橋本聖子氏が東京オリンピック組織委員会会長に就任し、五輪担当大臣の後任が決まったあとも、ごたごたが続いている。それは、当初自民党を離党はしないと明言していたにもかかわらず、今日(2月19日)に突然離党の表明がなされたことである。これは、野党が疑問を呈したからだと言われている。そこで、今度は、議員辞職はしなくてもいいのか、という問題が生じてくるはずである。
当初、橋本氏は、会長になることを固辞していたと言われている。実際に、メディアのインタビューでも、そうした姿勢を表わしていた。それは、報道によれば、ふたつ理由があったとされる。ひとつは、経済的問題であり、ひとつは過去のセクハラ疑惑である。経済的問題とは、橋本氏は子どもが多数おり、子育ての費用がかなりかかるから、大臣を辞めるだけならまだしも、議員を辞めるとなると、とても会長としての給与ではやっていけないという危惧だったそうだ。確かに子どもが6名(?)もいれば、かなりの経済的負担だろう。しかし、それは、保障するから、というような約束がなされたようだ。真相はわからないが、長くても今年で廃止される組織委員会だから、その後の生活をきちんと保障するということだろう。会長退任のあとは、また何かの大臣にするとか、とにかく、議員を辞める必要はないという保障をしたのだろう。
ここで、問題が起きるのは、橋本氏は、参議院の比例代表によって、当選していることだ。過去比例で当選して、党を辞めたり、あるいは他党に移籍したりした議員が何人もいる。そして、その度に、**党として当選したのだから、その党籍を離れたら、議員を失う、その党の次の名簿のひとを繰り上げ当選させるのが、民主主義的原則なのではないか、という議論が起きた。そして、さまざまな議論の末、現在国会法109条の2が存在しているのである。長いがそのまま引用しておく。
第百九条の二 衆議院の比例代表選出議員が、議員となつた日以後において、当該議員が衆議院名簿登載者(公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第八十六条の二第一項に規定する衆議院名簿登載者をいう。以下この項において同じ。)であつた衆議院名簿届出政党等(同条第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下この項において同じ。)以外の政党その他の政治団体で、当該議員が選出された選挙における衆議院名簿届出政党等であるもの(当該議員が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等(当該衆議院名簿届出政党等に係る合併又は分割(二以上の政党その他の政治団体の設立を目的として一の政党その他の政治団体が解散し、当該二以上の政党その他の政治団体が設立されることをいう。次項において同じ。)が行われた場合における当該合併後に存続する政党その他の政治団体若しくは当該合併により設立された政党その他の政治団体又は当該分割により設立された政党その他の政治団体を含む。)を含む二以上の政党その他の政治団体の合併により当該合併後に存続するものを除く。)に所属する者となつたとき(議員となつた日において所属する者である場合を含む。)は、退職者となる。
② 参議院の比例代表選出議員が、議員となつた日以後において、当該議員が参議院名簿登載者(公職選挙法第八十六条の三第一項に規定する参議院名簿登載者をいう。以下この項において同じ。)であつた参議院名簿届出政党等(同条第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。以下この項において同じ。)以外の政党その他の政治団体で、当該議員が選出された選挙における参議院名簿届出政党等であるもの(当該議員が参議院名簿登載者であつた参議院名簿届出政党等(当該参議院名簿届出政党等に係る合併又は分割が行われた場合における当該合併後に存続する政党その他の政治団体若しくは当該合併により設立された政党その他の政治団体又は当該分割により設立された政党その他の政治団体を含む。)を含む二以上の政党その他の政治団体の合併により当該合併後に存続するものを除く。)に所属する者となつたとき(議員となつた日において所属する者である場合を含む。)は、退職者となる。
この条文の結論は、比例代表で当選したひとが、選挙の時点で既に存在していた他の政党に移籍した場合には、議員の資格を失うが、単に、党を離党したり、除名されたり、あるいは、新党結成に参加したり、当選当時存在しなかった政党に移籍した場合には、それをもって議員の資格を失うことはない、と規定しているということだ。
しかし、当然議論はある。議員にとっては、党を離党したからといって、辞職せざるをえないとすれば、収入が途絶えるわけだから、議員としてはとどまれるほうがいいに決まっている。だが、選んだ国民にとってみれば、ある政党を選択したのだから、政党にとどまっているひとを選んだのであって、党を離れれば、それ人を支持したのではないことになるだろう。比例代表制という制度原則からすれば、国民から見たあり方が正しいはずである。だが、こうした議員や選挙の制度は、多くが議員の側の利害から作られているといわざるをえない。これも、そのひとつだ。もっとも、機械的に離党=議員辞職とすると、政党そのものが不当な扱いとして、ある議員を除名した場合、その議員は守られないことになる。そういう不利益を生じさせていいのか、という問題意識があることも事実のようだ。
だが、やはり、制度原則のほうが優先されるべきではないかと、私は思うのである。
そして、もうひとつの問題がある。それは、そもそも、オリンピック組織委員会の会長という仕事と、国会議員としての仕事とが両立するのかという問題である。
テレビに出演しているコメンテイターのなかには、今の時点では、重要なことはほとんど決まっているので、それほどたいへんなことはないなどと語っているひともいるが、それはとんでもない間違いだろう。そもそも、オリンピックをやるのかどうか、やるとしたら、観客はどうするのか、選手や役員、報道陣の扱いをどうするのか、また、やらないことにしたら、膨大な事後処理を決め、そして、実行しなければならない。会長がリーダーシップを取らなければ、必ずボロが多数でるような状況になるだろう。いまですら、選手の守るべきガイドラインなるパンフが作成されているというが、まったくリアリティのない内容だという批判もある。つまり、コロナ禍という前例のない事態のなかで、どんどん重要決定事項が吹き出てくるのである。したがって、会長職をまっとうにこなそうとすれば、到底他の職務と両立できるとは思えないのだ。もし、できるとしたら、それはお飾りの会長であるということだ。橋本氏はお飾りなのか。
お飾りではないとすれば、国会議員の職務は、ほとんど放棄状態になるだろう。そういうことは、許されるのたろうか。それこそ、国会議員を選挙でえらんでいる国民を愚弄するものであるように思われる。
正直いって、橋本氏は、こんな損な役割を押しつけられて、気の毒だと思う。しかし、引き受けた以上、国民が納得のいく形での仕事をすべきだろう。