一文と第二文が既に矛盾している。14日間は外出禁止となっているのに、公式の会場とその他限られた場所以外は行ってはならないというのは、どちらが正しいのだろうか。第一文では、14日間を過ぎれば、外出が許可されるように読める。
 4週間前の検査で陰性ならばオーケーで、ワクチンも義務ではないとすれば、かなり多くの陽性者が含まれている可能性が否定できない。そして、「自己責任」だという意味が不明だが、選手は自己責任であるとしても、感染させられたひとも「自己責任」なのだろうか。日本国民はどうなるのか。
 選手が滞在中に陽性になると、隔離するというのだが、その施設はあいまいだ。だいたい、日本人の感染に関して、隔離施設を十分に用意しなかった東京都が、外国人のためには、十分な施設を用意するのだろうか。
 
 さて、もうひとつの動きとして重要なのが、メディアの「大会やるぞキャンペーン」である。
 まず、メディアの世論調査が変化している。以前の調査では、オリンピック開催について「開催、延期、中止」を選択するものだったが、現在では、「観客をいれて開催、制限して開催、無観客で開催、延期、中止」という選択になっている。つまり、延期・中止の意見を、開催を前提とする思考に誘導しているのである。当然、この結果は、延期、中止が以前の調査よりもずっと少なくなっている。世論調査の操作性を伺わせる、端的な例である。東京がオリンピック開催に立候補するかどうかという時点での世論調査でも、当初はずっと反対が多数だったのを、調査方式の変更や他の宣伝で、次第に賛成者を増やしていったことを思い出す。
 次に、ワクチンの接種報道である。ワクチンの入荷は決定的に遅れている。これまでの入荷を見ると、一週間に20万人分というペースである。これは4月の増産体制確立までは続くとすると、470万人の医療従事者の接種分まで、22週間かかることになる。5カ月かかるわけである。つまり、医療従事者を終えてから高齢者になるとすると、7月から。これが3600万人いるのだから、一般のひとたちは年内に可能かということになってしまう。もちろん、他のワクチンも入ってくるたろうし、ファイザーも増産体制ができるから、もっと早くなるとこは間違いないとしても、一般のひとたちを、望ましい形で接種が可能になるのは、絶対にオリンピック前ではない。そこで、ひとつのカテゴリーが終わるまえに、次のカテゴリーを始めるという計画に切り換えたようだ。つまり、まだまだ大量の医療従事者が残っている段階で、4月の12日から、高齢者の一部、といっても1%にも満たないひとに接種を開始するというのだ。5月には基礎疾患、介護施設、そして6月には、一般というように前倒しで実施していくのかも知れない。つまり、ワクチンが遅れていることを、目立たなくするための、見え透いた操作だ。ワクチンの遅れは、完全に政策的ミスによるものである。しかも、いくつものミスが重なっている。安倍内閣時代のワクチン軽視(海外での治験協力軽視と、自国開発の軽視)、菅内閣になってからの契約ミス、そして外交的ミス等々。
 にもかかわらず、オリンピック開催を旗印に、昨年の3月までのやりかたと同様に、対策をさぼることで、開催条件が整いつつあるという「印象操作」をしていることを、決して見間違いをしてはいけない。
 次に検査数の絞り込みだ。何度か書いたので、その点のみ指摘しておく。季節性の減少と、人々の努力による減少が進んでいることは間違いないが、検査を以前よりもずっと制限することで、陽性数が減少している部分があることは否定できない。
 そして、NHKのオリンピック番組放送中止である。オリンピックを開催することが、本当に可能なのか、何のために、というような検証番組を制作していて、ほぼ完成し、最終的な試写段階になっていたのに、上からの指示で放映中止となったと言われている。NHKには、良心的に番組をつくろうというひとたちがたくさんいる。それは、さまざまな番組でわかる。しかし、政権のやりかたに疑問を呈するような番組になると、そして、それはジャーナリズムの不可欠の姿勢であるのに、上層部がまったをかけることが少なくない。
 こうしたマスメディアが、オリンピックに否定的な意見を、どんどん肯定的なほうに「誘導」していることを、注視すべきであろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です